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「さぁて野郎共ッ!! 入港準備はできてるかぁ!!」
――おぉおおおー!!
マクベルの指揮で、強欲船の船員が雄叫びを上げる。
「こんなに人が乗ってたんだな」
「それはそうですよ。むしろこの規模の船では少ない方です」
ダグが真人の言葉に返す。
「なぁ。空賊団ってよ、無法者なんだろ」
「ええ、まぁ」
「街に普通に出入りできるものなのか?」
「もちろん、できますよ。表立って港に船舶はできませんがね。私ども強欲船は、これでもそこそこ有名ですから」
「マーくんはコルミド港に着いたらどうする?」
いつの間にかリリアも真人の横にいた。
「マーくんて俺のことか?」
「うん! マサトだから、マーくん!」
会って間もないが、どんどんと距離を詰めてくるリリアだ。
「キャプテンとダグはどうせいつもの店に行くし、サラは食料の買い出しだし、私は暇なんだよー」
オレンジの髪を左右にぶらぶらさせるリリア。
お出掛け用なのか、三つ編みに縛っている。
「滞在期間はまる一日です。マサトさんにとって、この世界の初めての街ですし、ゆっくり羽を伸ばしてきてください」
「と、言われてもな……」
真人は、休日というものをほとんど経験をしたことがない。
趣味もなければ、やりたいこともない。
ただ、戦うことでしか存在の意義を見出せなかった。
「なら! 私とデートをしよう!」
元気よく右手を上げるリリアだった。
○
「おいリリア! これなんだこれ!」
「お、マーくんお目が高いねぇ。それは、ここをこうしてこうすると…」
コルミド港。
西パレス共和国と、周辺諸国の出入り口を担うこの街は年中商人が出入りしており活気盛んである。
「おぉー! すげー! 踊るぞこの熊!」
「自動人形っていうんだよー。東方の国で盛んらしいんだけど、こういう小さい奴はいろんなとこで売られてるんだ」
「なぁリリア! あれはなんだ!?」
「もー、マーくん忙しないなぁ」
真人とリリアは、表通りで開かれていたバザーに来ていた。
先ほどから、目に映るもの興味を引かれたもの全てに食いついては、リリアに解説を求める真人であった。
「あれはコルミド港名物、肉巻きスティックだね!」
「食べようぜリリア! 奢ってくれ!」
「え、遠慮をしらないね。マーくん。まぁいいでしょう!新人くんへのサービスだ!」
先輩風を吹かせるリリア。
年下の子に奢ってもらうことに抵抗のない真人だ。
彼は、今までこうして外で誰かと一緒に遊ぶこともなかった。
こうしているのが、楽しくてしょうがない。
「悪いな、先輩! うはは! 不味いなこれ!」
「外れを引いたね! この肉巻きは、そこらへんの商人や冒険者から、その日買い取ったモンスターの謎肉を使ってるから、いつ食べても味が変わるんよ!」
「へー、面白いな」
謎肉巻きを食べながら、真人とリリアは海の見えるベンチに腰をかけた。
「モンスターって強いのか?」
「ま、いろいろだねぇ。強い奴もいるし、弱い奴もいるし、飛ぶ奴もいれば、泳ぐ奴もいるしね」
「ふーん。なぁリリア」
「どしたマーくん」
謎肉を食べきる真人。
「お前らは、悪い奴なのか?」
「そりゃ、泣く子も大泣きする空賊団ですから! 悪の中の悪だよ」
リリアも、謎肉をぺろりと平らげた。
「金銀財宝お宝があれば奪い取り! 落ちてるものが金になるなら売りさばく! 欲しいものがあるならその手で摑み取れ!」
ぐっと、肉巻きを包んでいた紙をくしゃっとさせ空に手を伸ばす。
「そのわりに、街で普通に買物してるじゃねーか。奪えばいいだろ」
「んー。そういうんじゃないんだなー」
ばっとベンチから立ち上がり、真人を見る。
「欲しいものってのは、お金で手に入るようなものじゃあないんだよ。譲れないものっていうのかな」
「譲れない、もの」
リリアの大きな目に、真人は視線が離れない。
「そう! 譲れないもの!」
「そう、か」
「なんかいい話してるみたいだけど、マサトは売られそうになったこと忘れたの?」
真人の背後に、サラが立っていた。
メガネをかけており、船の雰囲気とはまた違った様子だ。
「サラちゃん! いつの間に!」
「アンタ達が肉巻きスティック食べ終わるくらいから後ろにいたわよ」
「こ、声かければいいじゃねーか」
「……ねぇマサト」
「なんだよ」
サラは、真剣な表情で真人を見た。
「私たちは、悪よ。人も売るし、時には殺しもする。どれだけ格好つけても、空賊はどこまでいっても空賊よ」
「悪は、嫌いだ」
「なら、船をここでおりなさい。お金は、ある程度渡してあげる」
「えぇー、せっかくの後輩ゲットのチャンスがぁ……」
リリアは空気を読まなかった。
「ダグとキャプテンは、あなたを入団させる気まんまんだけど。それは、マサトに力があったから」
「だろうな」
「でなきゃ、マサトはあのまま簀巻きで売り飛ばす予定だったし、そういう風に渡航者を売り飛ばすこともあったわ」
「なにが言いたい」
サラは、真人に告げる。
「半端な覚悟で空に飛ぶなら、ここで別れた方がお互いのためって言いたいの」
ふぅ、とため息を吐く。
サラは、さらに続ける。
「マサトがどれだけ強くても、キャプテンの指示に従えない乗組員は、全員を殺すことになる」
「サラちゃん…」
「ちょうどいいわ。空賊の現実ってやつを教えてあげる。付いて来なさい」
真人は、ベンチから腰を上げた。