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「出来合いのもので悪いわね。明日のコルミド港で買込むつもりだったから、食料も少ないのよ」
サラがそう言いながら真人の前に料理を置く。
野菜と香辛料をまぶした肉を混ぜて炒めただけのものに、出汁を使った温かいスープである。
「……うまい」
「そう? ありがと」
サラは、満更でもなさそうに微笑んだ。
小柄で、小動物のような愛くるしい見た目だが、微笑む表情はどこか大人びていた。
長い黒髪を後ろで結び、薄ピンク色のエプロンをしているサラ。
真人と向かい合って座っている。
頬杖をついて真人が食べる姿を見る彼女には、どこか母性を感じさせた。
「ちょ、なんで泣いてるのよ」
「え、あ」
真人は静かに泣いていた。
自分でも、少し驚いた。
「ほら、ハンカチ」
「悪い…えっと…」
「サラよ。呼び捨てでいいわ。私もマサトのこと呼び捨てで呼ぶから。それと、こういうときはお礼を言うものよ」
「そうだな、ありがとう。サラ」
サラは、素直な返答をする真人が意外だった。
「皮肉しか言えない人かと思ってた」
「俺の話か? まぁ、素直じゃないとはよく言われたよ。昔からな」
「見るからにガキっぽいもんね。マサト」
お前に言われたくねーよ。
とは思ったが、こんな時間に嫌な顔せずご飯を作って貰った上、ハンカチまで貸してくれたサラと口喧嘩する気も起きなかった。
ちなみに他三名は、真人仮入団で話がまとまった後解散し、各々就寝していた。
「それにしても、驚いたわ。マサトって強いのね」
「はっ! そりゃあな。常勝無敗の英雄様だよ俺は」
サラは笑った。
けたけたと、見た目相応の、可愛らしい笑顔だ。
「自分で自分を英雄って名乗る人初めて見たわ」
サラの笑顔に、真人は少し照れ臭くなった。
「うるせ」
そう返すのが、精一杯であった。
○
「ダグ、コルミド港への入船許可は」
「ばっちりです、キャップ。いつも通りの裏口入港です」
翌日、快晴。
真人を乗せた強欲船は、当初の予定通りの航路を辿っていた。
真人、サラ、リリアはデッキで外の景色を眺めていた。
雲すら下に位置する景色は、なかなかに壮大だ。
「マサト、その格好で街に行く気?」
サラにそう言われ、自分の格好を見る。
真っ白な囚人服。
「裸じゃなきゃいいだろ」
「あのね。仮とはいえマサトもこの強欲船の団員なの。そんな真っ白な目立つ格好ダメよ」
サラが真人の胸に指を突き立てる。
「おー? なんか二人とも仲良くなったん?」
それを見ていたリリアが、目をパチクリさせた。
「と、とにかく。はいこれ。普通の冒険者っぽい格好見繕ったから。着替えてきて」
サラが小さい背中をさらに小さくさせた。
リリアに指摘されて、少し照れたのだ。
「そか。わかったよ、ありがとな」
そう言って、サラの頭をポンとする。
「子供扱いすなっ!」
わざとである。
「サラちゃん可愛いー! 私もポンポンするー!」
「私で遊ぶなー!」
そんな三人を操舵席から見るダグとマクベル。
「なぁダグ」
「なんでしょうキャップ」
「…若いっていいなぁ」
「私もまだ二十歳ですので、あちらの仲間です」