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「ダウト」
「もー! なんでわかるのさ!」
「リリア、顔に出過ぎ」
真人とマクベルを船外に転移させた後、手持ち無沙汰になった三名はリリアの提案でトランプをしていた。
「ダグはあの人とキャプテン、どっちが勝つと思う?」
「それはキャップでしょう。あの人がどれだけ人外レベルか知りませんが、渡航者が神器持ちのキャップにはどうあっても勝てませんよ」
サラは、つまらなそうな顔だ。
「ああなったキャプテンはどうせ、拳を交えたこいつは今日から俺のクルーだー、とかなんとか言いそう」
「いいじゃないですか。キャップと向かい合っても一歩も引かない姿勢。嫌いじゃないですよ。ダウトです」
リリアが出した札をダグが指差す。
「なんでよぉー! なんで二人して私をいじめるのよぉー!」
「リリアはどう思うのよ」
「そーだねー。最初は売り飛ばすつもりだったわけだし、まさかあんな目つきが悪いとは思わなかったし、うーん、クルーになったら楽しそう!」
「前後の理論が破綻してますねリリア」
賛同的な二人を他所に、サラはさらにほっぺを膨らます。
「あんたらはいいわよ。船の財布と食料を管理してる身にもなってよ。あいつがもしここで乗船したら、明日からのご飯代だってタダじゃないんだから」
「泣く子も大泣きする天下の空賊団が、ケチくさい主婦みたいなこと言うなー!」
叫ぶリリアの顔を、がし、と鷲掴みにするサラ。
「一番食費と雑費がかかる奴が調子に乗るな」
「痛い痛いイタイよー」
『姐御たち! た、大変です! キャプテン、キャプテンが!』
哨戒の船員から、作戦室に緊急連絡が入った。
「デッキに向かいましょう! まさかと思いますが…」
「そのまさか、かもね」
○
「まさか、キャプテン! 負けたんか!」
真人に担がれて、額から血を流すマクベル。
「リリア。俺にだってプライドがある。そうはっきりと言うな」
「負け犬キャプテン! 負け犬キャプテン! かっこ悪いぞ!」
容赦の無いリリアである。
「おい。ここまで運んでやったんだ。俺から剥いだもん全部返せ」
「わかったわかった。サラ、頼む」
「了解。負け犬キャプテン」
「ぐ……」
威勢良く飛び出して行った手前、キャプテンとしての沽券が危ういマクベルであった。
「まさかのまさかですね。キャップ。まぁ、たいした怪我をしてないようでなによりです」
ダグが真人からマクベルを受け取る。
「面目ないな、ダグ」
「いやいや、ここは渡航者さん……マサトさんを讃えるべきでしょう」
ダグは、真人をまじまじ見る。
「なんだよ」
戦闘フォームを解除すると、そく全裸になるため依然そのままの格好だ。
「それで、マサトさんはこれからどうするんです? 身寄りもなければ、お金もない、行くべき場所さえないでしょう」
考えていなかった。
「それは……あれだ」
「今から考える、というところでしょう」
「ぐ……」
先ほどのマクベルと似たような反応の真人。
存外、似た者同士なのかもしれない。
「キャップとの空中戦を制するのは、まぐれの一言では済まされません。そんな力を持ったあなたを人買いに売るのはもったいない」
「そもそも、お前らがまだそのつもりならこの船ごとぶっ飛ばす」
三白眼を光らせる真人。
「でしょうね。ちなみに、言っても信じてもらえるかわかりませんが、キャップは作戦室であなたを煽った時から、我々のクルーに入れる気満々だったんですよ」
真人は、先ほどの戦闘を思い出す。
確かにマクベルが本気で殺す気がなかったのは知っている。
だから、こちらも殺すつもりは毛頭なかった。
「で、ここは間をとって、体験入団するのはどうでしょう」
「体験入団?」
ダグは、声高に話を続ける。
「えぇ、別に我々の命令に従う必要はありません。マサトさんもこちらの世界に来たばかりでしょう。この船で、世界をじっくり見て回るのも悪くない話では?」
「おい、ダグ。いつからこの船の決定権がお前に移ったんだ? 神器ぶつけんぞ? お?」
「負け犬キャプテンは黙っていてください」
マクベルの扱いが地に落ち始めた。
「ほーらキャプテン、こっちこい、こっちこい」
リリアが犬を呼ぶように手をぱんぱんしている。
「リリア、お前後で覚えてろよ」
「なにやってるのよ……ほら持って来たわ」
サラが、丁寧に畳まれた真人の服を持ってきた。
ダグが、真人に最後の一押しをする。
「今入団するなら、シャワーとサラのお手製ご飯が付いてきます」
「その話乗ったァ!!」
食い気味に言う真人であった。
どれだけの戦闘力を誇ろうとも、衣食住が伴わない生活は耐えられないのである。