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月夜に照らされて、獣が二匹空に舞っていた。
「なかなかやるじゃないかッ! マサト!!」
マクベルは風の魔法の使い手である。
その力を足と背中に集中させ、まるで鳥のように自在に空中を闊歩していた。
「ちょこまかとォ!!」
真人の戦闘フォームには、基本的に飛行機能はついていない。
背中、肘からロケットのようにエネルギーを噴射して無理矢理飛んでいた。
機動性では明らかにマクベルが優勢である。
「ははは! 空に猪がいるようだ! これは珍しい!」
「その余裕をなくしてやるよ!」
真人は、推進力として使っていたエネルギーを一度切った。
そして、足の裏に全力のエネルギーを込め、爆発させる!
その速度はとても常人の目が追える速さではない。
マクベルは一瞬真人を見失うが、この空中戦。
相手がどこを位置取りたいかは簡単に予想がつく。
「上か!」
だが。
すでに真人はマクベルの目の前に来ていた。
「捕まえたぞコラァ!!」
「ぬぅ!!」
上に超速度で移動したあと、間髪入れずにもう一度同じようにマクベルに向かって飛んだのである。
その勢いのまま、マクベルの両肩をがっしりと掴んだ真人は勢いを殺すことなく、まっさかさまに落下する。
「存外、場慣れしているとは本当のようだな」
しかし、マクベルはこの状況でも焦る様子はなかった。
「殴らずに、俺を補足することを選んだのは好手だ」
マクベルは、足場のない空であれば、どんな一撃でもいなせる自信があった。
「そりゃどうも! このまま地面とキスさせてやるよ!」
「敗因は、甘くみたことだな」
「謙虚じゃないか! 今、参ったと言えば止まってやるぞ!」
「お前の話さ! 神の雷!!」
――その瞬間、夜の闇を切り裂くように、マクベルの手から光が放たれる!
光を直視してしまった真人の手が緩む。
その一瞬を待っていたマクベルは、風魔法を展開し、真人との距離を置く。
マクベルが手にしているのは、柄だった。
ただの柄ではなく、黄金に輝く柄。
その先から、雷が巨大なハンマーを形取っている。
「しかと受けよ!! 神の一撃だッ!!」
黄金の柄を振り抜くマクベル。
雷のハンマーは、真人の体を容赦無く打ち抜く!
悲鳴もなく、真人は宙に舞った。
そのまま落下しそうなところをマクベルは風魔法で真人を優しく包み込む。
自分の側まで運び、ぐったりしている真人を見る。
戦い慣れもしており、威勢もいい。
多少跳ねっ返りが強いが、それもまた面白いじゃないか。
実に空賊向けの人種だ。
「思いがけず、こいつはいい拾い物だったな」
誰に話しかけるわけでもなく、満足そうにマクベルは呟くと。
「こいつじゃなくて、マサトだっつってんだろ」
「んなッ!?」
真人は、渾身の勢いで頭突きを繰り出す!
完全に虚を突かれたマクベルは、いなす事もできずモロにその一撃を受けた。