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世界を救った英雄は、異世界で略奪行為に勤しみます!  作者: nomi
栄光の空賊団と野良猫
2/28

1

 

「キャプテーン、こいつどうします?」


 西パレス共和国とエスティニカ皇国の国境沿い。

 高度一万メートルを悠々と渡る()()()()

 空船だ。

 さらに正しく言えば、その船は空賊船であった。

 船の中、木箱や樽が散乱している荷物庫にて、活発そうな少女と体格の良い男。

 そして簀巻(すま)きにされた青年が横たわっていた。


「そーさなぁ。身包み剥いだし、人買いにでも売っ払うか」

「若い男の相場いくらくらいでしたっけ。こいつが着てた服の方が高かったらマジうけるんですけど!」


 ぷすーと笑う少女。

 青年は気絶しているようだ。


「はっはっは、まぁ渡航者が持って来るもんは総じて高く売れるからな。さもあらん」


 キャプテンと呼ばれている男は、目の前で簀巻きになっている青年の顔を一瞥すると


「黒髪。田舎臭そうな顔だな。ま、若いし上手くすれば東方の田舎貴族に買われるかもな」


 それを聞いた少女はけたけたと笑った。


「キャプテンそれ男娼として買われるやつじゃないですかーやだー」

「陽の当たらない場所で、延々と土を掘り返す奴隷よりはマシだろ」

「それもそーですねぇ」


 見ず知らず――いや、先ほど商談の帰り道で、たまたま拾った戦利品である青年の行く末を、二人は嘲笑うように会話をする。

 二人は正しく空賊であるのだ。


「さて、リリア。これ以上こいつを見てても一銭の得にもならねぇ。とっとと仕事に戻れ」

「あいあいさー!」


 リリアは元気よく返事をし、駆け足で持ち場へと戻る。


 青年――神崎真人を乗せたまま、船はゆっくりと進む。



 ○



『宣言しておいてやる。私が死んだあと、次に殺されるのはお前だ英雄(ヒーロー)

『…あぁ。かもな』


『なら何故戦う?血反吐を吐き、ボロボロになっても、何故立ち上がる?』

『そりゃお前。俺がヒーローで、お前が悪の親玉だからだろう』


『くだらん!実にくだらんなぁ。まるで舞台で台本を読むピエロじゃあないかお前は』


 わかってるよ。そんなこと。


『だとしてもだ。お前がしてきたことで、死んだ人たちの分くらいは、お前を殴らないと俺の気がすまねぇんだ』



「んあ!」


 びくっと、震えるように真人の意識は戻ってきた。

 辺りは暗闇に包まれている。


 窓もなく、灯もない部屋。


 現状が掴めなかった。

 あのクソジジィ、殺す殺す詐欺か。


 しかも、なにやらチクチクする。

 簀巻きだ。

 おいこれ俺今真っ裸じゃねーのか。

 そりゃチクチクするわ。


「いい度胸してるじゃねーかクソジジィ!」


 この後に及んで羞恥責めでもするつもりかあの野郎!

 なにより。

 なにより、だ。


 安全制御装置(セーフティ)抜きで俺を放置しやがるとは。


「殺す機会をみすみす捨てたこと後悔しやがれッ!」


 真人は感情のままに慟哭する。

 それが、彼が世界を救ってきた力そのものなのである。


想いは言葉に(オーバー)言葉は力に(ブレイク)!!」


 発した言葉は、凄まじいエネルギーとなって真人の身体を包み込む。

 その闇に溶け込むように、黒く、禍々しい鎧となって、想いは顕現した。

 体を縛っていた簀巻きごと吹き飛ばし、全身をその力の塊で身に纏った真人は、臨戦体制と移る。


 が、しかし。

 体を起こしたことで、自分のいる場所に違和感を覚える。


「もー、さっきからうるさいなぁ。ネズミでも潜り込んでたかなぁ…ん?」

「あん?」


 荷物庫の真上が私室であるリリアが、様子を見にやってきた。

 荷物庫の扉を開けると、リリアがいる廊下から明かりが差し込んだ。


「き、きゃーぷてーん!!! 曲者だぁあああ!!! 荷物を漁りに黒い変な奴が現れたぞぉおおー!!!」

「ちょ、お、おい待て」

「待たんわ!キャプテーーん!」

「な、なんだ。誰だよお前」


 オレンジ色の長髪に、黄色のパジャマ。

 端整な顔立ちに、ぱっちりした瞳は暗闇でも分かる青色の目をしている。

 真人から見て、どう考えてもパンク被れの外国人である。


 真人が収容されていた、()()()()にはいるはずのない人種だ。


 いや、そもそもこんな埃臭く、荷物置き場のような場所があそこにあるわけがない。


「私が誰かって?! おいおい盗みに入る空賊団の、泣く子もさらに大泣きする副キャプテンを知らないってか?!」


 泣く子は黙るもんだろう。


「誰が副キャプテンだ、誰が。おいリリア、無事か」

「キャプテーーーン!! 流石キャプテン!! いち早く駆けつけてくれる!! 頼れる男!!」


「つ、次から次へと」


 さらに現れたのは、大柄な男。

 胸元全開のバスローブを着ているその男も、真人からしたら明らかに場違いな格好だ。


「おいお前、ここがどこかわかって潜り込んだのか」

「そうだそうだー」


 やんややんやと騒ぎたてるリリア。


「あー」


 真人は、状況が呑み込めないことを呑み込んだ。

 とにかく、今自分は『よくわからない異常事態』の渦中にいる。

 ならば、まずは状況を知るべきだ。


「話をしようか、キャプテン」

「盗人がなにを話すって? 冗談は格好だけにしろよ」

「そうだそうだー」


 お前らも寝巻きみたいな格好で格好つけるなよ。

 つい数刻前まで、ジジィ共への怒りで頭に血が上っていたが、この二人を見ていたらいっきに冷めた。


解除(ディスペル)


 そう真人が発する。

 黒い鎧は、光の分子となって、宙に消えていく。


「ほら、これで格好は……あ」

「じょじょ冗談は格好だけにしてぇ!!」


 真っ赤になったリリアが叫ぶ。

 そういえば真っ裸でした。


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