――神崎真人は特別な人間だ。
「真人よ。お前はよく頑張った」
「あぁそうかい、クソジジィ」
黒髪、短髪、三白眼。
柄の悪さは折り紙つきだ。
その目をギラギラさせながら、真人は両手足を拘束され地下牢に閉じ込められていた。
まるで、囚人だ。
「だが、お前は強大過ぎた。いつその力が世界に牙を剥くかもしれぬ」
「この拘束を外せば、今にでも牙を剥いてやるよ」
老人は、真人を哀れむような目で見る。
彼をこうしてしまったのは自分の責でもあるのだ。
「すまんな」
「謝ってんじゃねぇ。俺は、俺の思うまま、俺がしたいようにしてきた!! だから、テメェが謝るなッ!!」
「私は知っておる。どれだけ強がっても、お前は」
「うるせぇ!! とっとと殺すなら殺せ!!」
真人は吠える。
彼は自身でもわかっている。
老人が本当は自分の心配をしてくれていること。
自分が、世界から疎まれてしまったこと。
――世界を救った英雄は、畏怖の象徴になったのである。
「教授。時間です」
「うむ。そうだな」
教授と呼ばれた老人は、最後に真人を一瞥すると悲しげに別れの言葉を放つ。
「こうなってしまったのは、本当に悔やまれる。だが、お前は間違いなく世界を救った英雄だ。心から感謝をする」
「……そーかよ」
「あぁ、ありがとう」
「殺そうとしてる奴に感謝されてもな」
真人は、皮肉混じりに笑った。
世界を破壊せんとする巨悪相手に戦い、ボロボロになってまで守った世界に、最後は裏切られたのだ。
阿保らしくて涙も出ねぇ。
「じゃあな、じーちゃん」
「……真人」
最後の言葉を酌み交わした後。
真人は処刑された。
○
「あんまりです」
「五億番台、二十三世紀の英雄のことですか?」
「えぇ。せっかく私が彼に英霊の導を打ちつけたのに、まさか世界を救って即お役目御免だなんて」
「……貴女。そう言って十三億番台、十五世紀の英雄も転生させてたじゃないですか」
「だって。オルレアンの乙女なんて呼ばれてたのに、火刑はあんまりよ」
「まぁ、今回も似たようなものでしたね。群衆は、得てして強大過ぎる個を嫌うものです」
「神代行、八百兆もの世界管轄者として、神崎真人の転生を申請します」
「申請しちゃったよ。また」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「まぁ私の世界線に来なければいいですけど」
――申請、不可
――申請、不可
「ありゃ」
「英霊の導が濃すぎじゃないですか。エラーなんて滅多に出ませんよ」
「うーん……。なら……」
――申請、許可
――申請、許可
「おお。どうねじ込んだんです?」
「ふふ。転生をやめて、転移にしたの。さらに、もう滅亡予定の七億番台、十世紀にしました」
「あぁ、なるほど」
「七億番台は、前任が英霊の導を打ち込みすぎた上、どうしようもない爆弾を置き土産にされて、どう救済したものか考えてましたし」
「彼なら救えると?」
「さぁ? それは神のみぞ知ることですわ」
彼女は、悪魔のように微笑んだ。