9.5年目
5年目になると彼女の扱いもだいぶ慣れてくる
「今日は薔薇園で過ごしませんか?天気もよく。ほどよい風もあり過ごしやすいですよ?」昔は提案など行ったら鞭を打たれるのではないかと、恐ろしくできなかったが、近頃彼女に話を振ってもそれなりの反応が返ってくるようになった。
「散歩がしたいのね?いいわ。いきましょう」
くすくすといつものように蠱惑てきな笑みを浮かべ庭へと出る。
今の季節は薔薇が一番美しく咲く。庭師が丁寧に育てているのだろう。花艶もよいし茎も丈夫そうだ。レミリアは薔薇を相も変わらず無機質で感情のかけらもないといった表情で見る。これだけの薔薇が咲いてれば普通の女性はもっと反応を見せそうなものだが…。そのくらい圧巻であった。
「薔薇にはなんのために棘があるのかしら」急に彼女は呟いた。彼女の視線の先に右手があり、その手を見ると指先から血が出ている。
「さぁ…害虫から身を守るためでは?」彼女の右手をとりハンカチを巻きながら適当に思ったことを述べた。
「ふぅん。虫からしたら棘は大きすぎると思わない?本当に意味はあるのかしら……もしかすると対象は虫ではなかったのかも知れないわね」手当てをした右手を見ながら彼女は言う。
「だとすると薔薇は随分自分勝手ですね。害虫から守られておきながら、その事にお礼もせず、育てている人間に敵意を向けていることになる。」
「………………滑稽ね。自分勝手な薔薇自身もそれを慈しみ育てようとする人間も」
「薔薇は本当に育ちたかったのかしら。幸せだとおもう?敵意を向けるくらいの人間の手で育てられて。」
「さぁ。俺にはわかりかねます」
彼女が何を言いたいのか、よくわからなかった。そもそも薔薇は人に対して敵意を向けるとか、そんなことまで考えない。それに話せないのだから、例えそう思っても口にはできないだろう。
返答を期待していただろう眼をふせ。やがて彼女は納得したようだった。
「………そうよね」
「ゼラニウム。ひとしきりに堪能したし、帰るわよ。疲れちゃったから近道しましょ」
近道。それは王家に伝わる隠し通路であった。彼女はたまにその道を使う。警備の手薄な本当の時間など、そういった情報も彼女は希に落とす。
もぅ一度逃走を試みるため、俺がその情報を集めていると知らずに…。




