14.Thanks my hero
レミリア王女の死後5年。
彼女が亡くなってから国の建て直しは随分早かった。改善するところ改善するところ、何故かその種がすでに埋まっていたからだ。
捕らえられていた貴族の解放により、多くの町はすぐに流通し出す。同じところに囚われていたためか、貴族同士の関係が昔よりよくなっている。
わがまま王女の命令で作った田畑は働く彼らにきちんと報酬を与えるだけで、より、豊かになった。
懐を肥やすために、悪事を働いていた貴族たちは、その署名をレミリアが管理していた。「協同しているのだから、捕まるのは同じよ。これは貴方が裏切らないために持たせてね」と彼女に声をかけられていたようだが、その彼女はもういない。
ただひとつ途切れてしまったものがある。孤児院への寄付だ。もともと匿名であったため誰から送られてきたのか、わからない。確かに、前王女に収めるのが嫌だから、という理由で贈っていたのだから、王が代わればそんな必要ないのかもしれない。そもそも本当に貴族が贈っていたのだろうか。
宛先の時は7年間いつも後ろで見ていた女の字に似ていた。
何か彼女の字と比べるものはないか。そう思い10年ぶりに、彼女と過ごした部屋に入る。
死語5年間そのままにしておいた部屋。どうも理由なしでは入るに入れなかった部屋。その部屋の鍵をあける。
グレーの扉を潜ると懐かしい匂いがする。
まるで彼女が近くにいるような感覚だ。
彼女の部屋を適当に探る。すると何故か部屋の中にはほとんど何も残っていなかった。彼女のクローゼットに山のように入っていたドレスも、貰い物ばっかの宝石箱も、ほとんどのものは空だった。
誰か処分したのだろうか。いや、5年間今日までこの部屋の鍵は自分が持っていた。
「どういうことだ?」誰もやっていないなら何故?
その答えは唯一彼女の部屋にあった小さな箱の中にあった。
小さな箱にはこれまた小さなメモと小袋が入っていた。
メモには彼女の字で「やることリスト」と、かかれていた。
やることリストには6つ項目がかかれていた。
1つ目には「穀物の種まき」
2つ目には「貴族関係の改善」
3つ目には「孤児院への寄付」
4つ目には「部屋の片付け」
5つ目には「豚の始末」
ここまでよんで彼女の本当にやりたかった事がわかった。わがままで、傲慢な王女を演じつつ、この国を変えたかった…。聡明で、味方のいない、そんな中で彼女が考えたやり方だった。
「なんで……一人で……言えば……言ってくれれば……」
果たしてそうだったろうか。7年間彼女の笑顔を以外の表情を視界の隅に写していながらも、中心に捉えなかったのは誰か。
味方はいないと知っておきながら、彼女の傍を離れたのは誰か。
守ってもらっていたと知っておいて、何も返さなかったのは誰か。
「………っ……」
熱い何かが込み上げる。
そして最後までみると、上5つにはチェックがついているのに最後の一つにはついていなかった。
6つ目「ハンカチの返却」
そんなこと必要か?ハンカチってこれか?そう思い一緒に入っていた小さな小袋を開けた。
見覚えがあるハンカチが一枚。
丁寧に折り畳まれた薄黄色のハンカチ
かつて薔薇園で右手を怪我した彼女に巻いたものだった。
「そんなん……気にし…じゃ…ね……よ」
幼い頃今世分も来世分も泣いて枯れ果てたと思った涙が込み上げる。
持ち物全て捨てた彼女がこれだけを捨てずにいた事が素直に嬉しかった。
ボロボロと涙が止まらない。
あのときの事凄く覚えている唐突に薔薇の棘の話をした。今なら彼女が何を言わんとしたのかよくわかる。
薔薇は俺で、人間を自身に例えて俺に尋ねたのだ「幸せか」と。
「……わかんね……よ。わかんねぇけど……近くにい…のが……俺で……良かっ……て……ずっと」
本当はずっと最初から彼女を思っていたーーー。
だから目をそらしていたーー。だから助けたかったーー。
そんな今更なことに。今更気づく。
涙がおさまる頃。男は呟く
「殺したこと。謝らない。どうせ望んでたんだろ」
彼女はそういう人間だ。剣を交えたときの違和感は死を望んでいたからだ。
「だけど。これだけは言わしてくれ」
「ありがとう…あんたこそ。俺のヒーローだよ。」
そう言い男は部屋を後にした。
これにて、終わりになります。
お付き合いいただきありがとうございました。




