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長かったーー
12年、この日をどれだけ待ち望んだか。
目の前にはゼラニウム。5年前城を抜け出して以来。
あれから筋肉が少しついた?背も少し延びた?
でもきれいな深紅の髪も、燃えるような目の色も変わらない。
私の大切なゼラニウム。
戻って来てくれると信じてた。
「後は城に火をつけお前に教えてもらった抜け道でここまできた」
「少しは思い出してくれた?」
忘れたことなんて、ないわ。貴方を思い出さなかった日なんてないわ。それくらいー恋しくて、待ち望んでた
「私の飼っていたペットは、おしゃべりな男だったのね。知らなかったわ」
「それで?わざわざ話したのは何故かしら」
敬語じゃないゼラニウムの声を聞くのは随分久しぶり。確かに、最期の会話も敬語ではなかったけれど。あれはもしかしたら、私に言っていた言葉ではなかったかもしれないし。
「別に?俺が話していた間寿命が伸びてよかっただろ?」
「まぁ本当いうと、あんたのペットが噛みつく所をみて、少しでも絶望した顔がみれたら……」
「俺に媚をうってもいいぞ?泣いてすがって、許して乞えば。俺だけを見て言えるのなら……」
ねぇゼラニウム。やっぱり貴方の瞳には、復讐なんて宿っていないわね。
そうなるかもしれないと思っていたが、本当にそうなると嬉しかった。綺麗で美しい彼の心は最初は復讐が似合うと思っていたが、いつか、そんなものは似合わないに、そんなもので汚れない。私の闇じゃ彼の心を染められないと、気づいた。
復讐で彼の目は濁らせてはいけない。
でも、今の貴方の瞳には迷いがある。
私を殺す事に躊躇いがある。
その躊躇いが何故来ているのかわからないが、少なくとも今ここで、彼は私の命を消すのがおしい、とも思っている。
その事実がどうしようもなく、嬉しい。
5年たった今でも、恋をしている自分がいた。
無機質で情緒の欠片のない自分が……こんな風になるなんて、思ってもいなかった。
彼と出会って失う恐怖、絶望も知ったし、心が弾んだ記憶、走って彼を探した記憶もある。
今思うと、人間として随分成長できた。そんな変化がただただ嬉しい。
「と、そんな女じゃないか。」
「なぁアンジェリカ・マリーゴールド・レミリア敗けを認めてくれよ。後はあんた一人なんだ。」
でも、だからって、自分は生きていていい人間じゃない。
情緒を手にいれようと、豚は豚。家畜が人間を縛るなどあり得ない。
先ほどの襲撃で城は完全に包囲されるだろう。ここに彼意外の人間が来るのも時間の問題だろう。
何故か彼は最初に1人できた。
理由はわからない、わからないがそれも嬉しかった。
他に邪魔されず、彼の手で命を終わらせれるのであれば、これ以上の幸福はないだろう。
なおのこと早く、決着をつけるべきか。
剣を抜く。
彼にも剣を抜けと、見つめる
「敗けを認める…なんて…無理な話か」
「そうね」
剣がぶつかり合う音がする。
彼に剣を向けるのは何年ぶりかしら?
でも、交えるのはー初めてね。
さぁ、話は終わりにしましょう?殺して?
私を殺しに来てくれたんでしょう?
この国を終わらすのよ
そして、新たに始めるのよ
腐った豚ーーー私のいない世界で。
剣を交える時にもずっと彼は、敗けを認めろそうすればと繰り返した。
できないわ。私の血は滅びるべきよ。
父から継いだ、無機質、情緒の欠片のない
夢のために何を犠牲にしてもいい心
権力、富、名誉、そんなものに飢えた豚の血は狂っている
1滴たりとも、この世界に残したくない。
ねぇ、覚えてるでしょ?私の剣は何度も受けてきたでしょ?。7年間ずっとワンパターンで、力も軽い。切り込んで、一度距離をとって……って何回も何回も同じ攻撃をしたでしょ?
答えない私にしびれを切らしたのだろう。
ほらー覚えてる。
彼の剣が私の体を貫く
「……かはっ」
嬉しい。
ありがとう。夢を、叶えてくれて。
ありがとう。私を、変えてくれて。
ありがとう……私を、殺しに来てくれて……。
ありがとう……
雫が頬を伝う。
嬉し涙だろう。
初めて、涙を流す気がする。
「やっと……終わるのね、何もかも、名誉も富も権力もこの国も」
音もなく、倒れる。
冷たい床が心地いい。
「あり……とう……私の…………ヒーロー…………」
夢が叶えば両親の所へ、そういえばそんな約束勝手に父にした、と思い出し、
目を閉じる。
本当にこれで、終わり。舞台の幕がやっとおりた。
ーーーーあぁこれでやっとーーーー
ーーーー息ができるーーーー
その日、アンジェリカ・マリーゴールド・レミリア王女の国は落ちた。彼女の死と共に。




