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4年目に彼は逃げようとした。


その日私は父によばれ、夫候補というものを探しに城を開けていた。ゼラニウムは連れて行かなかった。自分のそんな姿をどうしてかみられたくなかった。

彼には適当に父の仕事と嘘を言ってある。信じたかは疑問だが。

会場には、悪女と知られているのに、権力に富に美貌にそんなもに酔いしれて近づく男がたくさんいた。どの男もおなじに見えた。

「気にいった人はいるかい?ほらあそこの長男とは楽しそうに話してたじゃないか?」父がにっこり笑い私にいう。


「いいえ。私に似合う殿方はいなかったわ?」

「私には、ゼラニ…………」といいかけた所で思考が一瞬とまる

「ウムという、人形があるのよ。さらにお気に入りの玩具なんて作れないわ?ね?お父様そうだたったでしょ?お気に入りの玩具があるときは、他に興味を示さなかったのでないの?」

今私、何を言おうとした?何を思った?

確か今、自分が興味をもつ殿方の話をしていて、それで、1人だけ自分の頭に浮かんで……

そこまで整理して思考を止めた。今度は任意で止めた。この先は考えては行けない部分。答えを導き出しても意味はない部分。


「そぅ。君はあれ。そんなお気に入りなの?興味があるなぁ。初めて見た時も思ったけど、確かによい目をするもんね。彼とは一度遊んで見たいかもしれないなぁ。そういったら、貸してくれる?」


あまりにも動揺していたためか、何も考えず、父を見上げてしまう。


私の表情をみた父は、嬉しそうに、うっとりと私をみる。


あぁしまった。やってしまった。今私感情を制御してないまま父をみた。反抗的な眼を向けてしまった。

父には昔から見せてはいけないと考えていた顔がある。

笑顔でも、悲しい顔でも、起こった顔、ましてや恐怖におびえた姿でもない。反抗的な眼と、考えたくはないが……もう1つ……。それが父には見せていけないとものだった。父へ向けた母の表情だったから。

父の好きな母の顔を持つ私。にこにこと笑っていれば父に似ているが、反抗的な眼をすれば、母に似ている。父の好きな母。

父に逆らい、最後まで抗い、亡くなるまで一瞬をも敗けを認めなかった母。あの瞳に父は囚われ、今でも男や女を買い、その中に母を探す。

哀れで、滑稽な夢。

父の夢を知っていた私にとってこの状況は恐怖でしかない。私の中に母を見つけたら、父は必ず私を手にいれようとする。

もともと、世間では愛されている。と、言われていたが、私はそうは思わなかった。父は私の中にずっと母がいないか探していて、私はそれを見つけられまいと隠すように、父の前では笑顔でいた。自分を、他人を守るため。そんな様子を他の人は溺愛と評価する。

醜く歪んだ愛情を溺愛と評価するのだから、よっぽどお互いにうまく目的を隠せていたんだろう。

今日それが見つかったのだとしたら?


いや、考えによっては好機なのかもしれない、そろそろ父にも退場へのルートを考えるべきだと。

もう少し年頃になれば、段々母に外見が似ている私は、どうせ捕まっていただろう。

今から準備できると、そう、いい方向に考えれば……1人でもこの恐怖にも立ち向かえるかもしれない。



脳裏に1人の男が浮かんだ。

深紅の髪を持った、生意気で、素直で、頭のいい少年ーー。


…………ゼラニウム…………


何故か無性に会いたくなった。


体調が悪いからと急いで城に戻ると、自分の領域が怪しい。ゼラニウムの姿が部屋になかった。


ーーーこの城から逃げた?ーーー


全身から血の気が引く、心臓が誰かに聞こえるくらいに音を立てる。

いや、冷静になるのよ。私。

日が沈んで間もない、警備が手薄になると考えられる時間、庭までの警備の目を潜れるルート、尚且つ彼が知れるもの。

どこから出るのが一番安全で早いーー?

急いで彼の思考と一般論を考える。

幸い月は明るい。すぐに見つけられる。

久しぶりに、本気で走った、明日は筋肉痛になるかもしれない。でも、ここで、手を抜いて間に合わなかったらーー??

ダメよ、いかないで。だって、まだ…………もう少し……


自分の導きだしたルートを走ると1人の少年を見つける。


闇夜に彼はいた。少し、戸惑うように、最後の門を抜けようとしていたところだった。

……間に合った。

容姿を、呼吸を整える。慌てたなど知られたくもない。


「ばかね。お前」

「なんだってこんな明るい日を選ぶのよ」

「ま、主人がいない日を選んだのは誉めてあげるけどね」

余裕たっぷりにそう言って手を伸ばすと反抗的な眼を私に向けた。パシッと音をさせ、私の手を振り払う。怒っているのか目も会わさず1人部屋に戻る。

また、1つ、彼に嫌われたんだと思った。



ーーーダメよ。まだ、だめ。

まだ、知りきってないでしょう?まだ戦えないでしょう?


だから、もう少しそばにいてーーー


何が建前で何が本音がわからない。

父が怖かったから?まだ戦えないから?

もう少しそばにいて。と思わず出た言葉の意味を考えたくない。でも


今更彼に嫌われた所で特になにも変わらない。

そう思うのに



ーーー何故か心が痛いーーー



ーーーー弾かれた手が熱いーーーー


それが答えだと思った。

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