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大会参加作品シリーズ

推理ラノベ大会 その1

登場人物

・フレデリカ・アースバーン

《SSSもち》の異名を持つ謎の少女。『神の瞳』、『虹彩』のアースバーン。

常に手にした木刀で自信満々に立ち振る舞う。


・被害者A

被害者

最初に殺された。


・被害者B

被害者

二番目に殺された。


・被害者C

被害者

被害者Cと同時に死んでいた。


・川鬼隆次郎

ジャーナリスト。


・山鬼寅次郎

館の主の知り合い。


・空鬼善次郎

館の主の関係者らしい。

犯人。


「私の瞳は欺けない! 被害者ABCを殺したのは……お前だ!」

 フレデリカが木刀を振り回し、高らかに犯人を指しました。

 木刀の切っ先は、この館の主、火緋灯ヶ原超五郎の遠縁の親戚、空鬼善次郎を指しています。

 空鬼はあわてふためいてこう言いました。

「馬鹿な! あの事件はAをBかCのどちらかが殺し、BとCは事件の真相をめぐって争って死んだ! それで終わりだろう! 何を証拠にそんなことを言い出す?!」

「簡単なことだ。まずは一つ思い出してもらおう。被害者Aが死んでいたときの状況を」

「状況?」

 と、尋ねたのは、ジャーナリストの川鬼寅次郎です。

 彼は、自分の撮っていた写真を何枚か机の上に並べて、こう言いました。

「それなら俺の写真が早い。現場を記録しとけって、お嬢ちゃんに言われたんでね」

 たくさんの写真の中から、フレデリカは一枚を選びました。

 指を指しながら、三人をにらみつけます。

「これを見て欲しい。被害者Aの死体だ。何か気づかないか?」

 すると、どうででしょうか。

 声を荒げていた善次郎は、すっかりと落ち着きを取り戻しました。

 善次郎は、そっぽを向きながら呟きます。

「気づくも何も、ウニが落ちてるよ。ウニの中身がぼろぼろ落ちて、三つの」

「そう! お前は被害者たちが争って死んだように見せかけて殺した! この斧で!」

「急に何言いやがるんだ! お前今、この写真の話をしてたんじゃねえのか!?」

 フレデリカに木刀を向けられたのが嫌だったのでしょうか。

 善次郎は狼狽し、なんとフレデリカに罵詈雑言を浴びせはじめたのです。

「この写真だろ! この写真! おかしなところって言ったら、ウニくらいしかないじゃねえかよ! そんなのも分からねえのか!? この木刀マニア!」

 驚いた善次郎でしたが、それこそ、フレデリカの思う壺だったのです。

 フレデリカはにっこりと笑いました。

 木刀もにっこりと笑っているかのようです。

「尻尾を出したな」

「言うに事欠いてそんなことか! 探偵なんて呼ばなければ良かった……」

「どう見ても写真にはもっとおかしなところがある。確かにウニは気になる。中身が三つに分かれて並んでいるところとか」

 そうなのです。写真に写ったウニは、三つ隣り合わせに並べられていて、まるで川の字のようなのでした。

「そうだ。それは被害者が、自分を殺した犯人が川鬼だってことを言い残したかったんだろうよ!」

「だが、被害者Aの死因は頭を殴られたことではなく、失血死だ。頭を鈍器で殴られ、気を失ったまま血を流し、そのまま死んでいる。現場に何か残す暇など無く」

「ウニはこの館のあらゆるところに落ちている。航海日誌の上にもね。ウニが目に付いた犯人が、それを利用して俺に罪をなすりつけようとしたってことかよ」

 この館には、川のつく名前は一人しかいません。川鬼隆次郎です。

 だからでしょうか。

 川鬼はそう言って、フレデリカの言葉を促します。

「そう。ウニはダイイングメッセージじゃない。川鬼さんに罪を擦り付けるため、真犯人が残した偽りの証拠。川鬼さんを疑わせるための、犯人の仕組んだ罠だったとしたら?」

「おかしいのはウニじゃなくてお前の頭じゃないのかよ! 第一、何でウニでそんなことをしなきゃならないんだ!」

 と、善次郎は必死に食い下がります。

 すると、フレデリカは、改めて写真を指差します。

「被害者Aは後頭部を殴られている。だが、問題は凶器だ。現場には鉄の棒や重い灰皿、棍棒まで置いてあった。なのに、犯人は何故か斧で、しかも刃ではないほうで殴っている。斧なのにだ」

「斧の扱い方を知らなかったんじゃねえのか?」

 へらへらとジャーナリストが笑います。

 たっぷりとためて、フレデリカは言いました。

「犯人は斧を投げつけたんだ」

「斧を……!?」

「投げつけた、だって?!」

「そんなバカな!」

「偶然、刃ではない方が当たってしまった。だがそれは逆に犯人にとって好都合だった。そして、斧は次の殺人に再利用されることになったわけだ」

 うんとこしょ、どっこいしょ。

 フレデリカは推理をしますが、まだまだ謎は、解けません。

「トリックはこうだ。あの番、空鬼は被害者Aを秘密裏に呼び出した。大方、館の主に関する話があるとでも言ったのだろう。裏庭に呼びつけ、背後から斧を投げて殺害。斧をあえて現場に残し、ウニで偽装を加えて立ち去った。そして翌日、空鬼は被害者BとCを呼び出した。凶器に関する重大な発見をした、犯人はお前だ、とかなんとかいう手紙を匿名で送ってね。そしておびき出された二人は、指定の場所で鉢合わせする。現場には斧が置いてある。目の前の男が犯人だと思い込んだ二人は斧を手に争い、そして死んだ……相打ちという形で。あるいは、犯人は生き残った方から斧を奪い、殺した。犯人は斧がどう使われたのかを知っている。だから、ウニが怪しいと言って注意をそらそうとした」

「なるほど……それならばBとCの死にも説明がつく。じゃあやっぱり、犯人は……」

 山鬼寅次郎は、そう言って、空鬼をにらみました。

 空鬼は、これはたまったものじゃないと、反論を試みます。

「斧を投げた? 馬鹿げてるね! それはあくまで偶然、刃が当たって死んだ可能性もあるだろう! そうなったら、犯人はどうするつもりだったんだ!?」

「全員殺すつもりだったんだ。犯人は」

「全員!?」

 川鬼が叫びます。山鬼も、叫びはしませんでしたが、同じ気持ちでした。

 山鬼も、川鬼も、まさか自分が殺されるかもとは、この期に及んで想定をしていなかったというのです。

「この館の存在を誰にも知らせたくなかった。いや、多分航海日誌の存在を知られたくなかったんだ。だからまず、航海日誌を発見した被害者Aを手にかけた」

「航海日誌ってのは、あの書斎にあったって奴か。被害者Aが死んでから、どこに行ったか分からなくなっていたが……」

 川鬼が並べているのは、BとCの現場写真です。

 川鬼は、自分の写真の中に、航海日誌が写っていないかを調べているのでした。

「犯人が持ち去ったと考えるのが妥当だろう。超豪族、火緋灯ヶ原超五郎の航海日誌だ。どんな情報が眠っているのか、想像に難くない」

「金、か……」

「ハッ! くだらねえな! 航海日誌っつったって、中身は狂った超五郎の書いた怪文書だ。そんなもののために殺人なんて……」

「あれれ~? おかしいぞ? このおじさん、どうして航海日誌の内容を知ってるのかなあ?」

「なっ……そ、それはさっき、その嬢ちゃんが内容の話を……」

「私はあくまで推測の話をしたに過ぎない。そこから先の話は知らん」

 そうなのです。

 フレデリカは、きっとそうだろう、と言ったのでした。

「航海日誌を読むことが出来た人間は三人だ。執筆者の火緋灯ヶ原超五郎。既に他界している。そして、発見者の被害者A。これも他界している。そして……それを持ち去った犯人。この三人だけだ」

 空鬼の顔から、みるみるうちに、血の気が引いてゆきます。

 それはまるで、空に浮かんだ雲のようでした。

「そういえば、空鬼さん。あなた確か……高校、大学と野球をやっていたとか。場所は確かピッチャー……物を投げるコントロールには自信があると言っていた様な?」

「空鬼さん、やっぱりアンタ……」

「クソッ! 俺たちまで殺すつもりでいやがったのか!」



 完

・エドリバー

犯人のおかしな行動を指摘する探偵妖精。

事件のあるところにいつの間にか現れる。


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