無き力の罪悪感
肩で息するほど全力で氷の上を走った自分達三人は、休憩する暇もなく前に進んでいた。
「………」
「…マコト大丈夫?」
「え?ああうん大丈夫…」
と言ってはみたものの、あまり大丈夫ではなかった。
まず、自分は水の中服を着て全力で泳いだ。
そしてシエル達と合流したが休むこと無く魔物に襲われたのだ。
肉体的疲労は魔法でなんとかなるが…精神的疲労は回復できなかった。
「すみません姉様…どこか安全な場所が見つかるまで我慢してください」
「うん…分かった。それまで頑張る」
カラ元気だけどね…
身体が女だからなのか不思議と疲れやすい。魔法職だからか?
「…ねぇマコト。本当に大丈夫?顔色悪い」
「え?そう?…でも嫌な予感はするけどね」
「嫌な予感?」
ここを歩き始めた時から魔力探知にひっかかっているのだが…これがどうもおかしい。
「上と下…右斜め左斜めと点々とかなり小さな魔力点があるんだよ。でもその小さな魔力点から強い魔力を感じる」
「…それは魔物?」
「まだわからない。なんせ壁の中にあるんだから調べようがないしね」
とにかくこの神殿はおかしい。慎重にいかないと。
と言っても一本道しかなかったので魔物とも遭遇せずにセーフゾーンらしき部屋に到着した。
「はぁ…」
「姉様?本当に大丈夫ですか?」
「…やっぱり顔色悪い」
体調が悪いのでは無いのだが…疲れがとれない感じだ。落ち着いて休憩が出来ない。
正直今の状態は大丈夫ではない。一応確認のため、ステータスを見る。
「…ん?」
「どうしました?何か分かりました?」
いや分かったというか…
「魔力が回復してない…」
「…どういうこと?」
「言葉通りだよ。魔力が回復できてないんだ。しかもかなりゆっくりだけど減ってる」
自分には魔力補給というスキルがあるので普通の魔法使いより魔力の自然回復速度は早いはず。それが減ってるってことは…
「もしかしたら魔力吸収されるエリアなのでしょうか…」
…それは非常に困るな。しかも自分のスキルを上回る吸収力だし、魔法が使えない魔法使いなんてただのお荷物だぞ…
「…顔色悪いのはその吸収のせい?」
「そうかも…」
「…良かったのか良くないのかよくわからない」
「そうですね…でも今は姉様のためにも早めに神殿を攻略する必要がありますね。『スタミナキュア』」
シエルは体力回復魔法をかけてくれた。少し楽になったかも。
「ありがとう二人共。ごめんね今回はちょっとお荷物になりそう…」
「…大丈夫。今度は私がマコトを守る番」
そのセリフはいつぞやのダンジョンでの話の続きかな?
マリと話してる時、シエルは次の道を偵察しに行った。
自分はその間に腰に掛けていた鞄を開く。鞄の中には魔力薬が何本か入っているはずだが…
「うわ…何本か無くなってるよ…泳いでた時に開いて落ちたのかな…?」
魔力薬は五本入れていたはずだが、今は一本しかない。他の薬はいくつか同じく失っているが魔力補給系じゃないのであまり気にはしないが…
「魔力節約…しないとな。」
前回使った魔力を回復する魔法『魔力補給』は制限の多い魔法で一度使うと魔力が全回復するけど、再使用するには二週間もかかる。誰だ!こんな使いづらい魔法作ったやつ!
「姉様。残りの魔力はどのくらいなんですか?」
「え?…入った時にデカい魔法連発したから今三分の一くらいかな…あれ?そういやシエルは魔力吸収されてないの?」
「私…ですか?いえ。これといった吸収はされていませんけど」
どういう事だ…?シエルはルフォーク族だからか?でも自分も一応半ルフォーク族だけど。
「考えてても進まないか」
「そうですね。先に進みましょう。私が前に出るのでマリさんは姉様を守って下さい」
「…任せて」
休憩を終え、自分達は再び神殿攻略を再開した。
「カカカ!」
「…燃えろ『フレイムショット』!」
「邪魔です!『ホーリーバレット』!」
二人の銃撃が神殿内に飛び交う。部屋を出ると広く、暗い空間で大量のスケルトンがいきなり襲いかかってきたのだ。
「くっ…!」
もちろん自分にも襲いかかる。魔力が吸収されて魔法はあまり使えないので短剣を使い応戦するが…
「姉様!無理はしないで!」
「わかってる!くそ…魔法が使えばこんなヤツら!」
今自分は擬似剣士にならずに短剣を振り回す。やっぱり魔法職が短剣で戦うのは無理がある…!
やっぱり最初入った時の魔法連発が仇になったな!
ズン!と重い音がしたと思ったら今度は後ろから大きなスケルトンが現れた。
「おわっ!?後ろから…!?」
「マコト…!『クイックバレット』!」
間一髪でマリから助けられる。
「姉様!マリさん!伏せて下さい!『サモンズロケット』!」
シエルは大きな筒の銃を構えて、即撃った。
「うわぁ!?」
大きな爆発と共にスケルトンは吹き飛んでいった。
「シエル後ろ!」
「くっ…!」
後ろから襲ってきたスケルトンの攻撃をシエルは、ギリギリで避けた。しかし他のスケルトンが斬り掛かる!
「…シエル!」
マリは倒れながらも銃で攻撃し、スケルトンを怯ませる。
「こん…のぉ!」
自分も短剣でスケルトンを斬りつける。
「カカカカ!」
だがあまり効かなかった上に反撃を食らった。
「姉様!」
「ぐっ…自分は大丈夫!マリ!」
「…了解!『ヘビーショット』!」
マリを呼んでスケルトンを薙ぎ払う。
しかし倒しても新しい魔物が現れる。
「くそ…キリがない!」
「私が大きい魔法を撃ちます!援護を!」
「…わかった!」
一応魔法は使えるには使える…が回復しない以上、魔法を使うには危険過ぎる。
「やっぱり短剣だけじゃキツいか…!?」
「姉様これを!」
シエルが詠唱しながら何かを投げてきた。これは…本?
「スペルブックです!魔力を使わないで魔法が使えるはずなのでそれで時間を稼いで下さい!」
「そんな便利な物あったのかよ!?でもありがとう!」
自分はすぐにスペルブックを開いて書いてある文字を詠唱する。
やはりシエルが持っていたものだからだろうか?魔法特化している自分でさえ詠唱が難しかった。
でも落ち着いて詠唱できた。あとはキートリガーを言うだけ!
「『ホーリーレイン』!」
本から放たれた光は無数の槍になってスケルトンに降り注いだ!
「カカ…!」
自分の魔力値が反映され、威力がかなり上がっているはずだがまだスケルトンが生き残っていた。
「私に任せて下さい!『クロスエクスプロージョン』!」
シエルが放った魔法は十文字の形で飛び、スケルトンの頭上で大爆発した。
でもシエルの魔法でも残っている奴がいる!?
「…これで終わり!『アサルトショット』!」
マリは残ったスケルトンを薙ぎ払う。
これでここの魔物は全部倒した。
「ふぅ…マコト、シエルも大丈夫?」
「大丈夫です。姉様はどうですか?」
「自分も大丈夫。問題ないなら先に進もう」
二人共静かに頷き、奥に向かった。
「階段…か」
奥にあったのは階段だった。
「随分長いですね。何層に向かう階段なのでしょうか」
「…多分五層ぐらい」
そのくらいの階層があるならもう立派なダンジョンだ。でもシエルの情報と攻略済みの情報は正しいはず。
「まさかだとは思うけど…ダンジョン構造変更されているのか?」
「…またジャック?」
ありえる話ではある。攻略済みのダンジョンをわざわざ変更する必要なんて無いはずだ。
「もしかしたらここにも邪神の祭壇があるのでしょうか…?」
「あったらどうしようか…?」
クロミの女神みたいな力は今のメンバーではいない。
もし見つかった場合、撤退して報告するしかないな…
「…警戒しながら降りよう」
「うん。何が出るかわからないからね」
自分達は階段を降りた。その先に何があるか知らずに。