戦略的逃走
現在。ジョー○…じゃなくてサメの魔物に追われてます。
「ちょっと来んなって!『サイクロン』!」
風の魔法をぶつけるが全然効いてない。やっぱり水の中だと威力が弱まるのか!
「シャアアアア!」
「危なっ!」
いつの間に近づいてきたサメに後ろから襲われる。何とか避けたが…やっぱりそっちの方が速いか!
どこか上がる場所はないのか…!?泳ぎながら周辺を見渡すが、上がれる場所は見えない。
(いくら高レベルでもずっと全力で泳ぐなんて無理…!なら魔法で…)
雷魔法か?でもあれ使ったら自分も感電しそうなんだけど…
考えろ!もっと何か汎用できる魔法で…そうだ!
「『ウィンドハリケーン』!」
まずは風魔法を下に放ち、強制的に空を飛ぶ。どっかの路地裏でやった方法だね。サメを攻撃しながら飛べたので一石二鳥だ。
「よし…凍り付け!『ブリザードシヴァ』!」
水に向かって分割詠唱していた最上級氷魔法を飛ばす。でもこの魔法を放った理由は攻撃のためではない。
パキパキパキパキ!
水が急速に冷却され一面が一瞬で氷の床になった。
よし!大成功!
水が氷になったため、足場ができた。サメも凍り付けにしたのでしばらく動けないだろう。
「ふぅ…何とかなったか」
まさか神殿が水のダンジョンだったとはね…かなり落下したから飛行魔法が回復するまで待たないと…あれ?
「今気づいたけど…明らかに深かったよな?」
確かシエルは二層しかないと言っていた。メモ紙にも二層って書いてあったし…
でも明らかに深かった。落下距離からしておそらく四層分くらいだったと思うんだが…
「うーん…ここで考えてもどうしようもないし、シエルと合流しよう」
自分は落ちてきた所に戻る。スケート場みたいになってるから歩きづらい…
あと戻っている時に周りを見たけど、壁は石のブロックだった。ふつう、古いから苔とか生えるはずだけどそういったのは見えないしな…魔法の力か何かか?
「よし…おーい!シエルー!マリー!」
落ちてきた所の上に向かって叫ぶが返事がない。そりゃそうだよね。四層分くらいの高さが届くわけないし…
「━さ━━き━━━す━!」
「ん?この声…シエル!?」
まさか聞こえてるのか!?すぐに上を向くが高すぎて全然見えない。
「声を拡張する魔法なんて無いしな…」
でもなんかシエルの声がおかしい。遠く聞こえるってより遮られて聞こえてるみたいだけど…
まだ飛行魔法は使えない。先に進むにも危険だし…
「━━か━━り━━避け━━!」
「え?今なんて言った…?」
上手く聞こえなかったけど…どうしよう?しばらく上を向いてみる。あれ?なんか落ちてきてないか…?
「━━様━━避けてくださいー!」
「へ?うわぁ!?」
親方ー!空から妹が!…ってそんなこといってる場合じゃない!
何とか避けようと思ったが間に合わず、ぶつかる。
「あぁ…姉様大丈夫ですか!?……あ」
「いつつ…だ…大丈夫…ん?」
なんか柔らかいのが手に…
「ってああ!ご…ごめん!」
自分はすぐにシエルから離れる。
シエルの胸に手が触れてた…
これは兄…いや姉としての失態だわ…
「………」
「あの…シエルさん?」
シエルは座ったままこっちを無表情で見ていた。
いや不可抗力だよ?決して欲情とか無いよ?あ、今女だったわ。
「不可抗力ですよね…姉様?」
「はい!もちろんでございます!」
まさか直接降りてくるなんて…予想外だった…
よっぽど焦ったのかな?マリも心配…
「ってマリは?まだ上にいるの?」
「マリさんなら壁を蹴って降りてるはずですけど…」
壁を蹴る?どこの赤緑兄弟だよ…
「ところで姉様。この氷は一体…?」
「あー…これは後で話すよ。シエルはどうやって降りてきたんだ?ここはかなり深いはずだけど」
「え?深い…はず?そうでもありませんでしたよ?」
ん?なんかおかしいぞ?そうでもない?
「いや落ちてきた時、四層分くらい深かったよ」
「四層もありませんよ?あれは二層も無かったですし…上から姉様も見えましたよ」
「???」
ますますおかしい…。シエルは自分が見えていた?こっちは見えなかったけど…
そういえば今マリは降りてるのならそろそろこっちに…
「……あ」
「ぐはぁっ!?」
ちょうど上を向いたらマリが落ちてきた…次は背中か…!
「…ごめんマコト」
「はは…なんかもう慣れた」
これはご褒美なのか…?それとも何かの罠なのか…?
「マリさん大丈夫でしたか?」
「…足が滑った」
「やっぱり…私も途中で滑り落ちてしまいました」
「待って全く状況が上手く理解出来ないんだけど」
シエルとマリの話によると、壁を蹴って降りてきた二人は順調に降りていたのに滑りやすい壁によって落下してきたと。
「やっぱり自分が水を凍らせたから壁も凍って滑りやすくなったのかな…?」
「…この氷マコトが作ったの?」
「水を凍らせただけだよ。サメの魔物がいてさ…」
「ちょっと待ってください姉様。今サメの魔物と…?」
サメの魔物って言葉に反応したのはシエルだった。
「え?うん。でも土魔法撃ったけど効いてなかったし、サメじゃないのかな?」
「姉様。それはサメの魔物です。しかも━━━」
ドズン!
「な…なんだ?地震!?」
「姉様!下!」
シエルは氷の中に向かって指をさす。
よく見ると何か近づいてきて…
「ま…まさか!?」
「…離れよう!」
急いでその場から離れると氷の中から何かが現れた。
「シャアアアア!」
「あ!あの時のサメ!」
馬鹿な!?倒せてなかったのか!?
「く…『アサルトバレット』!」
マリが銃で攻撃するが…全然効いてない!
穴の空いた氷から次々と魔物が現れる。
「逃げましょう!あの魔物は攻撃が効かないんです!」
「ええ!?まさかのベルなんたら並ですか!?」
はよヤドリギ持ってこい!…ってそうじゃない!
「効かないってどういうこと!?」
三人で氷の上を走りながら聞く。
「あの魔物は鱗の力で魔法と物理攻撃をほぼ無効化するんです!しかも再生スキルも持ってます…!」
それはとても厄介だな!
「倒す方法は!?」
「鱗の力を無効化出来ればいいんですが…あれは魔法ではないので消すこともできません」
つまり…詰んでね?いやまだ何か方法があるはず…
「……そうだ!内部から攻撃すればいいんじゃない?」
「内部から…?」
「こうするのさ『ストーンバレット』!」
石の魔法が魔物の口の中に入る。
「シャアアアアアアア!」
のたうち回った後、魔物は動かなくなった。
「…口を狙えばいいの?」
「うん。でもホーミング系だと威力は下がるかも」
「…分かった『ボムショット』」
マリは後ろを向かないで魔物の口に当てる。凄い!
「って今なんて技を━━━━」
マリに聞こうとしたら当てた魔物が爆散した。
…ああなるほど。着弾すると爆発する技なのね。
マリはドヤ顔で親指を立てた。
走りながら後ろから襲ってくる魔物を精密射撃するのって結構難しいな!
「…あれ?そういえば自分一匹短剣でやれたけど?」
「え?短剣で、ですか?」
シエルも驚いている。もしかしてどこかに弱点があるのか…?
「…マコト!前!」
「げっ!?危なっ!」
突然正面に現れた魔物の突進を辛うじて避けた。
くそ…四方八方から攻撃するとか卑怯だぞ!
「姉様!あそこに扉が!」
シエル言う通り、まだ少し遠いけど鉄の扉が見える。
「よし…あそこまで行くよ!」
「…了解!」
自分達は扉に向かって攻撃しながら全力で走った。
扉に近づいて来ると自分達は阿吽の呼吸で一列に並んだ。
「ふっ!」
まずはシエルが身体で扉を開ける。
「…はっ!」
続いてマリが開いた扉の向こうに飛び込む。
「こっちくんな!『ストーンウォール』!」
自分は後ろ向きで飛び込みながら、壁を作る魔法を詠唱した。
カッコよさ重視で振り向き様に魔法を放ったので不安だったが上手くいったみたいだった。
扉は岩の壁によって塞がれたので、おそらく魔物は入れないだろう。
「はぁ…はぁ…間一髪だったな……」
「はい…ギリギリでしたね」
「…疲れた」
もうしばらくサメは見たくないと思った。