ざわめく自然の世界
『歩く城壁』ガランヴィールに会うため、自分、シエル、マリは暗き森の神殿に向かっていた。
「名前通りだな…暗い」
名に恥じないほど真っ暗で森というより樹海に近い。
「今明かりをつけますね」
シエルは魔法で明かりを灯す。ここは自分がやっても良かったんだけど、前線に出るんだしあまり魔力は使いたくない。
決して貧乏癖が出てる訳では無い。
「そうだシエル。近接武器を出してくれない?」
「そうですね。どういった武器がいいですか?」
「んー…短剣二本かな。森での戦闘は速さ勝負になりそうだし、大きい剣だと邪魔だろうし」
「分かりました…『サモンズブレイド』」
空間から短剣を取り出したシエルは、軽く強度確認すると自分に渡してくれた。
「ありがとう。便利だよねその魔法」
「確かに便利ですが…デメリットもありますよ?」
シエルの話によると、あの魔法は扱いが難しいらしい。空間を把握して、別空間から物を取り出す知識と精神力がいる。
常に三人称で視界を見渡せるようにならないと使えないらしい。ここはルフォーク族にしかできない芸当だね。
習得するにもかなり難易度の高い方法で習得することになるらしい。正直辛そう。
「…短剣のマコトってなんかかっこいい」
「ですね。まるでナギサさんみたいです」
「あー…そういやナギサって短剣使いだもんね」
自分はもらった短剣を上に投げたり軽く振り回したりして短剣の感覚を覚える。
これをやっておかないと力を存分に使えないのだ。
「姉様は魔法職ですが力が強いので、前線職の方が良いのではと思うのですが…」
「うーん…でも自分あんまり前には出たくないんだよね…痛いの嫌だしさ」
防御力が高くても痛いものは痛いからね。
「…ねぇマコト」
「ん?どうしたのマリ」
マリは正面を指さす。自分はその指先を見ると…
「あれ?今動いたような…」
微かにだが正面の光景が動いた気がする。
「…試しに撃ってみる」
マリが銃を取り出し、少し照準を見ながら、正面に向かって弾を放った。
ガサガサガサガサ!
「な…なにかいる!」
「あれは…ビーストツリー!木の魔物です!」
あれがゲームでもよくいる木の魔物か!暗くていまいち分かりにくいが、不自然に木が右左に動いているのがわかる。
「くそ…『スイッチ・ブレード』!」
自分はすぐに剣士になる魔法を詠唱して、周囲を警戒する。
だが目視では敵の位置がわからない。自分は急いで魔力探知や気配探知を発動するが…
「おかしい…探知できない!」
「…おそらくこの森の影響で探知スキルを妨害されてると思います」
それはまずい!真っ暗な上、音だけでも七体はいるぞ!?
「…任せて。『フラッシュボム』!」
マリは上空に向かって銃の魔力弾を放つ。すると周辺が明るくなり、敵の姿が見えるようになる。
「ナイスマリ!これなら…」
自分は一番近い敵に向かって加速する。
「まずはお前からだっ!『スピードスピン』!」
短剣の剣技で一体を九つのパーツに切り刻む。
樹木って硬いイメージあったけど、剣技を使えばあまり関係なくなるらしい。
「姉様!右方向に二体!」
「オッケー!よっと!」
シエルの指示によって自分は敵の位置を把握して攻撃。もちろんマリも敵に魔力弾を撃って怯ませる援護、シエルは指示だけでなく魔法や銃による攻撃の援護をしてくれた。
森に入ってから初めての敵とのエンカウントは、そこまで時間もかからず、三十分もかからなかった。
「ふー…終わったかな?」
「結局12体はいましたね…」
「…おつかれ」
戦闘を終え、一度休憩をはさむ。邪神の洞窟のように難しくはないのでそこまでは疲れない。でも敵の動きがわからない上に見えないとなると不意打ちを警戒して進まないといけない。
「それにしても魔力探知と気配探知も使えないのは困るな…」
「私も探知スキルに頼っていたので困ってます…」
姉妹二人揃って探知が使えない。ここはマリの獣人の力を借りるしか…
「…期待外れで悪いけど私、夜目は持ってない」
「ええっ!?」
狐の獣人だし、持っててもいいと思ったんだけど…
参ったな…これは思っていた以上にかなり大変なダンジョン攻略になりそう…
「魔力も回復しました。行きましょう姉様」
「そうだね…くよくよしてられないか」
難しくないけどダンジョンだからね。気を引き締めないと。
自分達は休憩を終え、先に進むことにした。
「そうだマリ。あの光を放つ弾ってスキル?それとも魔道具のもの?」
歩きながら聞いてみるとマリはすぐに答えてくれた。
「…あれはスキル。だからほぼ無限」
「じゃあ戦闘になったらそのスキルを最初に使って。薄暗いより明るい方が戦いやすいしさ」
「…わかった」
前線をやってみてやはり強く思うのがやっぱり味方の援護の大切さだよね。仲間ってほんと大事。
その後何回かビーストツリーとのエンカウントをしたが問題なく撃破していき、ダンジョンに入ってから二時間は経過した。
しかし、その二時間で自分達は疑問に思った。
「シルバーツリー出ないね」
そう。炎魔法が効かないといわれる木の魔物シルバーツリーが現れなかった。結構進んで森の部分だけでも中盤くらいまで来たはずなんだけど…
「おかしいですね…情報によればこの辺で出てきてもおかしくはないのですが…いませんね」
「…絶滅した?」
いや魔物ってそう簡単に絶滅はしないと思うけど…
「…ん?ねぇマリ。あそこに何かない?」
「……あれは?」
自分とマリは見つけたものに近づく。後からシエルもゆっくりついてくる。
「二人共、一体なにを見つけたのですか?」
「シエル…これシルバーツリーじゃないか?」
自分が指さした先には警戒していた大きな木の魔物…シルバーツリーがいた。でも様子がおかしい。
「これ…死んでる」
「うん…ピクリとも動かないし…うわぁ!?」
自分は顔を上げて周囲を見てみるとそこら中にシルバーツリーの死体がかなりの数で転がっていた。
「この魔物消滅しかけてますね…つまりついさっきやられたということになります…一体誰が…」
「死因は…切り傷が無いから少なからず斬撃じゃないな。多分魔法だ」
樹木に切り傷があるのは普通か?でも魔物だしな…
「たくさんいる…もしかしてガランヴィールの?」
「あ、その線は可能性あるね」
つまりガランヴィールの部隊がついさっきまでここを通ったことになる。
「…でもおかしいと思いませんか?」
「ん?おかしい?なんで?」
シエルは周辺を見渡してから話し始める。
「ガランヴィール氏は部隊で向かったはずです。私達は三人なので少し時間がかかりましたが…攻略済みのダンジョンでここまで遅くなるでしょうか?」
確かにそうだ。
少なくても数十人の部隊で行けばこんな森はすぐに攻略できる。攻略済みなら道もわかるはずだから三日もいらないはず…
「…何かありそうだね」
「はい。警戒しましょう。もしかしたら第三者がいるかも知れませんから」
第三者か…ジャックの隣にいたあの赤髪の女性か?でもあの人はドラゴンで現れたしこんな所で歩く感じの人ではない気がする…だとしたら…あの二人とは別の仲間?
「ね…姉様!こっちに来てください!」
突然シエルが声を上げて呼んだので自分は驚いた。
なんだ?また何か見つけたのか?
「どうしたの?一体なにが━━━━」
突然言葉が出なくなった。その光景を見て自分は呆然と立ち尽くしてしまった。
まるで赤いマットのように広範囲に広がっていたのは血のあとだった。
でもその血の中には━━━
「……ガランヴィール?」
自分達が探していた《歩く城壁》ガランヴィールの惨めな死体があった。