ぐうたらギルドにご招待
街の時計塔の時間はとっくに夕方。
辺りが薄暗く、街灯が光り始めている。
「マコトさんここですよ!」
シズクに連れてかれた場所は宿屋みたいな三階まである大きな建物だった。
「…ここがギルド?」
「はい!『紫の集い』って言うんですよ!」
短っ。もっとなんとかの旅団とか、なんとか騎士団とかかと思ったけど…
「って紫の集いって由来は?」
「え?えーと……」
おいおいどんなギルドかわからないかいシズクさん。
「と、とにかく!中に入りましょう!」
シズクは逃げるようにギルドの中に入っていった。
「不安だ…」
仕方なく自分も中に入った。
入ると広いエントランスだった。上をみると2階フロアが見える。
かなり広いギルドのようだ。
「おお!きたねマコト!ようこそ!我がギルド『紫の集い』へ!」
ミヅチが奥から歩いてきた。
「出たな詐欺師め」
「ひどいなぁマコト。俺は詐欺師じゃなくて召喚師さ」
そう。ミヅチは村に召喚魔物を出して…
「…は!?あなた召喚師なの!?」
思わずノリツッコミしてしまった。
「あれ?言ってなかったかい?」
「言ってないと思うんだが…」
そりゃそうだ。自分の魔法スキルには召喚魔法はなかったし。
「立って話すのも何だし上がってくれ」
ミヅチはエントランスから左の部屋に入っていった。
「こっちですよ!」
シズクがミヅチの後を追うように入っていった。
「………」
不安ではあるがここに立っていても何も変わらないだろう
仕方なく中に入ることにした。
お、靴入れがある。この世界でも靴は脱いでから入るのか。
「ラノベとかアニメとかだと靴とかは気にしてなかったなぁ」
次見る時は気にしてみよう。…見れるかは別として。
自分の履いていたブーツ?を脱いでミヅチとシズクが入っていった部屋にはいった。
入った部屋は応接室みたいな所だった。ミヅチはソファに座って待っていた。
自分も向かい側のソファに座った。
「んーそうだね…じゃ改めて自己紹介をしよう」
いやまともな自己紹介もしてないと思う。
「俺の名はミヅチ。職業は召喚師でレベルは96。そしてこのギルドの━━」
「ちょっとミヅチ!」
突然ミヅチの後ろから別の声が聞こえた。
見ると奥から赤髪の少女が歩いてきた。
「あんたまた掃除当番サボったでしょ!」
「ちょっ…ナギサ今俺が話してるんだけど…」
「そんなことよりさっさとやってよ!ここは私がやるから!」
ナギサという赤髪の少女はミヅチを奥の部屋に押しやっていった。
「……」
「ふぅ…あ、もしかして新入りの人?」
再び戻ってきた少女は自分に問いかける。
「あ、えーと…」
「ん?どうかした?」
いやどうかしたかじゃなく…
はっきり言うよ?胸デカクネ?
そして服装だってまさかのホットパンツだとは…
けしからん!けしからんよ!だがそこが良い!
「またミヅチさん掃除当番サボったんですか?」
自分が心の中で考えていると、シズクとナギサは会話を始めた。
「そうなのよ…あいつギルマスの自覚あるのかしらね…?」
ん?今かなり重要なこと言ったような…?
「で?そこのあなたの名前は?」
ホットパンツ…おっと失礼。ナギサは自分に話を持ちかけてきた。
「あー…マコトっていいます」
「あ、もしかしてあなたがミヅチが言ってた人?」
自分はとりあえずうなずく。
「えっと…マコトさんすごいんですよ!空を飛ぶ魔法を持っているんです!」
ナギサは自分をジロジロ見始める。
「ふーん…私はナギサ。職業は魔法狩人でレベルは89。このギルドの副マスターなんだ」
「ま…魔法狩人?」
なんですかそれ。魔法も使える狩人ってこと?
変わった職業ですね。あ、自分も妖術師とかっていう職業だった。
そして副ギルドマスターか。いわゆる副リーダーみたいなものだね。
「あなたの職業は?」
「妖術師です。レベルは…」
うーんこの人達にも嘘言った方が良いのかな?
下手に目立っても嫌だし、ここは嘘を選択しよう。
「72です」
「…そのレベル嘘でしょう?」
馬鹿な!?なぜ一発でバレた!?
「まず人間が空を飛ぶ魔法なんて存在しないはずなのよ。そして装備してる服が明らかに最上級装備。見たことないもの。72ならもう少し弱そうな装備のはずだもの」
やばいこの服が強いってのがバレてる。
あと人が空を飛ぶ魔法って発見されてないの!?
このファンタジー溢れる世界に浮遊魔法がないとは…
あ、でも自分は使えますからね?
しかし参ったな…こりゃ本当のこというべきか…?
「…できれば口外しないでくれるとありがたいんですが」
「そ、そんなに危険なんですか…!?」
シズクが少し怯える。ナギサも顔が強張る。
「…124です」
ガタッ
近くの椅子が倒れたような音がした。
「…嘘でしょ?」
まだ疑うか!ならばステータスを見せてやろう!
フッと現れたステータスウィンドウを二人に見せる。
「えええええ!?なんですかこの数値!?」
「1000超えですって!?あなた魔法職よね?この防御力は一体…!?」
シズクとナギサはめちゃくちゃ驚いていた。
そりゃそうか。こんなステータスあの厨二病のギルバートだっけ?その人並っぽいし。
「はぁ…ナギサー!終わったぞー!全くギルマスにこんな仕事させるなんて…」
「ちょっとちょっとミヅチ!この子ヤバいよ!」
「マコトさん1000を越えてるです!」
「ちょっと二人とも…」
口外しないでって言ったのに!
「ん?どういうことだ?」
自分はもう一度ステータスウィンドウを見せる。
でもミヅチはナギサやシズクのようには驚かなかった。
「…なるほど。やっぱりそうか」
それどころか検討ついてたのか!?
「ちょっとミヅチ…そうかってどういうことなの?」
ナギサがミヅチの反応に疑問を持つ。
「俺の召喚したオーガを魔法一撃で倒れたんだ。このくらいじゃないとオーガは一撃じゃ倒れないはずだ」
ぐ…まさかあの時点でバレてたのか…?
「え…ミヅチの召喚したやつを一撃で!?」
「ああ」
「…空を飛んだりミヅチさんのオーガを一撃で倒したりなんてマコトさんすごいです!」
シズクがキラキラした目でこっちを見ている。
やばい余計目立ってしまった…
「と、とにかく!こんな子が仲間になってくれるのは嬉しいわね!」
「え?ちょっと待って下さい」
「ん?どうかした?」
いやいやどうかした?じゃないよ。
「なんか勝手にギルドに入るような流れになってますが…」
「あれ?入るって言ってなかったっけ?」
いや言ってないよ。
「もしかして入ってくれないんですか…?」
うっ…シズクの上目遣いが発動した。
しかも泣きそうな顔してるよ…これ断りにくいじゃん!
「…わかりましたよ。入りましょうこのギルドに」
空気が明るくなったような気がした。
「おお!入ってくれるか!ありがとう!」
自分はミヅチと握手する。
「まぁ…えーと…よろしくです」
これで自分はこのぐうたらギルド『紫の集い』に入ることになった。
正直、このギルドは不安だ…
「そういやこのギルドマスターは誰?」
「ん?俺だけど?」
やっぱり…さっきからギルマスの言葉が出てるからそうなのかと思ったがまさかの的中か。
「…なんだい?俺がギルドマスターで不安かい?」
ええ。とてつもなく。
「まぁミヅチがギルマスなのかはどうでもいいとして…」
「おいおい質問してきたのはマコトだろう…」
ミヅチがなんか言ってるが無視無視。
シズクとナギサに話しかける。
「このギルドには何人いるの?」
「んー?確か8人だったかな?マコトちゃんを入れて9人」
少なっ。でもその割にはギルドはデカいな。
「他の人は今ちょっと出かけてていないんですよ。明日の夜には帰ってくるとは思いますが…」
「はぁ…なるほど」
あと5人は別の場所にいるらしいね。
「あ、ミヅチミヅチ!マコトちゃんの部屋はどうするの?」
「その事は大丈夫だよ。ちゃんと準備してるから」
え?部屋っすか?自分専用ですか?
「マコトついて来てくれ」
ミヅチが部屋から出る。自分はミヅチの後を追った。
階段を登っている時にミヅチが話しかけてきた。
「そういやマコトの職業は何だったんだい?」
ああそうか。ミヅチは挨拶の時いなかったんだっけ。
「えっと…妖術師だよ」
「妖術師?なるほど良かった」
良かった?どういう意味だろう?
「このギルドの名前疑問には思わないか?なんでこんな名前なんだって」
「え…う、うん」
「実はこのギルドにいるメンバーは全員特殊で他にはいないような職業なんだ」
まじっすか。確かにシズクやナギサの職業は変わった職業の名前をしていたっけ。
「って召喚師は他にいないの?」
「ああ。召喚師は今の所俺一人だよ」
なるほど。召喚師といえばゲームとかアニメじゃ普通にいそうだけど。F○のユ○ナとかさ。
「紫ってのは特殊とかって意味?」
「まぁそんな意味もあるけど、俺が好きな色だからかな」
結局あんたの好みかい!
3階まで登っていくとたくさんの部屋の扉が並んでいた。
ミヅチは迷わずに進み、ひとつの部屋の扉の前で止まった。
「さてと。ここが今日からマコトの部屋だ。ちゃんと場所を覚えておくように」
「はーい」
自分の部屋の場所は左から三つ目の部屋だな。
「んじゃ失礼しますよーっと」
ガチャと開けると10畳くらいかな?結構広い部屋でした。
ふかふかなベッドと棚が置いてある。
「今は殺風景だけど自分でアレンジしても大丈夫だよ」
ほう。インテリアセンスには自信がありますよ自分。
「まだご飯には早いし先にお風呂入ってきたら?」
「え…?」
ちょっと待って?自分下着とか無いよ?
「ああ下着とかはナギサとシズクが準備するから大丈夫なはずだよ」
よ…良かった。
自分はミヅチから教えてもらったお風呂の場所に向かった。
「やっほーマコト。下着持ってきたよ」
途中ナギサと会った。
「え?ああ、ありが…」
ちょっ…!?なんですかこのひらひらした物は!?これ完璧に女性用じゃないか!?って自分今は女だった。いやそうだとしてもだよ!?
「こ…これは…!?」
「あ、もしかして嫌?私のお下がりだけど…」
な…なんだってー!?
「あの…申し訳ないんですがこんなにひらひらした物はちょっと…」
「そう?結構好きそうだと思ったんだけど…今日はこれで我慢して。明日シズクと買いに行きましょう?」
むぅ…それなら今日は我慢しましょうか。
てか未だに自分が女だって忘れちゃうな…
考えてたらお風呂もとい温泉にご到着です。
「あ、私も後で入ろうかな」
な…なんだってー!?ナギサさんが入ってくるんですか!?
「マコト。できれば長く浸かりたいから入って待っててくれるとありがたいんだけど…」
「え!?あー…うんわかった?」
「よし!それじゃ仕事終わったら行くから待ってて!」
ナギサは自分に下着を渡して戻っていった。
「……どうしてこうなった」
いや自分女だしこうなるのは予想していたが…まさかもう来るんですもの!
「まぁいいや入ろ…」
自分は温泉に入ることにした。
「はぁ…やっと脱げたよ」
現在自分タオル一枚です。
自分あんな服着たことないから脱ぎ方が全然わからんかった…
おかげで少し時間がかかってしまった。
「てか随分と立派な温泉だな…」
上は星空になっていて露天風呂だった。
「ってしまった。髪が長いとシャワーとか大変じゃないか?」
とにかく洗い場で洗うだけ洗ってみようか。
自分は近くの洗い場に向かい、いつもリアルの時のように髪と身体を洗った。
「まぁ適当でいいよね」
さてこんなにデカい大浴場に入るのは初めてなので少し楽しみでもあった。
自分は軽く洗って、早速入ろうと向かったら━━
ツルッ→ビターン!
「っ~~~!?」
顔から滑ってしまった…
めちゃくちゃ痛い!ただでさえ床は石なのに!
「マコト?何してるの?」
ナギサの声が聞こえた。まさかもう入ってきたのか!?
後ろを向くとナイスバディーなナギサが立っていた。
「えっと…ちょっと滑っちゃって…」
「へぇー?マコト意外とシズクみたくドジっ子なんだ?」
「ちょっとナギサさん!私はドジっ子じゃないですよ!」
後ろからシズクが現れた。身長は明らかに小学生ぐらいしかない。結んでいたピンク色の髪は腰下まであった。
「あはははごめんごめん!」
「もう…あ、マコトさん大丈夫ですか?」
シズクが自分を顔を触ろうとする。
しかし自分は身を引いてしまった。
いや女の身体だけど心は男なんですよ?こんな美少女が二人もいる温泉にいるなんてアニメとかでしか見たことないよ!
「だ、大丈夫大丈夫!」
自分は逃げるように温泉に入る。
やっぱり自分ってチキンだ…
数分後シズクとナギサも入ってきた。
「マコトさん意外とスタイルいいですよね…」
「ふぇっ!?」
突然のシズクの言葉で変な声が出てしまった。
「確かにマコトちゃん腕とか細いよねー」
細い割には筋力高いんですけどね?
「マコトさんどこから来たんですか?」
「あーそれ私も聞きたかった。どこの国?」
うっ…転生あるあるのひとつ、出身地を聞かれると困るやつだ…
東京とかいってもわからないだろうし…
「えっと…その…ノーコメントで」
「えー」
再び揃って残念そうな顔をする。
この後数十分は話しただろうか?この世界の歴史や事件のこととか色々話した。
空に広がる星は見たこと無いくらい流れ続いていた。