姫様の異変
「全く…」
「ごめんねギル。無理させてるよね?」
ギルバートはため息をつきながら歩く。
「無理も何も…ガランヴィールに何の用なんだ?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
「そうか…なら俺もマコトに聞きたいことがあるな」
え?ギルが自分に聞きたいこと?
「なに?」
「ああ…マコトはガランヴィールが憑依されていること知っているのか?」
自分は声を殺して驚いた。な…なんで知ってるんだ!?
「なるほど…マコトの目的はガランヴィールの憑依状態を確認したいのか」
「う…おっしゃる通りです…あれ?ギルもガランヴィールが憑かれてるってこと知ってるの?」
「ああ。最近あいつの動きが不自然だったからな。リスアスに聞こうとしたんだが…マコトは予想外だ」
だろうね。マリから聞いただけだし。自分は全く関係ない。
「話を聞いてるとギルも手伝ってくれるの?」
「…残念だが一緒にはできない」
「え?なんで?」
「俺はこれから別の街に向かう予定がある。二、三日には戻って来れると思うが…」
マジっすか。ギルが手伝ってくれると楽なのになぁ…
「そう…まぁいいや。こっちの独断だから、自分で何とかすることにするよ」
「すまん。後で結果を聞かせてくれ」
「了解」
そうこう話している内にリスアスの部屋前に着いた。
「邪魔するぞ」
ギルは無愛想モードに切り替えて扉を開ける
「ああ、ギルバートさんですか。おや?マコトさんも一緒ですか……」
なんか不安そうだな。そんなに自分がいて不安か?
「あら?変わった来客ね」
自分は声を聞いて固まった。明らかにリスアスやギルの声ではなく、女性の声だ。
「…アストリエルの姫か」
そう。今ギルドにいるはずのユマリアと瓜二つの姫だった。
「ユマリアと申します。漆黒の翼ギルバートさんですね?お会いできて嬉しいわ」
「…光栄だ」
「ふふふ…リスアスから聞いた通り無愛想ですわね」
うーんどこをどう見てもユマリアとそっくりだ。違うところといえば髪の長さと口調かな?
「あら。可愛らしい女の子ですわね?ギルバート様のパートナーですか?」
吹きそうになった。
「……ユマリア姫。その子はマコト。決してギルバートさんの彼女ではありませんよ」
グッジョブギルマス!多分ギルも同じことを思っただろう。
「…小娘。挨拶しろ」
「あ、うん…えーと、はじめましてユマリア…姫。マコトです」
自分はとりあえずいつも通りに軽くあいさつする。
「あら。ご親切にどうも。なら私も改めて自己紹介しましょう…ユマリア・アイフィラルトです。アストリエルの姫ですわ」
ユマリア姫は貴族みたいなおじきをする。あ、貴族だわ。
「さて…ギルバートさんはわかるのですがなぜマコトさんが?」
「ガランヴィールに用があるそうだ」
「…『歩く城壁』にですか?なぜ?」
どうしよう。ガランヴィールは憑依されているのか確認したいとかいえないよな…
「えーと…その…」
「はぁ…そうですね。深く追求しないことにしましょう」
おお!気遣ってくれた!ありがとうリスアス!
「ああそうだ。マコトさんに渡したいものがあります」
リスアスは机の引き出しから紙を取り出し、自分に渡す。
「これは?」
「後でご確認ください。ではギルバートさん報告を」
「ああ…だが小娘。お前は出ていくといい」
「ええ!?まだガランヴィールの話が…」
「すみませんマコトさん。ギルバートさんの報告は機密情報なので…ユマリア姫もお願いできますか?」
「あら。わかりましたわ。わたくしも退場しましょう」
自分は渋々と偽物と思われるユマリア姫と一緒に部屋を出た。
「えっと…マコト様でしたか?」
「え?はい」
部屋を出た後すぐに姫様に話しかけられた。
「ギルバート様と仲が良く見えましたが…本当にお付き合いしていないのですか?」
「付き合ってません!」
まるで女子高生みたいな奴だな。人の恋愛話を面白半分で聞いてくるタイプ。
「あらあら…ギルバート様とマコト様はお似合いだと思いますけど?」
「…それはどうも」
話しながら歩いているとユマリア姫は別の道に進んだ。
「では私はこれで失礼しますわ」
「あ、すみませんひとつだけ聞いていいですか?」
「何でしょうか?」
「…いや。やっぱりいいです。引き止めてすみません」
「ふふ…変わった人。また会えるといいですね」
近くに来た護衛の人が姫様について行った。
「やっぱりおかしい…」
「何がおかしいんだ?」
「うわぁ!?」
後ろから突然声を掛けてきたのはギルだった。
「お…驚かさないでよギル!」
「すまん…」
「全く…ところで報告は?もう終わったの?」
「ああ。報告といっても状況報告みたいなものだな。リスアスの指示を貰ってきただけだ」
ギルはひらひらと一枚の紙を見せる。どうやら証明書のようだ。
「で?さっき呟いてたけど、何がおかしいんだ?」
「え?ああ…えっと。姫様の様子がおかしいんだよ」
「様子がおかしい?どういうことだ?」
「あー様子じゃないか…魔力のことかな」
ミヅチやシエル、ギルにもだが、魔力を種族関係なく纏っている。それは空気中の魔力を無意識に溜めているから。
でも獣人の尻尾が無く、魔法の使えないマリには魔力を纏うことがないので魔力探知できない。
「あの姫様…魔力は感じるんだけどかなり薄いんだよね。集中しないと感じ取れないくらい」
「ふむ…それが確かならおかしいかもな。いくら貴族でも魔力はあるはずだからな…体質にもよるが」
「……」
ここで考えても埒が明かない。今はガランヴィールを探さないと。
「あ、ガランヴィールの場所聞けなかったんだっけ…」
「マコト。たしかリスアスから何かを貰わなかったか?」
そういえば確かリスアスから紙を渡されたような…
自分はすぐにリスアスから貰った紙を取り出す。
「…これは?」
『承認書 『歩く城壁』ガランヴィール一行殿
《暗き森の神殿》を探索することを許可する。』
「…承認書だな。受けるクエストの許可証みたいなものだ」
「なるほどね…確かにこれを見れば一目瞭然だね」
ガランヴィールがいるダンジョンは《暗き森の神殿》。
日付を見る限り三日はかかるらしい。その間にダンジョンに到着すればいい訳だ。
「ん?マコト。裏に何か書いてあるぞ?」
「ほんとだ…走り書きだけど文章になってる」
『姫の件は真。くわしくはあとで連絡』
どうやらあの姫が偽物というのは本当だったみたい。
こっちはリスアスに任せよう。今はガランヴィールに会うことにしようかな。
「暗き森の神殿か…攻略済みのはずだがなぜ?」
「そうなの?じゃあ出てくる魔物とかわかる?」
「ああ…森の神殿だからな。植物系の魔物が多い。毒や麻痺を駆使するはずだ」
うわ…毒は大丈夫だけど麻痺はまずいかも。
「情報ありがと。じゃ行ってくるよ」
「ちょっと待てマコト!まさか一人で行くつもりか?」
「…?そうだけど?」
「やめておけ。少なくとも二人…三人で行ったほうがいい」
「そうなの?簡単そうに見えるけど…」
「いいから三人でいけ。マコトの妹を連れていくといいだろう」
シエルを?でもなんでそんなに心配してるんだろ?
「それと魔法攻━━」
「あーはいはい!わかったから!三人で行けばいいんでしょ?ギルはお節介屋さんなんだから」
「む…俺は心配してるんだよ!」
「ふぇ?」
その気持ちはありがたく受け取るけど…なんか違和感。
「まぁ、気をつけるから心配しないでよ。自分の結果を楽しみに待ってて」
ちょっとフラグっぽいこと言ってるけど大丈夫だよね?
自分はギルと別れて、とりあえず『紫の集い』ギルドに帰ることにした。