神の策略
「魔法…?」
クロミに憑いている女神は自分に魔法を教えてくれるそうだが…
『はい。ですがあなた達の使っている魔法ではありません。この魔法は一度使うと二度と使えません』
一度きりの魔法…ということは使ったら死ぬみたいなかなり危ない魔法なのか…?
「でも…女神様が頼んでいるからな…詳しく教えて」
「ちょ…ちょっと待てマコト!」
ミヅチが女神に魔法のことを聞こうとしたら止められた。
「女神様その魔法俺にはできないのか?」
え…?ミヅチなんで?
女神は少し声を下げて話す。
『…残念ながらこの魔法はマコトにしか使えません…安心してください。詠唱したら死んでしまうような魔法ではありません』
「でも一度きり…まさか攻撃魔法?」
『そんな物騒な魔法ではありませんよ。この魔法は回復魔法ですから』
か…回復魔法なの!?
「一度きりの回復魔法だと?どこで使うんだ?」
ミヅチも同じ所に疑問を持っていた。
この世界には一応蘇生魔法はある。死んでから三十秒以内に詠唱しないと効果はないが…
「少なからずマコトが使うような魔法では無いはずだぞ?」
『いいえ。マコトはこの魔法を必ず使います。いえ…マコトには必要なのです』
自分に必要な回復魔法…?それを使わないといけない時があるってことか。
「それはいつになるの?」
『それは教えられません…』
まぁそりゃそうだよね。知ったら運命変わるかもしれないからね。
「わかったよ女神様。その魔法を教えて」
『わかりました。では目を閉じて━━』
ミヅチは不安そうな顔をしているがこれは自分を強くできるチャンスなのだ。我慢してほしい。
自分は女神の言う通り静かに目を閉じる。すると突然周りが静まり返る。そして次の瞬間、急に宙に浮くような感覚になった。
自分は咄嗟に目を開けるとまるで宇宙空間のような場所に浮いていた。
「うわぁ!?ここどこ!?」
建物の中にいたはずなのに全く違う場所にいる。
『…恐れないで。大丈夫です』
頭の中から女神の声が聞こえる。
一体どこに大丈夫という言葉があるのだろうか!?宇宙空間なんだから酸素が無くて死ぬんじゃ……
「あれ…?息は……できる」
呼吸は普通にできていたのだ。
少なからずここは宇宙じゃないってことか?
でも風の音すらしない、ただただ無音が続く場所だった。
「ねぇ女神様!ここで何すればいいのー!?」
シーン。
ちくしょう!無視か!?それとも声が届いてないのか?
「それにしても…ここは一体どこなんだろう?」
もしかして転移したとか?でも目を閉じただけで転移するなんてありえないしな…
「オオォオォォォ━━」
「…なんの音だ?」
突然うめき声が聞こえてきた。
「奥から聞こえる…」
といっても先は真っ暗闇の空間が広がっている。
どうしようか…?女神様の言葉を待つかそれとも音を確かめに行くか…?
「なんか嫌な予感がするな…待とう」
何故か危機探知スキルが反応しないけど本能的にやばい予感がする。自分はすぐにその場から離れようとした。
「オオォオォォォ━━!!」
「えっ…!?」
突然触手のような物が自分の左腕を掴み、引っ張る。
「ちょっ…!?離せっ…!」
自分の腕力の方が勝ってはいるが…一体なんだこの触手は!?
出現先はどうやらあの暗闇の中からのようだった。
「くそ…魔法で…!『ウィンドブラスト』!」
自分は魔法で触手を切ろうとするが…
「うそ…!?なんで!?魔法が発動しない!?」
なんでだよ!詠唱はできたけど魔法が現れないぞ!
すると触手はさらに出現して自分の右腕も掴む。
「やば…いっ!?」
強い力で引っ張られて自分は暗闇の中に飛び込んでしまった。
「でっ…!」
あそこでは宙に浮いていたのだが暗闇の中には地面があり、叩きつけられた。
「いつつ……今度はどこだ?」
自分は周辺を見渡すが真っ暗で何も見えない。いつの間にか黒い触手も消えていた。
「というか…これって本当に女神様が準備した奴なのか?明らかに悪意のある物ばっかり出るけど…」
まるで混沌の神の力によって予定していたのと違うことになっているような…
「それってフラグ━━きゃああああ!?」
なぜ足から触手がー!?自分はそのまま吊るされた状態になってしまった。うえ…頭に血が昇る…。
あ、スカートはちゃんと押さえてるよ?
『━━察しが良いな小娘よ』
突然頭に声が響く。女神様と同じ話し方だが明らかに男の声で女神ではない。
「誰!?」
『威勢が良いな…女神も良い人選をしたな』
おい!無視すんな!どこにいるかは真っ暗でわからないけど!
「このっ!『マジックバレット』!」
空いた手で魔法を詠唱するが…
『どうした?魔法が出てこないぞ?』
ちくしょうまたかよ!?なんで魔法が出てこないんだ…!?
『ククク…教えてやろう小娘。言うならばここは我の体内。お前程度の魔力なんぞかき消すことが出来るのだ!』
つまり魔法使用不可!?なにそのトラップ!?
「じゃあ自分をどうするつもりだ!?」
今自分は完全にあっちの手の内にいる。このまま殺される可能性があるが…
『ふむ…ただ殺すだけじゃつまらんな…』
すると黒い手の触手が動き始めた。今度は両腕を持ち上げるような態勢になる。
もしかして…薄い本展開じゃないだろうな!?
いかん!いかんぞ!?自分そんな趣味ないから!
『少しずつ殺すことにしようか』
グチャ。
「━━━━えっ?」
突然自分の左半分の視界が無くなった。そしてだんだん痛みが強くなってきて…
「あ…あぁぁぁあああああああああああああああ!!」
『ハハハハハハハハハハ!良い声で叫ぶ!左眼を潰しただけで死ぬでないぞ?まだまだこれからだからな!』
何か言っているが理解できない。痛みと恐怖で自分をコントロールできないのだ。
『次は…右足か』
「ひぐ…!?」
自分の右膝から下があっけなく切り落とされる。
「━━━っ!!」
『ほう…?悲鳴を上げずに耐えるか』
薄い本とか冗談言ってる場合じゃない…このままじゃあ本当に…
(死ぬ……!)
『良い表情だ…これだから人間は面白い』
「こ…の……悪…魔……!」
『どうした?息が苦しそうだぞ?…そら!』
「ぐっ……!」
腹に触手を鞭のように叩かれる。やばい…意識が…
限界で意識が朦朧とする中、突然光が差し込んできた。
『ぬ…!?この光は…!?』
光は自分の周りの触手を消していく。
『運のいい奴よ……また会おう小娘。今度会うときは直接我が手を下そう』
「お断…り…だ」
自分は光に身を任せ、そのまま包まれた。
「━━コト……マコト!」
「━━━━はっ!?」
目を開けると自分は仰向けに倒れていた。
自分の視界にはミヅチとマリがいた。
「左目…大丈夫だった…?」
自分で顔を触ると問題なく目はあった。ただあまりの恐怖だったのか涙が出ていた。
「良かった……大丈夫?うなされていたけど…」
「大…丈夫って訳でもなかったかも」
なんせ死にかけたんだ。まだ身体が震えている。
自分はゆっくり起き上がった。良かった右足も無事だ。
というか夢だったのか?でも痛みは普通にあったし…
『マコト……すみません私のせいで……』
女神は悲しい顔で謝っていた。
「どういうことだ女神?」
ミヅチは女神様に問いかける。もしかして今のは女神様がやったことじゃないのか?
『あれは混沌の神……どうやらあなたの中に少し入り込んでしまっていたようなのです…』
混沌の神が自分の中に…?まさか祭壇に近い所にいたから少し入り込んでしまったのか?
『すみません…声が届かなかったのも混沌の神の力によるものです…私の判断の甘さがあなたに辛い思いを掛けてしまいました…』
「いや…大丈夫…とは言えなかったけど助けてくれたのには感謝するよ」
『…私は何もできませんでしたよ?助けたのは何かの間違いでは…?』
え?どういうことだ?あの光は女神様の光じゃなかったのか?
「まさか……」
自分はスキル一覧を見る。すると一つだけ新しい魔法があった。
「……これが女神の魔法…?」
スキル名にはユニークスキル
『ホーリードライブ・オーバーリザレクション』
「って長いよ!」
女神の魔法だし長いのは当たり前なのだろうか…?
自分は少々不安ながらも女神様の魔法を習得することができたのだった。