余裕のあるチート魔法使い
慈愛の街セルフィア。
トーエンティスというこの国で一番大きく、発展が進んでいる街の中でも一、二位を争う大きな街らしい。
中世ヨーロッパみたいできれいな街だ。
ファンタジー感マックスだね。
「にしてもデカすぎやしませんかね…?」
あまりにも街が広すぎるのだ。
多分東京ドーム5個以上は余裕であるよこれ?
「まずはマコト君の職業を確認しないとね」
この広い街に教会とか探せる自信ないんだが。
「大丈夫だよ。俺が案内するから」
「その前になんで自分を拉致した?」
なぜ今聞くかというと馬車で聞き忘れたからだ。
「拉致とは失礼だな?ちゃんと断ったじゃないか」
いやあなたが勝手に話を進めたんですが。
しかも自分の返答関係なかったし。
「じゃあ…理由は?目的とかあるでしょ?」
「んー今話すと長くなるよ?」
「あ、じゃあいいです」
長いと聞いて本当に長かったら面倒だし。
とりあえずいまはミヅチといるのが先決な気がする。
自分一人じゃ迷いそうだし。
ミヅチの後ろを歩いていると他の歩行者に目が行く。
ケモミミ付いてる人とか、ドラゴンみたいな翼が付いてる人とか、エロフ…おっとエルフ耳の女性だったり、色んな種族が沢山いる。
「ねぇミヅチ。この世界ってどのくらい種族がいるの?」
ミヅチに種族の数を聞いてみる。
「ん?種族かい?そうだね…」
ミヅチは歩きながら腕組みをして話す。
「まず俺らみたいな人間族。これはこのトーエンティスの中では一番多い。次に獣人族。あちらこちらに耳や尻尾が生えたやつがいるだろ?動物の種類によって能力も変わるらしい。ただ…」
ミヅチが急に口ごもる。
なにかタブーなことなのだろうか?
「…動物の種類で差別化され始めてるんだ。困ったもんだよ」
ケモミミ差別ですか。困った世界だ。
他にも、竜族やエルフ族、天使族もいるとか。
あと、種族かどうかはわからないけど半分機械とかでできてる人もいるとか。ペル○ナのア○ギスみたいな。
「さてと、ここがセルフィア教会だ」
15分ぐらい歩いてきてやっと着いた。
案内された教会の建物の上には大きな十字架が立っていて一目で教会だってわかる。
そしてミヅチが急に後ろを向く。
「んじゃ俺は用事でおさらばするよ」
「ちょ、まってよ!セルフィアの案内は!?」
「大丈夫さ。ちゃんと別の案内人を用意するよ。確認し終わる頃には来るはずさ」
そういってミヅチは手を振りながら去っていった。
「なーんか適当なんだよなあの人…」
そして別の人が来ると。コミュ障にはキツイねこれ。
「…とりあえず入るか」
教会の重い扉を開けて中に入る。
「…おじゃましまーす…」
何処からかグランドピアノの音が聞こえる。教会だからかな?
てか教会も広いね。蒼炎の人とか出そうな雰囲気だ。
「あら?どうしたのですか?」
教会の真ん中ぐらいまで歩いていたら声が聞こえた。
優しい声!まるで母みたいな優しい声が聞こえましたよ!
感動してないで早く声の主を見るんだ自分!
前を見るとステンドグラスの下にシスターの姿が見える。
おお!シスターさんや!ゲームでよく見るけど実際に見るとやっぱりかわいいよね。
おっといかんいかん…危うく目的を忘れるところだった。
「あ、えーと、職業を確認したいんですが…」
「ああ、職業を確認したいのですか?ではこちらへ」
シスターに招かれながら自分は横の通路を進んだ。
「あの…職業はどうやって確認するんですか?」
自分はシスターに質問をする。
「それは見てのお楽しみですよ」
シスターは笑顔で答える。お楽しみですかそうですか。
水晶玉で見るとか?それとも神様の教え的なやつ?
考えているとシスターと自分はある扉で止まった。
「ん?ここですか?」
「はい」
自分はなぜシスターが開けないのを不思議に思いながら扉を開けた。
「……え?」
部屋はかなり広く、機械が沢山置かれていた部屋だった。
部屋というより広場?
教会は普通機械とか使わないよね?
雰囲気ぶち壊しだけど大丈夫?この教会。
パソコンとかカタカタしちゃう系?
「あ、でも教会要素はあるか」
部屋の真ん中に水晶玉みたいな球体がある。
あれで確認するのかな?
教会要素がこれだけなのはどうかと思うが…
「お待たせしました」
後ろから声が聞こえ、ビクッとなった。
我ながらビビりだね。
「まずお名前を教えてください」
「えーと、マコト」
「はい。マコト様ですね」
なにかタブレットPCみたいなやつを操作している。
ここ教会感ゼロだな。なんかの研究所とかじゃないのか?
「では中央の水晶玉に触れて下さい」
でもどうやら本当に水晶玉で調べるみたいだ。
よく見ると他のシスターさんが別の機械の前に立っているではありませんか。
おうふ。公開できるような職業だといいんだけど…
「まぁ、多分魔術師か幻術師とかだろうけど…」
自分のステータスを見れば大体決まってそうだろう。
自分は水晶玉に触れる。
水晶玉は光り出し、シスターが機械を操作する。
「えーと、マコト様の職業は…」
「…妖術師ですね」
え?ちょっと待って?
今妖術師とか言わなかった?
魔術師となにが違うの?
「あの、妖術師と魔術師ってなにが違うんですか?」
シスターに質問。だけどシスターも驚いていた。
そして答えは自分を心を貫いた。
「いいえ…そもそも妖術師自体初めて聞くのですか…」
なんと!もしかして自分ただの最強魔法使いじゃないのかい?
「でも魔術師と違う所はおそらく魔法の強さが魔術師より強い所でしょうか?」
あの、シスター?疑問形だよ?
「…これって公開しない方がいいんでしょうか?」
妖術師という謎の職業だし、嫌な目で見られそうなんだよね…
「ええ。こういった異例の職業は他にもありましたから。なるべく公開はしない方がいいかと。」
あ、前例あるんだ。
「うーん…まぁ結果がこれだしね」
この世界で初の妖術師誕生になるかもしれないし。いやなってるか。
「とにかくこれで職業確認は終了です。お疲れ様でした」
教会で職業を確認してとりあえず外に出た。
「…妖術師ねー」
妖術を使う魔法使い?意味がわからん。
和風と洋風が混ざってるよ。
「もしかしたらスキルになんかあるかも」
自分はスキル一覧を開き、妖術らしいスキルを探した。
「…これか?」
なんと怪しいスキルが三つも見つかった。
変化、身体強化、五感強化。
うん。ほぼ強化だね。
「五感強化ってもしかして危機察知スキルの効果を上げてるのかな?」
てことはあの森の時のナイフはこれのおかげかな?
盗賊達の暗殺スキルを上回るか。
ちなみに身体強化と五感強化はパッシブなので魔法スキルではないが。
でも変化だけアクティブスキルだった。
「変化ってどのくらいまでだろ…」
全身と声帯までか見た目だけなのかわからないのだ。
変装とかには使えそうだけどね。
「まぁ、試しに…『変化』!」
ボンと煙が自分を包み、姿を変える。
ちなみに何を変化させたかというと…
「おお…!ついてるついてる!」
自分の頭を撫でる。そこには二つの耳。
そう。私はケモミミを生やしてみました。もちろん尻尾もね?
ベースの動物は狐。髪も黄色に近いので狐にした。
手鏡とか欲しいなぁ…
尻尾が付いてるか確認した。
おお!自分のモフモフ尻尾がゆらゆらと揺れている!
モフりたい!めっちゃモフりたい!
だが残念なことに尻尾に手が届かない。
わずかな沈黙の後、自分は悟る。
「獣人はなるものじゃない、見てモフるものだね」
ポンと耳を消し、周囲を見渡す。
代わりの案内人が来ないのだ。
「終わる頃にはって言ったけど来ないじゃん…」
もしかしてケモミミで遊んでたら見間違いされたとか!?
「━━ど━…て…!」
「ん?」
空から何かが聞こえる。
上を見てみると、
「そこのひとどいてーー!!」
「ええ!?」
親方ー!空から女の子が!
いやそんなこと言ってる場合か!
「そうだ!『マジックフライト』!」
自分は咄嗟に魔法を発動させる。
名前通り、魔力で空が飛べるようになる魔法だ。
一回使ってみたかったんだよね!
「うわっ!とと!」
もちろんこの魔法は初めてなので飛び方が上手くいかない。
「くっ!気合ー!」
グラグラしてるけど自分は少女に向かって飛んだ。
「キャアアアア!!」
「ほいっと!」
ジャストキャッチ。
空中で少女を受け止める。
「ふー…大丈夫?」
自分は少女に怪我がないか確認する。
「は…え?…」
あ、だめだこりゃ。混乱してる。
「お、おい!あいつ空飛んでるぞ!?」
「人間じゃないか!?」
下の人達が自分を指さして驚く。
やべ、街の中で空飛ぶのってまずかったかな…?
「ごめんちょっと飛ばすよ!」
「へ?…きゃ!」
自分はとりあえず教会の近くを離れた。飛びながら。
「よしここまでこれば…」
人がいないような路地裏を見つけ、着陸する。
「大丈夫?ごめんね急に」
優しく少女を下ろす。
「あ、えーと…助けてくれてありがとうございます」
少女は頭を下げる。見た目は小学生かな?
ロリコンじゃないよ?
「すみません。私はシズクっていいます。えと…あなたは一体…?」
「ああ、自分はマコト」
自分の自己紹介をするとシズクは驚いた顔になった。
「え!?じゃあミヅチさんが言ってたマコトさんですか!?」
「ミヅチ?ああ、うん」
シズクは慌てて髪を整えたりする。
「すすすすいません!とんだご迷惑をおかけしてしまいました!」
シズクは深々と頭を下げる。
「あー、もしかしてシズクさんは代わりの案内人?」
「は、はい…」
なんてこったい。空から降ってきた女の子はミヅチが呼んだ案内人だったのか。
「てかなんで空から降ってきたの?」
「え!?あー…えっと…」
シズクは目をそらす。
「ちょっと転移失敗しちゃって…」
「転移?」
うーん。ワープみたいなものかな?
「あ、ここで話すのもなんですからギルドに来ませんか?」
「ギルド?」
「はい!私達が入っているギルドに招待するんです」
「へぇー?」
歓迎されてるのか。いやまだギルド入るとは言ってないぞ?
とりあえずそのギルドに行ってみよう。
こんな薄暗い路地裏に女二人でいたら不良とかに襲われそうだしね。
「おや?お嬢さん達こんな所に何か用かい?」
フラグだった。
声の主はスキンヘッドの野郎だった。
そいつの後ろからゾロゾロと同じような奴が出てくる。
おいおい…ここは世紀末の路地裏か?
気づけば不良共に退路を断たれていた。
「へっへっへっ…いけねぇなぁこんな所にいると…」
「いると?」
「こんなコワーイお兄さんに悪いことされるからだよ!」
先頭のハゲが武器を抜いて走ってくる。
「あわわわ…ど、どうしましょう!?」
「もう一回飛べればいいんだけど…」
魔法や技には連発できないようにリロード時間がある。
ちなみに『マジックフライト』は一回使ったら20分のリロード時間がある。
これ、オンラインゲームとかでよくあるよね。
「荒っぽいことしたくないけどなぁ…」
自分は走ってくるやつに手を構える。
「『サンダーボルト』!」
バチッと自分の手から雷が放たれる。
「おおう!?」
だがスキンヘッドのやつは寸前で止まった。
ちっ。もう少し前に出てれば当たったのに。
どうやらこいつら馬鹿じゃないらしい。
「こいつ魔術師か!?」
いいえ。妖術師です。
「とりあえず…『ファイアウォール』!」
自分の目の前に炎の壁が出現する。
「これで時間は稼げるはず」
自分はシズクを抱いて走った。
「えっ!?ちょっマコトさん!?」
「しっかり掴まってて!」
前は行き止まり。でも自分は足に魔法を集中させている。
「上手くいってくれ…『サイクロン』!」
中級風魔法を発動させ、空中に飛ぶ。
「うわああああああああ!?」
まずい!飛びすぎた!
家の屋根を余裕で越えてしまった。
このままだと下にある空き地に落下する!
「私に任せて下さいっ!」
シズクが空中で空き地に向けて手を構える。
「受け止めて!『ツリーウォール』!」
何もなかった空き地に大きな樹が出現した。
「どわぁ!?」
シズクが出してくれた樹の葉に落下した。
「いつつ…シズクさん大丈夫?」
「うーん…大丈夫そうです…」
木の葉っぱがクッションになってくれたみたいだった。
「あの…一体何で空を飛んだんですか?空を飛ぶ魔法は使っていてしまってしばらく使えないはずなのに…」
「ん?ああ、自分がジャンプする瞬間に風魔法を使って飛んだんだよ」
「そ、そんなことができるんですか!?マコトさんってすごいですね!」
うーん誰でも思いつく単純な風魔法の使い方なはずなんだけど…
「でもシズクさんもすごいよ?こんな魔法見たことないもの」
少なくとも自分の魔法にはこんな魔法はなかった。
「いえいえ!私は神樹遣いなので…」
「神樹遣い?」
「はい。自然の力を使って回復したり、木の壁を出して守ったりする職業です」
なるほど。森の力を借りる訳か。
「でもマコトさんの方がすごいですよ!空を飛ぶ魔法を使う魔術師なんてあんまりいないんですから!」
「え?そうなの?」
やばい目立ってしまったなぁ…
「あ!ここからならギルド近いですよ!」
シズクは案内するため先に行く。
自分はステータスを確認する。
結構魔法を使ったからMPが減っていると思うんだが。
「………」
MPが10分の1しか減ってなかった。
「…完璧チートだな自分」
とりあえず歩いてシズクの後を追った。
これからどんな困難がきても余裕があるようにしながら。