混沌の真実
ダークコンバート建物内。
自分は混沌の神の化身が封印されている祭壇を悪用していたジャックを、苦戦しながらギルドのみんなの助けのおかげで捕まえることができた。
「やれやれ…殺さないのですか?」
「殺しはしない。でも本部に送って何をしていたか話してもらうから」
現在ジャックは自分の魔法によって捕縛している。
みんなも周りにいるのでそう簡単には逃げられないはずだけど…
「…なんでこいつずっとニヤニヤしてんのかしらね?まさかまだ何かあるっていうの?」
「さぁ…どうでしょうねぇ?」
ジャックは笑いながら首を傾げる。この状況下なのにこの余裕の笑顔…かなりムカつくな…
「マコト。気持ちはわかるけど堪えて」
「…そうだね」
一発ぶん殴ってやろうかと思ったがマリに止められる。
「なるほど…この祭壇にいる化身から力をもらっていたのか…」
ミヅチは祭壇を見ながら考えている。
…確かに祭壇からは大きな魔力の塊を感じる。おそらくこの魔力が混沌の神の化身なのだろう。
「こんな危ないの壊せればいいのにね…」
「ナギサさん。迂闊に近づいてはいけませんよ?何があるかわからないんですから」
ナギサとシエルも祭壇を観察する。
「この祭壇…一体いつのものでしょうか?かなり古い時代の物だと思うんですが…」
「…少なくとも今の時代じゃない」
マリとシズクも祭壇に近づく。おいおいジャックを見張ってるの自分とリトだけじゃないか…
「…そろそろでしょうかね」
「なに?」
ジャックは呟き、自分を見る。
「…マコトさん。あなたにいい事を教えてあげましょう」
なんだ…?ジャックは口元を上げながら話を続ける。
「混沌の神…私はそれを『邪神』と呼んでいます」
「邪神…洞窟と同じ名前だ」
「おや?邪神の洞窟に行ったのですか?なら話が早い。あそこにも実は化身の祭壇があるんですよ」
まさか…あの小さな祭壇か!?
「ここと洞窟を合わせて確か…六つの祭壇に化身が封印されているのですよ」
「…なぜそんなことを教えてくれるんだ?」
「さぁ…なぜでしょうね?フフフ…」
ジャックは笑う。こいつ…何か企んでるんじゃ…?
ジャックの視点を追うと空に向かっている。自分も空いている天井から見える空を見てみた。
「な…!?なんだあれ!?」
空に大きな黒い影の生き物が飛んでいた。
「あれは…ドラゴンか!?」
黒く大きなドラゴンは突然炎の球を放ってきた。
「嘘…!?」
「きゃああああ!」
祭壇近くに着弾して周りのみんなが吹き飛ばされてしまった。
「くっ!」
何とか自分は吹き飛ばされずに済んだが、それでもかなりのダメージを受けてしまった。
すぐにジャックを確認するが隣に攻撃してきたドラゴンがいた。
「やぁ。遅かったじゃないですか」
燃え広がる炎の中、ドラゴンから降りてきたのは一人の女性だった。
「全く…あなたという人はこんな簡単な仕事もろくにできないの?」
長い赤髪で黒い鎧を着た女性だが頭に異様な角が生えている。まさか魔族の仲間か?
「ハハハ!すみませんねぇ」
ジャックは笑った後、こちらに近づいてきた。
「っ!まさか…こうなることをわかっていて…!?」
「そうです。いやぁー面白かったですよ!あなた達の余裕の顔が全員絶望に変わる瞬間!私そういうの大好きなんですよ!」
「ジャック。仕事をしなさい」
「はいはいわかってますって!『ダークボム』!」
ジャックは闇の爆発魔法を放つ。
「なっ!?祭壇が…」
ジャックは壊してしまうと世界が崩れてしまう祭壇をあっけなく魔法で壊したのだ。
「さて…あなた達はここからどうやって止めるのでしょうかね?フフフ…!」
ジャックはドラゴンに乗る。
「くそ…!逃がすか!『フロストバレット』!」
「危ないわね」
赤髪の女性は大きな斧で自分の魔法を防ぐ。
「残念ながら私達もここで死ぬつもりは無いから逃げさせてもらうわよ」
ふわりとドラゴンに乗ると羽ばたき始めた。
「待て…うわぁ!?」
突然目の前を何かが高速で横切った。飛んできたこれは…石の破片?
「マコト!早く祭壇から離れるんだ!」
ミヅチの声が聞こえた。自分は離れるべき祭壇を見る。そこからは凄まじい魔力が溢れ出していた。
「これが混沌の力…?」
祭壇はどんどん崩れていく。その度に魔力による衝撃が放たれる。暴走した機械のように周りをえぐり始めた。
自分は急いで祭壇から離れてミヅチ達と合流する。
「ミヅチ!一体どうやって止めるの!?」
「俺達で止められる訳ないだろ!?今はこの建物から急いで逃げることが先だ!」
でもこのままじゃ外に混沌の力が放たれるぞ!?それに今から逃げて本当に脱出が間に合うかどうかも危うい!
『━━私に任せてください』
絶望的状況の中、突然自分の頭に直接語りかけるように声が聞こえてきた。
「この声は…クロミ!?」
自分は祭壇の方を向くとクロミがフラフラと歩いて行っていた。
クロミはまるで別人のように大きく声を出した。
「━━我は、混沌の力を浄化する運命の者。汝は、世界を破滅する混沌の者の化身。世界の破滅は有ってはならぬもの。故に━━汝の力を浄化せん!」
突然クロミの身体から強い光を放ち始めた。
次の瞬間、混沌の魔力は光によってかき消され暖かい光が照らし始めた。
隣にいたリトはその変化に驚いていた。
「一体何が起きた…?」
自分はクロミを見る。しかし自分の知っているクロミの姿とは明らかに違っていた。
「クロミ?その翼は…?」
クロミの背中にはまるで大天使みたいな大きな翼が付いていた。
クロミ?は静かにこちらを向く。
『…安心してください。この祭壇に住みついた混沌の化身は浄化しました』
また頭に直接語りかけるように声が聞こえる。
おそらくクロミ?が話しているのだが…笑顔のまま、口を全く動かさない。
「それじゃあ…安全ってこと?」
クロミは静かに頷く。確かにボロボロになった祭壇からは強い魔力を感じない。
「つまり…助かったのか」
ミヅチがこちらに近づいてきた。どうやら声は自分だけに届いていなかったらしい。
そうだみんなは!?
「ああマコト。他のみんなのことは安心しろ。ちょっと気絶してる奴もいるが大丈夫だ」
「そう…良かった」
ドラゴンの攻撃で吹き飛ばされたはずだから心配してたけど大丈夫らしいね。
「さて…色々聞きたいことは多いが…まずお前は何者だ?なぜ混沌の力を浄化できた?」
『…私は混沌の神を浄化する為に召喚され、この少女…クロミと言いましたか?この子の身体に憑いている女神です』
「め…女神だって!?しかも憑依している…そんな事ができるのか…!?」
話を聞くとミヅチはかなり驚いていた。その割に自分はあまり驚いていてはいなかった。
いやだって憑依するのはゲームでもよくあるし。
「もしかして珍しいの?」
「珍しいってレベルじゃないぞ!?人間に憑依できるのは最高でも精霊が限界のはずだ…なのにこんな小さな少女に女神なんて…負荷が重すぎるはずだ!」
じゃあクロミの身体はかなり危険な状態じゃないか!
『…確かにクロミの身体は限界に近いです。ですが私の役目は終わりましたのでおそらく大丈夫です』
役目は終わった?それはどういうことだ?
「でも祭壇はまだ五つあるはず。役目はまだ終わってないんじゃ…?」
『私の役目は混沌の力を浄化することですが…残念ながら力を浄化…つまり混沌の力を消し去るには私一人だけでは不可能です』
「ええ!?じゃあ…残りはどうやって止めればいいの!?」
少なくともあと五人の女神が必要ってことになるぞ…大丈夫なのか?
『マコト…あなたに頼みたいことがあるのです』
「え?自分に?」
もしかして力分けるから自分で祭壇を浄化しろとかじゃないだろうな!?
『あなたに━━魔法を教えます』
それは予想を上回る言葉だった。