本物の噂と油断
「━━姉様…マコト姉様」
「う…うん?」
「ああよかった!大丈夫ですか?」
自分は気がつくと自室のベッドに寝ていた。
「姉様は廊下にタオル一枚で倒れてたんです。私が買い物をしてる間に一体何があったのですか?」
「えーと…ちょっと嵐に巻き込まれた」
「嵐…?」
「いや…何でもない。大丈夫だよ」
後頭部がなんかズキズキするけど気にしないことにしよう。
「そうだ姉様。ミヅチさんとリトさんが呼んでましたよ」
「え?なんだろう…?」
嫌な予感がするけど…
自分は服…といってもいつもの御霊服だけど。それを着てミヅチ達がいる部屋に向かった。
「きたかマコト」
部屋の中にはミヅチとリトが座って待っていた。
「廊下で倒れてたって聞いたけど…大丈夫だったかいマコト?」
「え?あー大丈夫だよ。心配かけちゃったかな?」
「タオル一枚で走り回ったとか聞いたから…」
おそらくナギサかマリだろう。でもなんでだろう?逃げてたのは覚えてるけどその後の記憶がない。
「まぁそこら辺はどうでもいいんだが…いいか?」
「ああごめん。大丈夫」
「あくまで噂だが…ダークコンバートがこの街に入ったらしい」
「……え?」
それって誘拐集団がこの街に出るってこと?
「や…やばいじゃん!」
「だがあくまでも噂だ。でも用心したほうがいいだろう?」
「それはそうだけど…」
かなり不安だ。誘拐される気はないけど怖いのは当たり前だ。
「そこでマコトはリトと行動してほしい」
は?どうしてそうなる?
「マリとマコトだけではおそらく同時に誘拐される可能性がある。そのためマコトはリトと、マリは俺と外を出る時は一緒に行動することにした」
まぁ確かにそれなら誘拐される可能性は減るよね。自分とマリだったら一応年齢的には対象だし本当に誘拐されるか。
「もしかして僕だと不安かい?」
「全然不安じゃないよ。ミヅチじゃないからね」
「…それは俺よりリトの方が安心するってことかい?」
そうだよミヅチ。お前と一緒だったら目立つだろ!
「このことはマリにも?」
「ああ。もう伝えてあるさ」
それなら大丈夫だね。
「それじゃマコト。今日は外に出る予定は?」
「ん?えーと…予定はないけど、ただ街をふらつくのは駄目?」
「外に出るなとは言ってないから大丈夫だが…気をつけろよ?」
ミヅチって自分とマリが誘拐されちゃうのがそんなに心配なのかな?そんなに心配しなくても警戒はするさ。
「ミヅチも心配性だねー」
自分とリトは結局街をただふらつくことになった。
「そりゃそうだよ。ミヅチってああ見えて仲間思いなんだ」
「…少なくともそうは見えないけど?」
「まぁ表に出さないようにしてるからね。例えばマコトが転移トラップで転移したら、多分一番早く動くのはミヅチだと思うよ」
そんな強い仲間思いには思えないけどね…でも身代わりの腕輪くれた時に心配してたのは本当だろうけど。
「…あの時も一番早く動いたからね」
「あの時?」
「いや…何でもない。気にしないで」
なんだろう?リトが隠すようなことって…
「…にしても集団で動いているって言ってるけど何人ぐらいなんだろう?」
「10人、20人じゃなくてもっと大規模な組織かも」
「うへぇ…それだったら多分一人一人強いと思うから殲滅しに行くって訳にもいかないなー」
そう言ったらはリトはこちらの顔を見つめる。
「…そんな無茶なことやったらミヅチだけじゃなくてマリとかも心配することになるからやめて欲しいかな」
「そ…そう?じゃあしないことにする」
「うん。僕も心配するからあんまり無理はしないこと」
「はいはい」
説教みたいなこと言われたけど気にはしてない。
でもそうした方が安心すると思うけど。
「ん?あれは…」
自分は黒いローブを着た男が数人で路地裏に入っていくのをみた。
「ねぇ…リトあれ」
「なんだいマコト?…あの人達は?」
明らかに怪しい…どうしよう?
「追うには危険だから駄目だぞ?」
「ぐ…わかった」
「全く…マコトはただでさえトラブル体質なんだから警戒しな━━━」
あれ…?視界が急に真っ暗になったぞ?
リトの声も聞こえなくなった。
「まさか…捕まった……━━━」
自分は暗い視界の中何者かによって意識を手放した。
「━…こ…━は…━ぞ?」
遠くから聞こえる人の声でだんだん目が覚めてくる。
「う…うん?」
目が覚めると暗い部屋に拘束されてました。
ってアホか!
「このっ…!」
脱出を試みるが手錠により失敗した。
どうやら自分は壁にある手錠によって手足を拘束されているらしい。しかも意外と頑丈な作りだな…
「お、起きたか」
近づいてきたのは黒いローブを着た男だ。顔は布で覆っているから見えない。
「…あなたは?」
「やけに冷静だな。安心しろ殺しはしないさ」
話が噛み合ってない!バカかこいつ!
「それじゃあ…なんで自分こんな拘束のされ方されてるんだ?」
今の自分のポーズは両手を広げ、手足を拘束されてるいわゆる磔?ってやつになっている。
「お前の服や魔力を見て、かなり強いやつだとわかったのでな?その磔が一番合うだろ?」
い…意味が分からん。ロープ巻きでも充分だと思うけど。
「しかし見てみるとずいぶんと可愛らしい少女じゃないか」
ローブの男は更に近づいてきて自分の顔を見つめる。
自分はそのいやらしい視線を返すように睨む。
「ハハハそう睨むなよ!これから忙しくなるからな!」
ローブの男は笑いながら部屋から出ていった。
「なにが忙しいだ…『ウィンド』!」
風の魔法で手錠を壊そうとしたが…
「…あれ?魔法が発動しない?」
詠唱は完了したはずだがなぜか魔法が発動しなかった。
「魔力がない…わけじゃないか」
一応ステータスウィンドウは出現した。確認するが特にこれといった状態変化は起きていなかった。あるとしても少し体力が減ってるぐらいかな。
「もしかしてこの手錠のせいか?」
壁にある手錠からは微量だが魔力を感じる。おそらくこの手錠は魔法を使えなくなる効果があるのか?
「ってそれってまずいじゃんか!」
他の魔法を詠唱するが魔法は発動せず、ただただ時間が過ぎていく。
一応腕力はあるがそれだけでは外れなかった。
いやそんな簡単に外れたらおかしいんだけどさ?
「どうしよう…?」
絶体絶命だ。急いで脱出しないと大変なことになりそう!
「このっ…!はずれろっ!」
ガチャガチャと鎖の音が響く。しかし手錠は外れない。
「はぁ…なんでこんなことに」
あの黒いローブ集団を見てから警戒を怠ったからかな?
それにしてもなんで気がつかなかったんだ?
気配遮断スキルか?でも全く気がつかない訳でも無いはずんだけど…
「おや?マコトさんじゃないですか」
聞き覚えのあるこの声とその黒いローブ姿は…
「まさか…ジャックさん?」
以前会った青髪の糸目のジャックだ。
「はいそうです。あの景色の場所以来ですね?」
「この組織の仲間だったのか…?」
「んー正確には半分入ってるってことになりますね」
半分…?それってつまり仲間ではないと?
「しかしなぜマコトさんはここに…ああ捕まってしまったからですか」
「見ればわかるでしょう?…手錠とか外してくれない?」
半分だとしても一応あっち側の人間だからな…そう簡単に外してくれないはず…
「ああ、いいですよ?少々お待ちを」
あっさり承諾したー!え?嘘?マジで?
ジャックが近くのパネルを操作するとガチャンと手錠が外れる音がした。
「え…ぷぎゃ!」
「あれ?すみません大丈夫ですか?」
「うー…鼻ぶつけた…」
手錠が急に外れたのだ。自分は受け身できずにそのまま地面に倒れ込んでしまった。
「でも大丈夫なの?こんなことして…」
明らかに裏切り行為だからバレたら殺されそうだけど。
「問題ありませんよ?ちょうど組織をやめるにはいい機会なので」
…大丈夫かこの組織。こんな簡単に裏切り者が現れてるけど。
「この組織にはマコトさんのような少女だけじゃなく強い魔物も住み着いていますので注意してくださいね」
「…なんでそんなに教えてくれるの?」
ジャックはニヤニヤしている。
「ではマコトさん。脱出頑張って下さいね?」
ジャックは返事をしないで部屋を出ていった。
「なんなんだあの人…」
良い人…なのかな?でもなんか別の目的があってこの組織に入ったらしいからな…
「っといけない。急いで脱出しないと!」
手錠が外れている今がチャンスだ!
さぁファンタジー世界での脱獄劇の始まりだ!