自分の本当の正体
「…ん?マコト…か?」
シエルの蘇生魔法により回復したギルが目を覚ます。
って言っても兜のせいで顔は見えないけど。
「良かったギル!心配したんだからね!」
「姉様。泣いてる場合じゃありませんよ?」
「な…泣いてなんかない!…って姉様?」
「はい。マコト姉様。あなたは私の姉ですよ?」
え?嘘?マジで?
「う~ん…わかんない」
「記憶喪失かもな。いずれ思い出すだろう」
いやほんとに知らないんだけど。でも転生した時に森にいたよな。
もしかして何か関係があるのかも。
「姉様。まずは他の仲間を助けないと」
「ってそうだ。他のみんなはどこに?」
シエルは入ってきた扉と反対側の扉を指さす。
「クリスタルで全員帰還を選べばダンジョン前に全員転移する事ができるはずです」
「…確かにそれが一番かもしれん」
ギルはボロボロのはずなのにいつの間にか立ち上がっていた。
「ギル大丈夫?動ける?」
「ふっ…漆黒の翼が寝たきりというのもおかしいだろう?」
いやどこに自慢できる所があるんだ?
とにかく自分達は扉を開け、ダンジョンクリスタルの部屋に入った。
「クリスタルの結晶は…あった!」
結晶はクリスタルの裏にあった。なんで正面じゃないんだろうね?
「…念のためもう一つ採取しとけ」
「え?なんで?」
ギルに聞くと証明用らしい。確かにこれ一個でこのダンジョンはこんなダンジョンでしたよって証明するのは難しいよね。
自分はもう一つの結晶も採取してクリスタルを操作する。
操作は簡単でウィンドウが出るから選択するだけで帰還可能だ。
「さてと…転移するか」
「…おや?待って下さい姉様。あそこを」
転移帰還しようとしたらシエルが何かを見つけたようだ。
「…扉?」
「クリスタルの部屋から続く部屋だと?」
何かあるのかな…?自分は扉に近づき手をつける。
「開けるよ…」
ゆっくりと開けるとそこは狭い部屋だった。
「でも…なんかここって…」
「…祭壇でしょうか?」
縦に長い部屋で奥には祭壇があった。
「あ!宝箱だ!」
祭壇の下には古くさい宝箱があった。
近づいても何も起きないし危機探知も反応はない。
「俺が開けよう」
用心に越したことはないからギルが開けることにした。
ここで探知できないダメージトラップが発動して、全滅ってのはやめて欲しい。
ギルはゆっくり宝箱を開ける。
「ん?これは…?」
ギルは自分に宝箱の中身を見せてくれた。
宝箱の中には青く光る球体があった。
「これは…宝珠ですね」
「宝珠?なにそれ?」
「宝珠は杖や魔導本と同じような装備品です。ですが効力はかなり高く、特殊なスキル付与もあります」
「なぜこんな所に?」
「さぁ…?」
祭壇だから何かを祀っていたとか?てことはこれはお供え物?
「……姉様はい」
「え?なんで自分に?」
「だってこの中での魔術師は姉様しかいないでしょう?」
「シエルが使えばいいじゃない」
「私は双銃士ですから。魔法は専門ではありません」
シエルは双銃士だったのか。魔法使いかと思ったけど。
…あれ?確かマリも双銃士だったよね?
一つしかない職業かと思ったけどもう一人いたね。
「じゃあ貰うよ。今まで武器持って無かったからね」
シエルから青く光る宝珠を受け取る。
「あれ?宝珠が…」
「マコトが持ったら、光り出したぞ?」
宝珠は自分が持った瞬間更に光り始めた。
え?何?もしかして私選ばれちゃった?
「もしかして姉様の職業武器なのでは?」
「ええと…ホントだ!全然表示されてるのと段違いに上がってるよ!?」
魔力が400上がる表示だが実際には1200ぐらい増えている。
「マコトほら」
「え?わっ!ととっ」
急にギルから棒状の何かを渡された。
「これは…杖?」
先っぽが三日月みたいな形をした杖だった。
「祭壇の隅にあったぞ」
「もしかして…その宝珠を使うのでは?」
「え…こう?」
自分は先っぽに宝珠をかざす。すると宝珠は突然三日月の中心に移動した。
「おお…これなら使いやすいかも!」
杖も同じぐらいの長さだし効力と変わらず上昇している!
「良かったなマコト。やっと武器が手に入って」
「んしょ…そうだね」
「ではクリスタルに戻りましょう」
背中に杖を引っかけながら、祭壇を後にした。
自分はクリスタルを操作してダンジョンにいる冒険者全員を転移帰還させた。
転移して目が覚めるとダンジョン前に立っていた。
「こ…ここは!?」「生きてる…私生きてる!」
「な…何が起きたのだ!?」
「あ!マコトちゃん!ギルバート君も!」
カナメが自分達に走ってくる。
全員ボロボロで今まで戦っていたらしい。
中には危機的状況になっていたパーティもあったらしい。
「良かった…全員無事?」
「ええ…死者無しよ!負傷者はかなり出たけど…あれ?その子は一体?」
「え?あーえっと…」
「はじめまして。マコト姉様の妹シエルと言います。以後お見知り置きを」
「え?妹?マコトちゃんって妹いたの?」
「…後で話す」
正直現在状況が理解できてない。
それにシエルとの関係も良くわからない。
しかもデュラハンの戦闘で疲れている。
よって今は休みたい!
「おーい。大丈夫かー」
この腑抜けた声は…テトか!
「あー!テト!この水晶全く反応しなかったわよ!」
「あれー?こっちではずっと魔法張ってたけどね。トラップなんて無かったはずだけど?」
「え?まさか魔法じゃわからないトラップだったのかしら…?」
多分そうでしょうね。自分の危機探知も反応しなかったし。
「とにかく!今から負傷者を優先的に回復するから戦える人は見張りをお願い!」
「うむ!任せたまえ!このベルイールが諸君に近づく魔物を蹴散らそう!」
ボロボロのはずなのにベルイールは見張りに向かった。
「はぁ…マコトは休んでろ」
ギルも立ち上がって歩く。
「え?ギルは見張るの?」
「ああ。マコトと妹の女二人に助けられたんだ。今度は俺が頑張らなくちゃな」
ギルはそう言ってベルイールと一緒に見張りに向かった。
「……姉様」
「うおっ!?シエル、何?」
「記憶喪失で私との記憶が無いのですよね」
「え?…うんそうだね。最後に覚えていることは森の中で目を覚ましたことだったかな」
「森…なるほど。ではその前の話を話します」
シエルは自分がどんな人だったのかを教えてくれた。
「まず、マコト姉様は優しくて、強くて、何より仲間思いです」
「へ…へぇ…」
そう褒められるとなんか照れるな…
「ですが計画性があまり無いため、恐らく森で迷った時に油断して記憶喪失になったのでしょう」
「はいそこちょっとおかしいよ?」
前言撤回。そんな記憶喪失って簡単になるものだと思ってる?
「あ…失礼しました。マコト姉様の出生についてですよね」
「うん…なんかスルーされたような気がするけどね」
「マコト姉様は半ルフォーク族なんです」
さらっと凄いこと言ってきたー!
「は…半ルフォーク族?半分ルフォーク族の身体ってこと?」
でも自分に機械の部分なんてないけどな…?
「ルフォーク族で稀に起きる現象のようです。姉様の場合は人間族と混血してますが私と姉様とはちゃんと血は繋がっています」
え?シエル機械だけど血脈あるの?
「本当は私と一緒にセルフィアを目指していたはずなんですよ」
なるほど…つまり自分はシエルを置いて先にミヅチとセルフィアに向かってしまい、道の知らないシエルはエスタシスに着いたと…
「つまりそれは…自分が悪いと」
「はい。そうなりますね」
「思い出せてないけど…すみませんでした」
「はい。反省してください」
「…で、自分達はセルフィアにどんな用が?」
「本部の人に渡す物があります」
「もしかしてリスアスにか?じゃあ報告ついでに渡そうか」
「そうですね」
「…でその渡す物って?」
「これです」
シエルが空間から取り出したのはクリスタルの結晶だった。
「あれ?でもこの結晶色がないけど…」
本来、クリスタルの結晶は青白い色をしているが、シエルが持っている結晶は灰色で石のようだった。
「…これは壊されたクリスタルの結晶です」
壊された?誰かがクリスタルを壊したってことか?
「じゃあ自分達は、この結晶の報告を本部に報告するためにセルフィアを目指していたのか…」
「はい」
自分の本当の目的はシエルと一緒にこの結晶を報告することだったことがわかった。
「でもシエル。自分達には故郷があるんでしょ?報告終わったら故郷に帰るの?」
「そこまで覚えていませんか?」
「う…ごめん」
シエルは困った顔をする。
「……私達には故郷はありません」
「え?……どういうこと?」
自分達には故郷がない?
「正確には消されてしまったと言った方がいいのでしょうか」
「そんな……」
自分達の帰るべき故郷は何者かの手によって消された。
「誰がそんなことを…!」
「わかりません。ですがクリスタルを壊されたことと関係があるかもしれないから本部に報告するんです」
もしかしたらダンジョンの変更をした奴も関係してるかもしれないな。
「転生してきた身だけど…人の故郷を消すなんて…!」
怒りが込み上げてきた。シエルが自分の手を掴む。
「怒りが現れるのは私もです姉様。ですが私達だけではどうにかできる相手ではないはずです」
「でもやってみないとわからないじゃないか!」
「マコト姉様!落ち着いて下さい。姉様はいつも感情で行動してしまいます。それでは相手の思うツボですよ?」
「う…」
「頼ることは恥ずかしいことでは無いはずです。確実な方法を探すんです」
シエルは自分に顔を近づける。
「大丈夫です。姉様には私がいますから何とかなります」
「……わかった」
そうだ。自分には仲間がいるはずだ。
ギルドの仲間がいるはずだ。
自分は故郷のため…いや恐らく世界のためになるかもしれない。
転生してきたことには意味があるはず。
「なら…まずは世界を救うことだ」
謎の脅威に晒されているこの世界を救うことが今の自分の使命だ。