仲間との衝突と恐怖
翌日。
自分はいつも通り準備をして部屋を出る。
「おはようマコトちゃん!よく寝れた?」
「あ、カナメ。うん大丈夫」
ちなみに昨日の時にカナメは十四歳だとわかったので自分はとりあえず呼び捨てで呼ぶことにした。
だって嫌じゃん?年下に敬語使うのって。
「でもちゃんはいらないかな…」
「なに言ってるの!マコトちゃんは私と同じくらい可愛いんだがら!」
「か…可愛い!?自分が?」
「うん!」
邪気を飛ばすような笑顔で言ってるよ…嘘じゃないんだ…
「と、とにかく今日はダンジョンに入るから気を引き締めて行かないと!」
「それもそうね。頑張りましょ!」
はぁ、また朝から疲れる…
自分とカナメが向かった先は作戦会議室みたいな広く机がたくさんある部屋だった。
何十人かはもう集まっており、部屋はガヤガヤと騒がしかった。
「おはようギル」
「ん?ああおはようマコト」
その最前列の机に漆黒の翼はいた。
「流石は中規模ギルドだね。自分のギルドとは大違いだ」
「このギルドには八十七人のメンバーがいるからな」
そんなにいるのかよ!
三人で話してるといつの間にか全ての机にはギルドメンバーで埋まっていた。
そして最後に来たのはギルドマスターであるテトだった。
「あー…みんなおはよー」
メンバーはそれぞれで挨拶をする。
あんなギルマスでも一応信頼はされてるんだ…
テトは一番前の台に上り、うつらうつらしながら話し始めた。
「えー…今日は…あるダンジョンに向かいます…ギルド本部からの依頼なんで…頑張りましょう」
ギルド本部という単語に全員が反応する。
「ギルド本部が?」「なんで急に…?」
「なお、今回のダンジョンはとっても危険なダンジョンなんで、漆黒の翼こと、ギルバート君が参加します」
ギルは椅子からガタッと立つ。
「漆黒の翼ギルバートだ。今回はよろしく頼む」
メンバーは更に騒がしくなった。
「あの漆黒の翼が!?」「凄い…」
「そして強力な助っ人のマコトさんも来てくれました」
「………」「………」
シーン。
おい!なんで自分の名を出した!
見ろ!明らかにしらけたぞ!?
「誰だマコトって?」「さぁ…?」
「ちょっとテトさん!なんで無名の自分を紹介したの!」
「あれ?でも強いのは事実でしょ…?」
駄目だこいつ。一発ぶん殴ってやろうか?
「ま、まぁとにかく!今日はあの高難易度ダンジョン『邪神の洞窟』に行くんだからみんな気を引き締めて!」
カナメが強引に話を進める。
「…とにかく皆さん死なないよう、頑張りましょう。解散」
そして強引に話を切りやがった。
作戦はどうした!作戦は!
メンバーはぞろぞろと準備をするために部屋から出ていく。
「さて…では我々も支度をするとしよう!」
あ、ベルイールいたのか。
「集まる場所は街門前です。遅れても大丈夫ですよー」
ってまだ台の上で喋ってる!もう誰もいないのに!
「ちょっとテト。もうみんなは解散しちゃったわよ?」
「あれー?いつの間に。集合場所教えてないのに」
「いつも街門前でしょ…?」
本当に大丈夫かこのギルマス!
「…遅い」
集合場所である街門前にメンバー全員は集まっているが…
「肝心のギルドマスターが遅れてどうするんだ!」
ギルドマスターのテトだけがいなかった。
「…ごめんなさいギルマスはいつもこうなの」
「俺達はもう慣れたけどな!」
カナメの代わりにメンバーが説明してくれる。
このギルドぐだぐだや…
ちなみにカナメは恐らくテトを起こしに行くためにギルドに戻って行った。
「大丈夫だ。テトらダンジョンに入ったら集中するからな」
「信用できない…」
ビビッ…
「ん?」
何か音がしたような…
チュドーン!
「おおっ!?」
突然空から何かが降ってきた。
「…んーまだ調整が必要かな」
砂煙の中から聞き覚えのある声が聞こえる。
「おまたせ」
「何がおまたせだよ」
テトだった。
「もしかして完成したのか?」
ギルがテトに質問する。
「いやまだイマイチの出来だよ。転移装置はやっぱり難しいね」
転移装置?そういやシズクもそんなこと言ってたような…
「全く…転移するならそう言ってよ!」
砂煙からカナメも出てきた。
どうやらカナメも転移してきたようだ。
「さてと…それじゃーダンジョンへいざゆこー」
「おおー!!」
「さてとまずはパーティの合わせ方ね」
ガタガタと揺れる馬車の中でパーティを組むことになった。
ちなみに馬車は特注品で百人は余裕で乗れる大型馬車だ。
その馬車2台で移動する。
「あなたはこの子と戦って。あとできるだけパーティの状態を確認しといて。であなたはこの人と。この人は…」
カナメが指揮をとり、全体をまとめている。
え?ギルマスのテト?端っこで寝てるよ。
「後は…マコトちゃん!ちょっときて!」
「え?なに?」
「マコトちゃんにはギルバート君とメンバーの二人とパーティを組んでほしいの」
う…ギルは大丈夫だろうけどメンバーの二人っていうのが少し嫌だな…
「腕は確かだけど…マコトちゃん達と比べたら大したことじゃないから大丈夫」
いや自分が気になるのはその人達の性格のことだけど…
もう一台の馬車にはベルイールが仕切っているらしい。
「おい!お前あの漆黒の翼のパーティに入ってるのかよ!」
「へへっまぁな!俺達はギルドでもそこそこ強いからな!」
馬車の中は騒がしいがこの声だけがはっきり聞こえた。
オレンジ色のツンツン髪で背中には大剣か…
見た目で判断するのも悪いが弱そうだ。
多分自分の戦ったデーモン戦だったら瞬殺されるんじゃね?
「でも漆黒の翼の隣にいたマコトって奴何者だよ?まるで漆黒の翼と同等の強さを持ってる感じにいたぞ?」
そして隣にいたのは金髪の上品そうな奴だ。
多分貴族出身だろうな。腰に高そうなレイピアを持っている。
恐らくツンツン髪と金髪貴族の奴らがパーティのメンバーだ。
「へっ、どうせ雑魚だろ。あんなちっこい子供が漆黒の翼と同等な訳ねぇしな!」
「だよなぁ!?むしろ邪魔にならないように気をつけろって言っとくか!?」
自分を馬鹿にするのはいいがちょっと言い過ぎだな。
自分があいつらに近づこうとするとギルが止めてきた。
「やめておけ」
「でも…」
「大丈夫だ。大体あいつらみたいな奴らはあっちから絡んでくるから返り討ちにすればいい」
ぐ…今は堪えなければならんのか。
「…訂正。二人とも性格は悪い」
いやカナメそれは最初に気づくべきところだ。
何度かぶん殴りたくなるようなことをほざいていたがひたすら我慢した。
くそ…絡んできたらボコボコにしてやる!
しばらく経つと馬車がダンジョンの前に止まる。
ふたつの馬車からメンバーが全員降りてきた。
「さてと今日はここに拠点を作ります!拠点班は早速準備して!他のメンバーは周りの魔物を警戒してください!」
流石は中規模ギルド。それぞれ役割のある班を作っているとは。
「あと、もし初めてだったり知らない人とパーティを組む人は自己紹介とかしといて!」
ギルはスタスタとパーティのメンバーの二人に近づく。
「自己紹介するまでもないか?」
「ああ!漆黒の翼様がいるなら今回のダンジョンなんて余裕さ!なぁ?イーグル!」
「そうだなグラッド。今回はよろしくお願いします漆黒の翼様」
なんだこの様変わり。馬車の時と全然違うじゃん。
「………」
「ん?なんでこんな所に子供がいるんだよ」
「ここは子供がいていい場所じゃねーぞ?さっきとどっか行けよ!」
…こいつらわざとだな?
「なんだ?もしかして強力な助っ人っていうマコトってやつか?明らかに雑魚だろ!」
ギャハハハと汚い笑い声をあげる。
「そうだな…このダンジョンはこんな弱そうな助っ人にはきついからちょっと試してやるよ!」
おいおい早速武器を抜いてきたよ。
だけど、この時を待ってました!
「…やり過ぎるなよ?」
ギルが小声で忠告をしてきた。
「…さぁ来なよ」
「お?随分と余裕そうだな?」
「へっ!俺達はレベル85だぜ?勝てると思ってんのか?」
うわ弱っ!85とか弱っ!
「しゃぁ!」
まずイーグルという金髪貴族がレイピアで高速で突いてくる。
正直意外と速い。でも…
「剣先震えてるよ?」
「なに!?」
23回突いてきたがすべて避けた。
どうやら体力的に23回が限界らしいな。
「どうしたイーグル調子が悪いのか?」
「ちっ…そうだな」
今度はグラッドって奴が前に出てきた。
バトンタッチですか。
「さぁ次は俺が相手だ。簡単にくたばんなよ?」
グラッドは大剣を使うから大振りなはず。多分遅いと思うけど…
「おうらぁ!」
「おっと?」
いきなり横払いとは…しかも速い。
自分は前の世界じゃできなかったバク転とかして華麗に避ける。
伊達にレベル85だからな。このくらいじゃないとおかしいよね。
「よっ、ほっ」
「ちっ…ちょこまかと!」
まぁちっとも当たらないけどね。
「しゃぁ!」
突然後ろからレイピアが飛んでくる。
自分の背後に回って不意打ちをしようとしたんだろう。
「といっても知ってたけどね」
イーグルのレイピアを簡単に避ける。
自分の気配探知に五感強化があるからね。
後ろに回ったことも気配でバレバレだ。
「ちくしょう!なんで当たんねぇんだよ!」
「ん?なに?もう終わり?」
余りにも余裕すぎて挑発をしてしまった。
「終わりな訳ねぇだろ!うらぁ!」
「…明らかに疲れて鈍くなってるよ」
感情に任せて戦うのは悪くないけどちょっとは考えようよ…
「うわぁあああ!デカい魔物だ!」
「なに?」
見張りのメンバーが叫びながら走ってきた。
ズーンズーンと重い足音を立ててきたのは巨大な象の魔物だ。
「嘘だろ!?あんな奴に勝てる訳ないぞ!」
疲れている二人は戦う気はないらしい。
周りの人達も驚いて動けない。
だが漆黒の翼ギルバートはすぐさま剣を抜き、攻撃する。
「ぬぅん!」
「バァオオオオオン!!」
脚を斬られた象は悲鳴を上げる。
流石はギル!あんな巨大な魔物に怯まず斬りつけるなんて!
「オオオオン!!」
「むっ!?」
だがさすがに一撃は無理か。
魔物は怒りで暴れ始めた。
「ギル!ちょっと下がって!」
「…!わかった!」
ギルはすぐに下がってくれる。
「お、おいお前なにしてんだよ!早く逃げろ!」
隣にいるグラッドが騒がしい。
頭の中で詠唱が完了する。
「『インフィニティプラネット』!」
カッ━━━━
「パァオオオ━━━━」
あまりにも大きな音で魔物の悲鳴も聞こえなくなった。
「………」
「………」
「…やりすぎた?」
「ハッハッハ!流石だなマコト!」
突然の出来事にギルを除いて全員は唖然としていた。
魔法によって魔物がいた所にかなり大きな穴が空いていた。