報告の歓迎会
初めてのダンジョン攻略を終わった翌日。
ナギサ、シズク、マリ、自分ことマコトでリビングにいたミヅチと話していた。
「…ダンジョンが変更されていた?」
「はい。しかも悪質に変えられていました」
「…転移トラップとかデーモンとか」
昨日ダンジョンで起きた出来事や経験したことを話すとミヅチと流石に本当と信じて聞いている。
「なるほど…俺達が行った時より凶悪かつおぞましいダンジョンになっていたと…」
「魔物単体は強くないけど連携みたいなことをしてたよ」
「うむ…たしかにそれは不可思議だね」
ミヅチはギルマスらしい真剣な顔をしている。
「とりあえずこのクリスタルの結晶は本部に送る。もし何者かが許可なく変更したのならこれは大問題だからね」
ダンジョンクリスタルはギルド本部が管理しているので許可なくクリスタルを破壊したり、ダンジョンを変更したりした場合、処罰を受けることになるらしい。
「そうだ…ミヅチ」
「ん?」
「そのクリスタルからは戦闘経歴とかはわかるの?自分の使った魔法とか」
「いやそこまではわからないさ。でも攻略時間はわかるよ。ボスとの戦闘時間は」
「え?まじで?」
やばいデーモンの大群を一瞬で葬ったことがバレたら怪しまれるんじゃ…
「まぁ大丈夫さ。なんせマコトはあの漆黒の翼ギルバートに匹敵するレベルと能力があるからね」
あーいたねそんな厨二病。
「あんまり目立ちたくないからなるべく口外しないでくれない?面倒だからさ」
「もちろんだよ。こっちも面倒になるからね」
この面倒くさがりギルマスが…
今度はナギサがミヅチに話しかける。
「そういやリトは?食堂にいなかったよ?」
「ああリトはちょっと出かけてるよ」
「買い出し?」
「いや。野暮用だね」
野暮用?なぜそんなことを…
「ふーんじゃあ私は外に行こっと」
「あ、ナギサ私も行く!」
ナギサとシズクは外に出かけて行った。
「そういやマコト。マリの秘密は知ったかい?」
「うん。深刻な問題が起きているのははっきりしてる」
獣人の差別による暴行。
そして今もその差別化は悪化していること。
「どうにかできないかな?」
「今の所無理かな…マコトが獣人だったらまだ可能性はあったけど…」
自分が獣人にか…確かにそれなら狐族の仇じゃおらぁって殴り込みに行けるもんね。
「…ってちょっと待て。いけるぞ獣人」
「え?本当かい?」
自分のスキルを忘れてた。
ここでかなり使える奴があるじゃないか!
「…『変化』!」
ボンと煙を纏われ、煙が無くなると…
「…どう?どう見ても獣人でしょ!」
黄色いケモミミに黄色いモフモフ尻尾。
自分は狐族の獣人に変化した。
「おお…確かにそれなら狐族としていけるな!でもそのスキル魔力使わないのかい?」
「大丈夫だよ。このスキルは変わるだけだから」
スキルの効果は永続。しかも魔力を消費しない完璧に変装用のスキルだった。
「…でもそれはやめて欲しい」
「おわぁ!?マリ!?ってやめて欲しい…?」
「たしかにその方法なら確実だけど、マコトが目をつけられるし、何より狐族がさらに馬鹿にされるかもしれない」
あ、そっか。急に強い奴連れてきたら卑怯者扱いされるかも。
「でも…マリはこのままでいいの?」
「…大丈夫。私は私なりのやり方でのし上がる」
マリ…あんまり無理しないようにね?
「…わかった。余計なお世話だったかな?」
「いや。どうにかしようっていう気持ちはわかるから」
自分のことだから自分でするから大丈夫って顔だ。
「そう…もし何か手伝えることがあったらいつでも言って」
「ん。ありがとうマコト」
「あのーもう済んだ?」
あ、完璧にミヅチ忘れてた。
無意識にマリと話し込んでいてミヅチが出るタイミングを無くしていたらしい。
「それじゃ俺はこのクリスタルをギルド本部に持ってくよ。おそらく結果はわかるのは明日かな」
調査結果が出るの意外と遅いのね。
ミヅチはそう言ってギルドから出ていった。
「そういえばマリ。ギルドには自分含めて九人いて、あと四人は一体どこに?」
「?…マコトはまだ会ったことないの?」
「え?ああうん」
「そう…二人はわかるけど二人は何処にいるかわからない。分かってる二人に会いに行く?」
「うーん。一応顔だけでも合わせときたいけどね…」
もし仕事中だったらなんかいやだな…
「ん?じゃあ明日にする?」
「うーんいや今日行こう。場所は?」
「えっと…ヤタマっていう隣の街」
「…ちなみにそこまでどのくらい時間かかる?」
「…五時間」
「よしまた明日にしよう」
長いよ!北海道からの東京行きの新幹線かよ!
「その二人ってここには帰ってくるの?」
「…確かあと三日後に帰ってくるかもって連絡があった」
「れ、連絡?連絡手段があるの?」
「…?魔法を使って念話するの。時間は限られてるけど」
ああ念話か。たしかにそれなら連絡ぐらいはできるよね。
でも時間制限あるのか。電話ボックスみたいな?
「おや?マコトさんとマリさんじゃないか。ミヅチは?」
リビングの扉が開き、リトが入ってくる。
「リトさん一体どこに行ってたんですか?」
「リトでいいし、敬語もしなくていいよ…ミヅチに頼まれた物を買ってきたんだけど…ミヅチは?」
「ミヅチはギルド本部にクリスタルの報告に行った」
「ああ入れ違いになっちゃったか」
リトはテーブルに色々な素材?を置いていく。
「ミヅチは一体部屋で何をしてるんだ…?」
「実は僕もわからないんだよ…教えてもくれないんだ」
うわ。怪しすぎる。何か危険な実験で失敗したりして自分とか巻き込まないで欲しいな…
「そんな危険と隣合わせのギルドの晩御飯はドラゴンの焼肉だ!」
「ド、ドラゴン!?」
「おおーすごい!」
まさかのファンタジーモンスターが食材として出るのか!
「ふっふっふ…なんせ今日はマコトのギルド歓迎会もやるから豪華に行こうと思ってね!」
「あ…忘れてた」
うーん自分は別にしなくてもいいんだかな…
「じゃ僕は準備するから食堂に行くよ」
リトは部屋から出ていった。
「…という訳でマコト食堂に行こう」
「え?いやまだ五時だよ…?」
季節とかはわからないけどまだ五時でも明るい。
晩御飯というには少し早い。
「…食堂行って手伝おう」
「でもリトは一人の方がいいんじゃないかな?」
マリは自分の袖を引っ張る。
「…もしかしてつまみ食い目的?」
「…………」
図星か。
可愛い所あるねマリ。
「……行く!」
「えっ!?ちょっとマリ!」
マリに手を引っ張られて自分は一足早く食堂に向かった。
まぁ、特に手伝えること無かったからただ座ってただけだったけど。
でもあの火力はすごかった。肉を焼く時に魔法で炎を出すんだが、あれは中華料理屋並の火力になってるぞ。
「自分もああして料理作ってみたいな」
「…料理スキルないと無理」
やっぱり。この世界は鍛治や料理のスキルがあって、それに対応したスキルがないと失敗したりするらしい。
「お!早速豪快に料理してるね!」
「すごい火力…リトさん大丈夫でしょうか?」
ナギサとシズクも食堂に入ってきた。
「あ、ナギサにシズク。これから呼ぼうかなって思ってたんだけど大丈夫だったね」
「マコトの歓迎会とリトの料理が食べれると予想して戻ってきたんだよね!」
「といっても私達が計画したんですけど」
「えっそうなの?」
「…私聞いてない」
自分はともかくマリにまで隠してたのか。
これは嬉しいサプライズだ。
「さぁさぁみんなできたぞ!ドラゴンステーキだ!」
リトがメイン料理のドラゴンステーキを出してくる。
これは…!豪快に焼いたかなりデカいステーキだ!
「おお!これは…すごい!」
「…美味しそう!」
自分だけでなくマリも目を輝かせる。
「さて…マコトさん!改めまして…」
「「「ようこそ!私達のギルド『紫の集い』に!」」」
こうして歓迎会は始まったが、ギルドマスターのミヅチは帰っては来なかった。
そして翌日。
自分の部屋の扉から声がして目が覚めた。
「━━マコト?起きたかい?」
「…ん?ミヅチ?どうしたの?」
声の主はミヅチだった。
「悪いけどギルド本部に向かうことになったから準備してくれないかい?」
「え?なんで?」
「昨日のクリスタルの調査からマコトを呼んでくれって言われてさ…」
うわ…やっぱり不自然だったか。
「時間はいつでもいいから準備が出来たら声をかけて」
「うん…わかった」
といっても寝癖直しぐらいだけど。
とりあえず身だしなみとか色々準備してから部屋を出た。
一応女の子だもんね!
「おまたせー…ってなんでニヤニヤしてんの?」
「ん?いや?別に?」
なんだ?かなり怪しいな…
そんなに自分がギルド本部に呼ばれるのが嬉しいのか?
「それじゃ行こうか」
怪しげに思いながらとりあえずミヅチについて行く。
「ねぇミヅチ。昨日の歓迎会なんで来れなかったの?」
「えっ!?ちょっと歓迎会なんてやったのかい!?そんな…呼べばすぐに帰ったのに!」
ミヅチは落ち込んだ顔をする。ざまぁ!
「まぁいいか…あと四人が帰ってきたらもう一回歓迎会やればいいさ!」
「はぁ…まぁ自分はいいけど」
またリトの豪華料理が振る舞われるのなら大歓迎だからね!
「っと。ここがギルド本部だよ」
「うわぁ…またでっかい建物だな」
こうして目の前の大きな建物ギルド本部に到着した。