家に帰るまでがダンジョンです
「あった!階段!」
マリが転移トラップで三層に武器解除されて転移してしまい、急いで二層を進んで階段を見つけた。
しかしナギサが階段前で止まる。
「マコト!シズク!先に行って!」
「え!?ナギサなんで!?」
「どうやらお出ましのようだからよ…!」
ズーンズーンと重い足音が響く。
「…オーク!?」
かなり大きくしかも武装したオークが背後から現れたのだ。
「こいつはあたし一人で大丈夫だから早くマリの所へ!」
「でも…!」
「大丈夫!伊達に副ギルドマスターやってないから!」
そう言ってナギサはオークに立ち向かう。
「マコトさん行きましょう!ナギサなら大丈夫です!」
「くっ…ナギサ死ぬなよ!」
自分とシズクは三層への階段を駆け下りた。
「…もしかしたら三層にも転移トラップがあるかもしれません」
「ねぇシズク。転移トラップって階層転移が普通?」
「え?そうですね…普通は転移先が大体階層の違う場所に転移されます」
「ならおそらく転移トラップは大丈夫。最下層に転移トラップは無いはずだから」
経験のないことだけどゲームの経験と勘を信じるしかない!
駆け下りて第三層に到着する。
しかしあまりの光景に足を止めてしまう。
「これは…死体!?」
動物、魔物の死体が散らばっていた。
「ひっ…人の…!」
中には人間の死体もあった。
悪臭漂う第三層。この階層にマリが…
「急ごう…」
とにかく進むしかない。
「こんなダンジョンじゃなかったはず…転移トラップは無いはずでオークも最後の魔物のはずなのに…一体なにが…」
「…もしかしたら何者かが手を加えたのかもしれない」
というかそれしか無いだろう。
ゴブリン達がこんなかなり仕込まれた罠の配置や魔物の配置をする訳がないから。
「マリさんの魔力が近いです!」
「この先か!」
先には大きな扉がある。
自分は体当たりして開ける。
中はかなり広い部屋で石造りの部屋だった。
「……っ!マリ!」
良かった!無事だ!でも魔物に囲まれてる!
「え!?マコトさん気をつけて!デーモンです!」
黒い皮膚、牛のような角。
まさに悪魔の魔物。正直かなり強そうで怖い。
だがそれがどうした!
自分は半ば無意識に飛び出していき魔法を詠唱する。
「今すぐマリから離れろぉぉぉぉ!!『ホーリーレイン』!『ホーリーストーム』!『ホーリーエクスキューション』!」
強力な魔法を分割詠唱したので、脳が千切れそうになり、かなりの頭痛が起きる。
ボンボンボン!キュインン━━ボオォン!
爆発が連続で発生し、強力なデーモンも一瞬で消し炭になった。
だがまだデーモンは三十体以上いる…!
「グォオオオオ!」
「邪魔だ!『マジックフライト』!」
走って無理なら空を飛ぶまで!
「くそ…!『クイックマジック』!」
自分は今の詠唱時間じゃ殲滅しきれないことを感じ、高速詠唱をさらに早くできる補助魔法をかける。
「『ウィンドハリケーン』!『ブリザードゲイン』!」
上級魔法を放つがデーモンを一撃では倒せなかった。
一撃で倒せる魔法を詠唱するしか…!
三つ目の魔法を詠唱開始すると視界が狭くなっていく。
自分はギリッと歯軋りする。
二番目に消費する魔力と威力がある魔法を放つ。
「吹き飛べぇぇぇぇ!『インフィニティプラネット』!!」
閃光、轟音。
文字にできないようなものすごい音が響き、デーモン達は跡形もなく消えた。
ってやりすぎたか!?
自分はすぐにマリに近づくがマリは倒れている。
「はぁ…はぁ…!マリ!」
まずい…怪我もしていてかなり衰弱してる。自分もだけど。
「『ラージキュア』!『スタミナキュア』!」
ラージキュアはかなり重い怪我でも治る回復魔法だ。
「マリ!大丈夫!?」
「………ん…マコト…?」
マリの身体をゆすると目を覚ます。
「…良かった……」
自分は思わず座り込む。どうやらギリギリだったようだ。
「マコト…!顔色が悪い…」
「ああ…大丈夫。ちょっと無理しただけ」
といっても本当にかなり無茶をした。
まず現在の魔力が無いに等しい。しかも分割詠唱で魔法を高速詠唱をさらにブーストして連続発動したのだ。
身体にはかなりの負荷がかかっている。
てか…めちゃくちゃ視界がグラグラする。
「マコトさん!大変…『ヒーリングツリー』!」
巨大な樹木が生えてきて下にいる自分達の身体が回復する。
「ありがとうシズク…でもちょっと今は戦闘はキツイかも…」
分割詠唱したから頭痛が酷くて、正直動けん。
「私のためにこんな無茶をして…ごめんなさい」
「ちょっとなんでマリが謝るのさ。トラップを誤って起動したのは自分なんだから、マリは悪くないよ」
「マコト…」
「それにマリはパートナーだしね。お互い助けるのは当たり前でしょ?」
「━━!」
マリの顔が急に赤くなる。熱でもあるのか?
「あ、いたいた!おーいシズクーマコトー!」
「良かった!ナギサさん!」
入ってきた扉からナギサが出てきた。
ボロボロな所を見るとどうやら苦戦したようだ。
「マリは無事…だね。良かった良かった」
「…でもダンジョン的には良くない」
「はい…三層にはこんな場所は無かったはずです」
明らかに洞窟にあるこの石造りの部屋は遺跡のようだ。
「とりあえずオークの素材は取ったからこれだけでも持ち帰っても問題はないけど?」
「でもこのダンジョンの構造変更は明らかに低級魔物にはできませんよ…デーモンも現れましたし…」
「なっ!?デーモンも出たのか!?」
あ、ナギサはここにはいなかったんだっけ。
「多分七十体はいました。マコトさんが殲滅しましたけど…」
「ってマコト大丈夫!?ボロボロだけど!」
「そういうナギサもボロボロだろ…?」
これ以上の戦闘は正直危険だから早く帰りたいけど…
ガコンッ!
あ、なんか嫌な音。
「反対側の扉が開いた…」
自分達が入ってきた扉とは反対側の扉が開く。
「やっぱり駄目か…」
ついにボスの登場か。
自分は頭痛のする身体を起き上げて警戒する。
「マコト…大丈夫?」
「うん。とりあえずは動けるよ」
魔力も少しは自動回復した。
「そうだ。はいマリの武器」
自分はマリの銃とナイフを渡す。
「…あ、ありがとう」
マリは銃を構える。ナギサとシズクも扉の向こうを見て構えている。
一体何が出てくる…!?
「………」
「………」
「……ん?」
扉が開いて時間が経ったが何も起きない。
「な、なんなのでしょう?」
「何も起きない…?」
全員は構えを解いて恐る恐る開いた扉に近づく。
「……あれは」
怪しげに光る巨大な結晶は…?
「えっ!?ダンジョンクリスタルじゃないですか!」
ダンジョンクリスタル?ダンジョンの動力源みたいな物かな?
「デーモンを倒したから扉が開いただけか…びっくりしたー!」
正直焦った。もしあのデーモン集団の親玉みたいな奴が出てきたら死んでたかも。
「クリスタルがあるということは…ありました!」
シズクがクリスタルの裏に回り、なにがを採取した。
「それは?」
「クリスタルの結晶です!これを持ち帰ればダンジョン攻略の証拠になります!」
「そうなの?」
「…マコト無知すぎる」
ひどい!だってダンジョン初めてだもん!
わからないことだらけだったよ!
「このクリスタルで誰かが手を加えたかわかるはずなので、ミヅチさんに任せましょう!」
そうだな。あのギルマスを働かせる仕事を増やしてやる。
「よし!じゃあ入口に転移するよ!」
ナギサがクリスタルをいじると足元に魔法陣が展開され、自分達は入口に転移した。
「うわ、もう夜じゃん」
入口に戻ると辺りは暗く、月の光が照らしていた。
「ってデカ!月デカっ!」
自分は月を見るとかなりデカい月に驚いた。
かなり大きい。多分セルフィアの外壁くらいデカいぞ?
「さてと!さっさと帰って風呂に入ろー!」
「あ、私も入りたいです!」
「…私も」
「自分は別に…」
三人がこちらを振り向く。
「ふっふっふ。いかんぞマコトちゃん。女の子なんだからちゃんとお風呂に入らないと!」
「そうですよ!もっとお話ししましょうよ!」
「…私とはまだ入ってない」
いやだから男だから!身体は女だけどさ!
三人の目がマジだ。特にナギサのは危険な目だ。
おそらく断っても無理やり連れていかれる。
「はいはい…わかったからとりあえず帰ろう?」
「「「おー!」」」
疲れた様子のない声を上げて自分達はギルドに帰ることにした。
この後大変なことになると思いながら。