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香港にて 1

私は初めてリムジンというのに乗った。

大企業の社長がリムジンって言うのはさほど珍しくない。まだ、たぶん。

だが、空港について簡易的な検査をしてそのまま空港内にリムジンで乗り込んだのに驚き、さらにその先に小型旅客機が止まってることにびっくり。

その機体にはエッグ・スターのロゴ、尾翼(飛行機の後ろについている縦長の翼のような部分)に社章が描かれているのをみて、エッグ・スターのビジネスジェットだということに気が付く。


機体は見る人が見れば気付く見た目はコンコルド。ただしいろんな部分が魔改造され、航続距離と燃費の大幅な改善を施されている上、さらに時代の進歩で更なる高速化をはたしている。まさにエッグ・スターの航空分野の技術結晶の賜物ともいえるものだ。

ただ、楓から見ると、ただの形がふつうの飛行機と違って速そうって印象しかない。


「何かすごく最新って感じの飛行機ですね。」

私はタラップ(飛行機に乗るための階段)を昇りながら感想を言った。

「一昔前、音速旅客機の開発競争があったんだ。この飛行機はその当時に開発されたもので基本設計はそれほど新しいものではないよ。今は特別に新造された2機しかこの型の飛行機はないんだよ。」

と星崎が豆知識を披露。

「へー、そうなんですか。」

私は素直に感心した。


機体は天井が低く手狭だが、でもプライベートジェットだということを考えればこんなもんかと思う楓。

実はとんでもない費用がつぎ込まれた機体だとは知りもしないし、今後も知ることは・・・恐らくないだろう。


飛行機の扉が茨木さんによって閉じられ、それと同時に機体からタラップが切り離される。

「長司くん、扉を閉めたわ。」

と機内電話で村上さんと連絡をとる茨木さん。

「え、村上さん。乗ってたんですか。」

「当たり前じゃない、機長は長司くんよ。あ、副操縦士兼キャビンアテンダントは私だけど。」

「村上さん、スペック高。それに茨木さんもすごい。」

「も、は余計よ。も、は」

機体に笑い声が広がる。

「我が秘書はみんな何かしらの秀でたものを持っているからね。」

星崎さんの言葉に胸を張る茨木さん。胸のボタンがかわいそうになっている。

「村上さんや茨木さんは確かにすごいです。でも私には何もないですよ。」

「いや、ちゃんと楓ちゃんにもあるよ。楓ちゃんはとにかく適応力が高い。僕はそれをロバートさんに聞いて楓ちゃんを買ったんだから。」

「たしかにそんな気がしますけど、それでも学生は適応力が高いのは当たり前といえます。」

「確かに学生は適応力が高い。でも普通、だからといって十か国以上のビジネス会話を取得している高校生はほぼいないに等しいわ。」

と茨木さん。

「それに、航空機の免許は飛行機、ヘリコプターどっちも楓ちゃんはとることになってるから。いずれは楓ちゃんが運転する日も出てくるよ。」

ちょ、そんなの聞いてません。星崎さん。

「楓ちゃん、ちゃんと契約書の中に会社が求めた資格はできるだけ取るよう契約書に盛り込まれてるから拒否権はないよ。」

と、茨木さん。


本気まじですかい


私たちが雑談している間にも、飛行機は動き出し、離陸態勢に入る。

「えー、機長の村上です。まもなく当機は離陸します。シートベルトをしっかり閉め席に深く腰掛けください。」

村上さんのアナウンスを合図に私たちは雑談をやめ、シートベルトをしっかりと締める。

茨木さんは操縦席へと向かった。


超音速旅客機コンコルド改造機

その加速は民間機最速にふさわしく、座席に張り付けられる感覚だった。


機体は上昇しながら加速し、しばらくすると水平飛行に移行して、シーベルトサインが消えた。

コックピットから茨木さんが戻ってくる。


「機長の村上です。現地の情報をお伝えします。

現地香港の天気は晴れ時々局地的な雨、気温は24℃です。到着予定時刻は一時間半後の現地時間午後四時三十分を予定しています。」

茨木さんは奥のギャレー(簡易的な調理室)から飲み物を持ってくる。

「社長、お飲み物は何になさいますか。」

「アイスコーヒーで。長谷君にはアップルジュースを。」

「かしこまりました。」

茨木さんは星崎さんの机にコーヒーとクリアファイルを、私のテーブルにノートパソコンとクリアフォルダー、分厚い閉じられたフォルダーを置く。

「・・・茨木さん、これは何ですか。」

「ちょっとまって、いまから説明するから。」

そう言って、茨木さんはカートをギャレーに戻しに行った。

「さーて、これからが大変だよ楓ちゃん。初めての海外出張、忙しくなるよ。」


星崎さん基準の忙しいは危険

それを身をもってこれから知ることになる楓であった。


茨木さんが戻り、テーブルを挟んだ対面の椅子に、私、星崎さんが座っている。

「えー、では香港につく前に軽くミーティングを行いたいと思います。まず、現地についたらの予定についてですが、エッグ・スター・香港本社へ向かい、17時から香港国際空港への都市部からの新しい交通機関について政府官僚と会談。なお、事前に通訳を派遣してくれるそうだが、楓ちゃん。今回はあなたを秘書として同行してもらいます。」

「はい。」

「注意すべきこととして、向こうの通訳がちゃんと翻訳しているか確認。同時に会談内容の記録および必要に応じて社長に進言を。」

「は、はい。頑張ります。」

「これについては私も同行するからそんなに緊張しなくても大丈夫よ。」

「はい。」

「次に、19時からエッグ・スター・香港の管理職と食事会。これについてはもうその場で対応で、ただ、楓ちゃん、できるだけ社長のそばを離れないように。専属通訳の立場を忘れないように。」

「はい。」

「21時からは香港のコンテナ港に詰まってるわが社所有のコンテナ船を視察することになっております。社長、ここでは私がお供させていただきます。」

「了解した」

「楓ちゃんはこの間、村上さんと書類の整理と翻訳がまってるわ。内容は追って村上さんに回しておきます。」

「はい、頑張ります。」

「今日の予定は以上、視察が終わりしたい、香港国際空港より日本へ帰国します。あと、楓ちゃん、机の上の資料は香港に着くまでに全部目を通してね。」

「は、はい、努力します。」


なんていうか、茨木さんマジキチ


「あ、忘れてた。楓ちゃん。今からお着換えしましょう。高校の制服で向こうのスタッフと会うわけにはいかないしね。あと、ちょっとお化粧もしてみようか。すこし大人っぽく見えるはずだから。」


茨木さん、言いたいことはわかります。

でも蟹股でよだれたらしながら近づくととても怖いです。

マジで勘弁してください。


この後楓はキャビンの後ろの更衣室に連れていかれ、茨木さんにフルメンテナンスされました。

一体何が起きたかはご想像にお任せします。

ただ、楓はしばらく脱力し、何もできなかったとだけ言っときましょう。


楓の教訓

身だしなみは茨木さんに指摘される前に正すべし

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