入学式
真新しい制服、真新しい鞄、真新しい生活
私の初めての高校1日目
両親が来ないのは残念だが、代わりに兄が来るらしい。
なんでもたまたま定休日だったらしく、朝一番の飛行機で着て日帰りするみたい。
入学式前、続々と保護者や入学生、在校生が集まってくる。
私は人ごみに紛れつつ兄を探す。
「楓ちゃん。」
いま、星崎さんの声がした。
「楓ちゃん。」
うーん、空耳かな。茨木さんの声もした気がする。
「まっさかー、そんなわけ・・・。」
振り返るといました、エッグ・スターの社長とその第一秘書が。
「なんでこんなところにいるんですか。」
私の質問を茨木さんは私の頭を髪が乱れるのを気にせずになでる。
「そりゃ、大切な部下が通う学校の、しかも入学式ともなれば出席するにきまってるじゃないか。」
と星崎さん。
「絶対に嘘ですね。」
と即座に返す。
「この学校の備品はうちの会社が収めていて、今度ここで製品の試験的な導入をするから。その関係で入学式の来賓に呼ばれたのよ。でも、星崎社長が直接出席する予定はなかったのだけれど、楓ちゃんが入学する学校がたまたま一致したから出席するから。社長が言ってることも間違ってはいないわ。」
へーそうなんですかー
「ついでに学校長に顔見世して、楓ちゃんがいつでも引っ張り出せるように圧力をかけとかないと。」
と星崎さん
「そうですね。わが社の主力戦力となりうる人材ですからね。いざという時に止められては困ります。」
と茨木さん。
なんかすごいことはなしてるけど
「そんな、一企業が高校に口出しってできるんですか。」
と私
「楓ちゃん、それは間違ってる。一高校に世界的大企業が口出しできないわけないじゃないか。地方自治体はもちろん、国にだって場合によっては口出しできるのに。」
と茨木さん
「楓ちゃん、わが社の秘書たるもの、ちゃんとわが社の立場を理解しないと。もしも例えばアメ○カ軍の追加発注が急ぎできたとする。そう言う場合って大抵国際情勢に直接関係したりする。そんな時、専属通訳の君がいないと対応が遅れ、下手をするとわが社、果ては日本、元をたどればこの学校の信用が落ちる。
まだ、新入りの楓ちゃんがこんな案件を担当することはたぶん少ないだろうが、だからって自分の身を拘束するものは減らしたほうがいい。」
「はい、わかりました。」
私は星崎の例え話でエッグ・スターに入社したことをちょっと後悔した。
「楓ちゃん、どんな案件が来たとしても対応できるように頑張ろうね。」
「・・・はい。」
茨木さん、励ましのつもりかもしれませんが、逆にプレッシャーになる気がします。
入学式が始まった。
兄はどうやら遅れて会場に入る見たい。飛行機が遅れて間に合わなかったらしい(メールより)。
式は順調にすすむ。たまに星崎さんの視線を感じるが、なにか起きるわけでもないので気にならない。
新入生入場
国歌斉唱
校歌斉唱
入学認定(一人一人なまえが呼ばれるやつ)
校長による式辞
宣誓....ate
ただ、来賓紹介の時のざわめきがすごかった。
エッグ・スター社長からエッグ・スター・ジャパン社長、エッグ・スター出版社長、エッグ・スター・コンピューター社長、エッグ・スター・ビルディング社長などのエッグ・スター・日本グループ社長が勢ぞろいしていた。
後で茨木さんに聞いた話だが、エッグ・スター社長が出席する式典にグループ会社の社長が出席しないわけもいかないとかなんとか。なんでも星崎さんは創業者の孫、さらには星崎さんが社長になってから、三分野に新たに進出、4か国に新たにグループ会社を作るなどの偉業を成し遂げてるらしい。
なぜ私を雇った星崎さん。
それはともかくとして、無事?入学式は終わった。
入学式が終わると、クラスごとに各教室へと案内される。
私は5組、中学持ちあがりの1組から4組とは別階の8階の教室。生徒は集団で教室移動するとき以外エレベーターに載ってはいけない決まりがあるらしく、私は明日からの登校が憂鬱になった。
教室に入ってからは、先生の自己紹介生徒手帳、時間割、近日の予定、軽い校則についての説明など定番。
校則で「アルバイト禁止」という項目があるらしい。少し不安
でも、田舎の中学生活から考えるととても楽しい高校生活が送れそうだ。
そう思った矢先、突然教室の扉が勢いよく開けられた。
「長谷 楓はいるか。いるなら返事しろ。」
いかにも生徒指導担当って感じの先生が私を呼び出す。
私は素直に手を上げた。
「長谷、いますぐ帰りの支度をしてついてこい。急ぎだ。」
「は、はい・・・・?」
私は言われるがままに配布物を全部鞄に押し込み、教室から出た。
「せんせー、どこへ行くのですか。」
「校長室だ。」
もうなんか、ストーリーが見えた気がした。
校長室の扉を開くと、はい案の定星崎さんと茨木さんがいました。
「・・・こちらの方にサインをお願いします。」
と茨木さん。ボールペンで契約書らしきものに署名する校長らしき老人。
「では、これで契約成立です。くれぐれも邪魔にならないようお願いします。」
「・・・ええ、もちろんです。わが校としてもエッグ・スターさんの協力は不可欠なので。」
この間、星崎はなにも話さない。
「社長、私を呼び出してなにかあったのですか。」
「ああ、いま校長と長谷君についての取り決めをしたところだ。・・・早速だが長谷君を連れていっていいかね。」
前半は私に、後半は校長にむかって星崎さんは言った。
「ええ、もちろんです。」
「では、長谷君。行くとするか。」
「は、はぁ・・・。」
茨木さんは素早く星崎さんの行く手に先回りし、校長室の扉を開ける。
星崎さんは堂々と校長室をでる。茨木さんは私にも校長室をでるよう目で訴えかけていたので私も校長質をでた。
「星崎さん、校長との取り決めについてく・わ・し・く聞かせてもらえますが。」
「楓ちゃん、私を呼ぶときは”社長”じゃないの。」
「いまは少なくともビジネスの場ではなく、私用の場です。それに星崎さんも”楓ちゃん”って言ってるじゃないですか。」
星崎さんは質問の答えとして契約書の写しを見せてくれた。
長谷 楓 の扱いについて
なに、私危険人物みたいになってる。
1.長谷楓はエッグ・スターの秘書規定に基づき、わが社又は長谷楓本人が必要と判断した場合、いかなる校則を無視でき、教員並びに学校関係者は長谷楓を拘束および指示するとができない。
2.長谷楓の出席状況がどんな状況にあったとしても、学校は長谷楓を卒業させなければならない。
3.長谷楓が必要と判断した場合、屋上またはグラウンドおよび、その他施設に航空機等を着地させる場合がある。
4.長谷楓の身分はいかなる場合でも公開することを禁ずる。ただし、長谷楓本人が明かす場合に限っては無視しても良い。
5.その他長谷楓の希望はなるべく取り計らうように努めること。
なお、上記に関して教育委員会の許可はとってある。
・・・なにこれ、どうやったらこんな契約ができるの。
「これで、とりあえず学校に制限される心配はなくなったわけだが、長谷君なにか不備が見つかったかね。」
「社長、私が見る限り不備は見つかりません。ただ・・・」
「ただ?」
「星崎さん、私的な事を言うと、やりすぎ。」
「楓ちゃんもそう思う?、私もそう言ったんだけどみっちゃん(茨木さんの私的な呼び方)が徹底的にやっとかないと後で後悔するかもって言うからさ。」
なんて言うか、茨木さんのイメージが少し変わった。
「ところで、これから何をするんですか。」
「あ、そうそう、これから香港に出張だよ。」
いきなり海外ですか。短期間でいろんなことがあったせいで少し驚きの沸点が高くなった気がする。
「星崎さん、電話一本するくらいの時間はありますよね。」
「車の中でしてね。」
私は校門で待ったいたリムジンに乗せられる。
「もしもし、兄さん。今日一緒に晩御飯食べる約束してたけど無理だわ。ちょっと仕事で香港に行くことになったから。・・・え、アルバイトで海外行くわけがない?・・・いや、わたしバイトはしてないから。あ、これからトンネル入るから切るねー。」
兄はその日、何度も楓の携帯に電話をした。