プロローグ3
「ドラマのセット・・・?」
私の一言の後、部屋はシーンとした空気に包まれた。
「「クッ・・・・フフフフ・・・ククククッ・・・ハハハハハハ・・・・」」
村上さんと部屋にいた女性は耐えれなくなったそうで、本格的に笑い始めてた。
いや、まったくギャグのつもりで言ったわけではなかったのだが、そんなに笑わないでほしい。
私の心の声が顔に出たのだろうか、女性は私をみて笑いをこらえようとする。
「ごめん、ごめん、楓ちゃん。この前来たロバートさんという人と、まったく同じ反応したから、それでおかしくなって。」
女性は軽く涙を浮かべている。
「ごめんね、自己紹介が遅れたわ。私は社長専属第一秘書、茨木 美千留です。」
そう言って名刺を私にくれた。
社長専属第一秘書
茨木 美千留
たしかに・・・
「あ、携帯番号書くの忘れていたわ。」
そう言って茨木さんは私から名刺をひょいと取り上げ、ボールペンで電話番号を書き、再び私に渡した。
急に重い木製の部屋の扉が開く。
「ごめん、ごめん、ちょっと会議が長引いた。」
そう言って星崎さんが部屋に入ってきた。
「「お疲れ様です、社長。」」
二人が星崎をねぎらう・・・って社長?!
「またせてごめんね、楓ちゃん。」
「え・・・いえ。それよりも・・・星崎さんって社長だったんですか。」
「え、そうだよ。知らなかったの?」
「はい・・・でも、社長室に案内されたところからもしかしてとは思ってました。でも、ロバートさんに遊ばれていた人が社長だなんて信じられなくて。」
私は本音が口から洩れる。
「私からすれば、楓ちゃんがロバートさんと知り合いってほうが信じられないよ。ロバートさんはフランスを起点としたヨーロッパ航空の社長さんだよ。」
「え、そうなんですか。」
「ま、普通はヨーロッパの航空会社の社長の名前を知る機会なんてないし、調べないよね。
立ち話もなんだし、とりあえずソファーへどうぞ。」
私と星崎さんはソファーに腰掛ける。それと同時に茨木さんがオレンジジュースを、星崎さんにはコーヒーを出してくれた。
「ところで、アルバイトの面接だと思ってここに来たのですが。」
「アルバイト、まさか。ロバートさんとマリーさんと知り合いってだけならともかく、十か国語以上をビジネス用語を含めてスラスラと書けて呼べる人材をアルバイトで雇うわけないじゃないか。」
「そうですよね、高校生がこんな場所でアルバイトできるわけないですよね。」
「そう、楓ちゃん、君にはアルバイトではなく、私の専属通訳兼第三秘書として正式採用したい。」
「どうせ、そんなことと思い・・・えーーーー?!」
「そんな驚くこと?、たしかに高校生をいきなり秘書にする会社なんて珍しいかもだけど、楓ちゃんにはそれだけの価値があるからね。」
「あ、あの、履歴書書いてきたんですが、一応。」
「じゃ、一応もらっとこう。でも、大体ロバートさんに楓ちゃんのことを聞いたから別に必要ないんだけどね。あ、あと、入社式には出てね。・・・茨木君、よろしく。僕はこの後大阪に向かわないといけないから。またね、楓ちゃん。」
あっと言う間の出来事だった。
「では、楓ちゃん。採用が決まったことだし、あっちの部屋にって入社手続きと書類書こうか。」
「は、はぁ・・・・ひっ。」
最後の短い悲鳴はカメラを持った暗い影に目が輝いている茨木さんを見て出た。
このあと、私は何枚もの書類にサインをし、社章バッチをもらい、指紋を取られ、光彩を取られた、なんでも社内のセキュリティ認証に必要だとか。
あと写真を何枚も取られ、名詞と社員証二枚(身分が書かれたものと、書かれてないもの)をもらった。
そこまではいい。
サイズを取ってスーツを注文しなくちゃといってメジャーをもってきた茨木さん。
もう、絶対に必要ないだろうってところまで測られました。なんで握力まで測定するのか教えてほしい。
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楓が住むアパート
4月2日 AM7:00 楓の夢の中
ポケットに入ってる携帯が鳴る。マナーモードにしてるとはいえ、先生の目の前授業中に電話に出るわけにはいかない。
「せんせー、すいません、ちょっとトイレに行ってきます。」
教室を出て廊下にでる。
「はいもしもし長谷です。」
「楓ちゃん、今すぐ中国に行くわよ。すぐに学校を早退して、いま学校にヘリを向かわせているから。」
「は?」
「もう一度言うわね、ヘリが迎えに来るから、今すぐ校庭にダッシュ。」
茨木さんはなかなか冗談がきつい。そんな急な海外出張の上に学校早退でヘリコブターなんて
「あの、そんな急な話・・」
「あのね、私達はエッグ・スター社長秘書、社長が急に中国に向かうことになったら行くの。とくに今回は海外だから専属通訳がいなかったら話にならない。はい、今すぐ行く。」
「はい、わかりました。」
私は電話を切って、教室に入る
「長谷さん、授業を抜けたして携帯電話とは度胸ありますね。」
そういう先生を私はさらりと流す。
「せんせー、急な用事が入ったので学校早退します。では。」
教室を出ていこうとする私の腕を先生がつかむ。
「長谷、高校というのは自分が都合がいいときに早退できる場所ではない。今から社会の厳しさを教えてやる。」
先生が急に説教を始める。それとともになりだす携帯電話。携帯を取り上げて先生が「いま、授業中なので出られません」といって携帯を切る。またなりだす携帯電話。それを無視して説教をする先生。
こんなに秘書が忙しいだなんて、これでは高校に入っても卒業できないかも。このまま仕事を放り出したら、明日から生活できない。
やばい、やばい、やばい・・・・
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい・・・・
ジリリリリリリ・・・・
「はっ・・・・・。夢か・・・・リアルな夢だった・・・・。あ、今日入学式だ。はやく用意しないと。」
こうして楓の長い1日が始まる。