プロローグ2
あの日は大変だった。
ロバートはどうやらマリーとフランスから来ていたらしく、私はホテルでマリーにあった。
インターネット上では声だけだったので、実際にあってみて三人で雑談するのはある意味新鮮だった。
ロバートは興奮すると体を使って表現することが多く、見ていてたのしい。マリーは金髪美人で、モデルみたいだった・・・訂正、モテルではなく女優さんでした。
そしてそろそろ時間的にも店(下宿先)に帰ろうとしたとき、突然ロバートがマリーに告白した。リアル恋愛ドラマを目の前で見せられた感じだった。
返事はイエスだが、ロバートはマリーにビンタされた。なんでも私の目の前で告白されてとても恥ずかしかったらしい。顔を真っ赤にしたマリーとちょっと理不尽な顔をしているロバートをみて、私は思わず笑ってしまった。
二人は顔を真っ赤にしてうつむいているもんだから、「はいはいごちそうさま、お幸せにね。」って言ってやった。私の性格や趣味を知ってる二人はますます顔を真っ赤にするもんだから、私は「ロバート、ほどほどにね」っていって部屋から出ていった。この後の二人の行動は目に見えている。
中学生がそんな知識持っていないだって?プロネットサーファーなめるな。知識だけならそこらの大人よりも知識あるぞ。なんたって海外サーバーの(ピーーー 以下自主規制)
あと、星崎さんに会社の住所を教えてもらった。
この春から東京に行くといったら、ぜひともわが社で働いてほしいといってきた。完全にやすい通訳発見としか思っていないだろ。まぁでも、家がボンボンってわけでもないので、バイトで生活するつもりだったし。通訳なら少しは給料いいだろう。
そう思っていた時代も私にもありました。
「うそでしょ、ここは・・・」
東京に来てびっくり。
星崎さんの勤めている会社、それは誰もが知る世界的総合メーカー エッグ・スター だったのです。
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兄は店で忙しく、両親も共働き。私は一人、東京行きの飛行機に乗った。
本当は夜行列車で行くつもりだったのだが、兄が私の分の飛行機代を出してくれたのだ。もちろんただではなく、英語版とフランス語版と中国語版など、主要言語のメニューを作らされたのだが。
でもおかげで私は有意義に上京することができた。
ラッキー
早速私は不動産屋に向かう。
部屋はもうすでに抑えている。
東京都内の木造アパート二階、家賃三万、トイレ、風呂なし。だが、新しい我が家なのだ。
部屋には段ボールがいくつかおいてある。事前にネットでポチって不動産屋に頼んで部屋に入れてもらっていたのだ。
中には私がここで使う予定の寝具と、パソコン、机だ。
和室ということで、布団一式とちゃぶ台という組み合わせ。これぞ定番
私は布団を押入に入れ、大きなボストンバッグとスーツケースを開け、高校の制服を着る。
学生の正装はこれに限る
ただでさえ、家が苦しいのは母の家計簿を見ているからわかる。あの中から仕送りをひねり出すのは結構な無理がかかることは明白だ。一応一か月分の生活費と三か月分の家賃は母のへそくりで何とか賄ってもらった。
アルバイト先が決まるかどうかは私にとっては死活問題だ。もしも決まらなければ兄か両親に仕送りを頼まなければならない。
「よし、いくぞ。」
女子とは思えない意気込みとともに私はとりあえず一番候補の星崎さんが務める会社へ、住所を頼りに向かったのだ。
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大通り同士の交差点のそれぞれ角四つにミラーガラス張りのとても大きい超高層ビル、そして交差点を覆うかのように連絡通路が伸びている。
そして連絡橋の側面には エッグ・スター Egg Star とロゴが大きく入っている。
ビルに入ると一階ロビーは大きな吹き抜けになっていて、無数のスーツ姿の男女がせわしなくセカセカと通り過ぎていく。
そして吹き抜けのほぼ中央あたりに受付カウンターにむかう。
「すいません、星崎さんをお願いします。」
「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
「長谷 楓です。」
「少々お待ちください。」
受付カウンターのお姉さんはどこかに電話をかけている。そしてその話の中に社長というフレーズがたまに聞き得てくる。
星崎さんってロバートに遊ばれていたけれども、社長とかかわりがあるということは、専務とかなのかな。
私はそんなことを考えながら受付のお姉さんが電話し終わるのをまった。
「お待たせしました。ただいま、星崎は会議中でございまして、代わりに村上がお迎えに上がるとのことです。あちらのソファーで少々お待ちください。」
待つこと三分、三十代のさわやかな感じの男性が私に近づいてきた。
「すいません、長谷さんですか。」
「はい、そうですが。」
「失礼、村上と申します。」
そう言って村上さんは私に名刺を渡した。
エッグ・スター社長第二秘書
村上 長司
社長秘書?!
またなんでそんな人が・・・
「星崎はもうすぐ会議が終わるそうで、さきに社長室へ行きましょう。」
社長室!!!!!
私はそのまま村上さんが案内するままエレベーターに乗せられる。
村上さんは何もなかったようにエレベーターを呼び出したが、呼び出しボタンの横に指紋認証機であろう機会に村上さんが指を突っ込んだのを見た。
さすがに大企業社長室のセキュリティは厳しいみたいだ。
私はどんどん上がっていくエレベーターの階数表示をながめる。大体二階を一秒くらいで上がっている。
三十階をを過ぎたあたりで耳が痛くなってきた。
六十階くらいで耳抜き(軽いあくびみたいなもの)をし、七十階を過ぎて浮遊感がきた。
そしてエレベーターは73階で止まる。エレベーターはかるい到着音を奏で、扉が開いた。
そこは一階のざわめいたロビーとは違い、静かで落ち着いた絨毯敷きのエレベーターホール。その先には廊下が左右と前方に伸びていた。
「どうぞ、こちらです。」
村上さんはそのまま前方に伸びる廊下に案内される。
廊下の壁にはたまにガラスケースに入れられた壺や絵が飾られていている。
私はこんなところとは無縁の人なので、すこし緊張してきた。
そして同時に「なぜ私はここに来たのだろうか」という疑問が湧いてくる。
そうしているうちに廊下の端につき木製の二枚ドアの前につく。
村上さんはドアをノックする。ドアの上には金色のプレートに黒文字で社長室と書かれている。
「どうぞ」
女性の返事とほぼ同時に村上さんは無造作に扉を開ける。
「お帰り、村上。社長が言っていた高校生くらいの女の子いた?」
「たしかにいたけど、まさか本当に高校生だとは思いませんでしたよ。」
そういいながら村上さんは私の背中を押して部屋の中に誘導する。
そこは角部屋で真ん中に大きな高級感あふれる低いテーブルが、ガラスが張られた景色を一望できるように設置され、それを囲むように隣り合う一人掛けのソファーが二つ、その反対側に三人掛けのソファーが一つ置かれている。
そしてその左側には、ドラマとかででできそうな社長席が木彫りの社章を背景におかれている。
「ドラマのセット・・・。」
社長室に入って一番最初に発した言葉はそれだった。