プロローグ1
「会議中失礼します、会長緊急です。長谷社長が"また"会社を辞めたいとおっしゃってます。どうしましょう。」
世界的総合グループ会社「エッグ・スター」のグループ会議、グループ各社の社長がざわめく。それとともにエッグ・スターの社長”代理”の吉崎が頭を抱える。
「それで楓君の辞職願理由はなんだね、元場君。」
長谷 楓 現エッグ・スター社長
元場 優 エッグ・スター社長第三秘書
星崎 義信 エッグ・スター会長・元エッグ・スター社長
吉崎 みのり エッグ・スター社長代理兼社長第一秘書
「・・・それが、友人とスキーしに行きたいから会社を休みたいと仰ったのでその日、株主総会があるので休暇が取れないとお知らせしたところ、休めないなら社長を辞任すると。」
会議室に緊張した空気に包まれる。星崎会長の唇が引きつっている。
「・・・どうしましょう、会長。」
「仕方がない、いま楓君に辞められると会社が傾きかねない。代理が出席すると伝えろ。あと、楓君に一週間の休暇を。」
「わかりました、会長。」
星崎会長はたばこに火をつけ、椅子に深く腰掛け深いため息をつく。
時は8年前にさかのぼる。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
長崎のとあるちゃんぽん屋、そこに長谷 楓はいた。
店の入り口についているスズの音がなる。
「いらっしゃいませ。ただいま満席ですので少々お待ちください。」
年は慣れの兄の店は、最近ガイドブックに隠れた名店として紹介され、連日観光客でいっぱいだ。
バイト三人と兄と私ではもうそろそろ店が回らないかもしれない。
仏語『あの、予約をしていたのですが。』
急なフランス語の対応、兄が中学生の私をバイトに雇ってくれる理由がこれだ。
『失礼ですが、どちら様でしょうか』
『ホシザキで予約していると聞いてます。』
『少々お待ちください』
私は予約表を見る。
『はい、たしかに伺っています。奥の席にご案内します。どうぞ』
私はバイトを呼び、奥の座敷個室の三番テーブルに案内させる。
フランス語、ドイツ語、英語、中国語など、最近求められる言語が多い。
私は趣味のチャットやインターネット電話のおかげで問題なく喋れるが、兄は苦労しているみたいだ。
私の家は長崎でも山の方にあり、中学校もバスで一時間かけて通っていた。過去形になってる理由は最近卒業したからで、東京にある高校に入学することが決まっているからだ。
そんな山の中、周りにゲームセンターやカラオケがないのはもちろん、当然近所に同世代の友達がいるわけでもなく、私は孤立していた。ただ、こんな田舎にもかかわらず、インターネットは繋がっていて、私は日々インターネット上の友達、いわゆるネット友といろんな雑談を日々繰り返していた。
そんなある日、私はマリーと名乗る日本語がたどたどしい外人さんに出会った(ネット上で)。
私は興味本位でその人とネット通話をしようと持ち掛けた。日本での雑談の話題に飽きがきていたのでまが差したのだ。
マリーはとても日本に興味があるらしく、たどたどしい日本語や時々簡単な英語で私にいろんなことを聞いてきた。一度家の周りの風景の写真を送ったことがあって、マリーはとても喜んだ。なんでもとても感度したらしい。
私は毎日学校から帰るとマリーに電話した。マリーから聞くフランスの話題は日本にいる私にとって新鮮で、とても楽しかった。
そのうちマリーは日本語が上達し、いつのまにか私もフランス語と英語が口から自然と出るようになり、当然喋れるようになったら、書きたくもなり、マリーにフランス語と英語を習った。
ある日、マリーに友人を紹介された。何でもマリーのビジネスパートナーでもあるそうで、ロバートと名乗った。
ロバートはフランスに住んでいるが、ポルトガル人らしい。
ロバートはホテルの元受付係で、その関係でいろんな国の言語を喋れるらしい。マリーが私をロバートに紹介したのはロバートが日本語の勉強をしたいらしいからだ。私としては話をして楽しければなんでもいいので、学校から帰るとマリーとロバートと私のグループ通話を毎日した。ロバートは今は通訳の仕事をしているらしく、気が付いたら私はいろんな国の言葉を読み書きできるようになっていた。
そんな日々を過ごした中学生生活をしていたので、語学の苦手な兄と違い、私は十七か国語をしゃべることができる。ロバートの影響でいろんな国の言語を勉強した成果だ。
「楓、三番テーブルさんの注文をもらってきて」
「はーい。」
おっと、呼ばれたみたいだ。
仏『ご注文、お伺いします。』
『すいません、このメニュー日本語で書かれてて読めないのですが。フランス語か英語版ありますか。』
『もうしわけありませんが、当店には日本語以外のメニューはございません。よろしければ私がその場でご説明いたしましょうか』
『お願いします』
最近外国からの客が増えたことでこういったことが多くなってきた。
もうそろそろメニューの英語版がほしいところだ。
『このスペシャルちゃんぽんをお願いします。』
『スペシャルちゃんぽんおひとつですね。少々お時間がかかりますがいいですか。』
『大丈夫ですよ。まだ肝心のホシザキさんが来ていないし。』
『わかりました。』
チリンチリン
お、また客が来たみたいだ。言葉のトーンで兄が応対しているのがわかる。
英『おそくなってすいませんロバートさん。でもここフランス語も通じるから大丈夫だったでしょ。』
『日本人が時間に遅刻するなんてあるんだ。』
星崎という人がロバートという外国人と会話する。だが、私にとって重要なのはそこではない。
「ロバート・・・英『人違いならすいません。先ほどロバートさんと・・・言いましたよね』」
「そうですよ、お嬢さん。」
ロバートではなく、ホシザキが返してきた。
仏『・・・マリーさんってご存知ですか』
『ええ、マリーなら私のビジネスパートナーです。』
今度はロバートが返してきた。どうやらホジザキはフランス語がわからないらしい。
仏『あの、私もみじです。インターネット電話ではもみじと名乗ってます。』
『え、もみじ?よく昼頃に話していた。』
『昼頃・・・?ああ、そういや時差があったね。』
『ロバート、どうして日本語で話さないの?』
『ああ、それは彼に私が日本語をできると知られたくないからだよ。』
『どうして?』
『いたずら心』
そう言えばこの人はそう言う人だった。
「失礼、お嬢さんさん。彼・・ロバートさんと知り合いで。」
「あ・・はい。ロバートは私の外国語の先生でもあり、ロバートにとっては私は日本語の先生です。ま、世間で言うネット友っというやつですよ。・・・あと、ロバート。私はインターネット上ではもみじって名乗ってるけど、現実では楓っていいます。あらためてよろしく。」
「よろしく、かえでちゃん。いきなりネタバレはなしだよー、せっかく英語で四苦八苦するの楽しんでたのにー。」
星崎は唖然としている。たしかに見ていて面白い。