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超短編2

もくひょう。

作者: しおん

生まれた時は五体満足だった。

でも、いつの日からか僕の体は壊れてしまった。



足が動かない。

それは僕が持つ記憶の一番始めから同じだった。移動手段は、抱っこかおんぶか車椅子。それしか知らない僕はその不自由さを理解できないけれど、それは世間一般で同情してもらえる程度には可哀想な事らしい。

まあ、自力ではじめてのお使いもできない大きな子どもを哀れむのは当然といえば当然のもののように感じる。


歩けない。

走れない。


そんな生きる上でのリスクばかり抱えた僕を両親は見捨てる事もなく育ててきてくれた。恩返しすらまともにできない僕をだ。


リハビリをして、最近は立つ事ができるようになった。正確には"杖を使って"だが、これでも大きな進歩だ。誰かの補助なしで行動ができるのはこれが人生初なのだから。父親には背中を叩かれ、母親は大泣き。年の離れた姉に至っては記念日だとカレンダーに書き込みをされアルバムを作られるしまつ。母親より、母親らしい行動をしていると思う。


そういえば、僕の事を語り忘れていたね。

僕は今年で18になる。普通なら高校三年生として生活をしていたはずの存在だ。

生憎、義務教育期間は病院内で過ごしまともに授業と言うものを受けた事のない僕は、受験勉強などとは無縁のまま育ってきた。残念な事にそんな僕でも自動的に卒業を迎えてしまって、ろくに学校生活に参加しないまま……むしろ、学校という施設に足を踏み入れないうちに僕の学校生活は幕を閉じた。


本やテレビで知ってる文化祭にも運動会にももちろん参加はしていないし、入学式も卒業式も入院している病室で家族にだけ祝ってもらった。そして長年のリハビリで立てるようになった今、やりたい事は山ほどある。


まずは、自力で車椅子に乗る。

ベッドから立ち上がって車椅子に腰をかける。たったそれだけ。いつもなら家族や看護師さんにやってもらってる行為だけど、今の僕なら十分にこなせるメニューだ。


それから、自動販売機でジュースを買う。

車椅子用にと低めに設置されたボタンではなく、きちんとジュースの絵柄の下にあるボタンを押して買うんだ。普通の人には日常の一コマでしかないこの行為も、僕にとっては始めての事。自分でお金をいれて商品を手にする。そんな当たり前の事すら僕はやってこなかったんだから。


さいごに、ゆっくりでいいから歩く。

立つ事が出来たんだ。頑張れば歩く事ぐらいできるようになるはずだ。いつも窓からみてる中庭の景色。僕はそこを自力で歩いて、みんながみている景色を見てみたいんだ。


とりあえずこの三つが当面の課題。どれも妥協は出来ないし、したくない大切な目標だ。





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― 新着の感想 ―
[一言] 人間は生きているだけで素晴らしいです。 わたしは障がい福祉の自立支援させていただいているサービス提供責任者です。 障がいをお持ちの方をお手伝いしているのに逆に元気をわけて頂く事が多いです。 …
2015/04/24 10:29 退会済み
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