それでも僕は殺ってない
共働きで忙しい新婚夫婦だったがたまたま平日に休みが合い、
朝から電車に乗り街へ買い物に出かける。
車内はかなり混んでおり座ることができなかったので2人は密着して立っていた。
僕はふざけて妻のお尻を撫でる。
妻は「こんな人が多いところで辞めて」と小声で言うが、
僕は妻の耳元に顔を寄せて「いいじゃんいいじゃん」と行為を続ける。
プシューーッ
駅で電車が停まりドアが開いた瞬間。
周りにいた屈強な4人の男が僕を掴みプラットホームの方に引きずり降ろした。
僕は唐突な衝撃や引っ張られている意味が分かっていない。
4人の男達は近所の大学のラグビーユニフォームを着ている。
しばらく僕達2人の様子を観察しており、女性の「辞めて」という発言を無視して、
悪質な痴漢を続ける悪漢としての僕を取り押さえたのだ。
朝の混む駅にて辺りは騒然とした状況となる。
僕は「違うっ!痛いっ!説明させてくれ!」と大声で叫び、
妻の方を見ると両手で顔を覆い肩を震わせて泣き崩れていた。
僕はアクリル板ごしに国選弁護士との接見をしている。
「妻は何と言ってますか?」
「奥様は強い精神的ショックを受けたようで、あの日の事をあまり憶えていないようです。
今でも病院に通いカウンセリングを受けていますよ。
あなたの言う通り被害女性は奥様なのだから、なぜその場から逃げようとしたのですか?
なぜその場で夫婦であると言わなかったのですか?なぜ身分証明をしなかったのですか?」
屈強な男4人にがっちり拘束され耳元で4人から大声で怒鳴られ続けた。
声量で上回るべく血を吐くほど叫んだが、
周りには変態の痴漢犯罪者が朝から叫んで足掻いているようにしか見えなかったのだろう。
なぜ?なぜ?と今も、あの時の大学生も、駅職員や、引き渡された鉄道警備隊からも問われたが、
僕は逃げようとなんてしていない。
力任せに押さえつけられ呼吸も苦しい中で抵抗していただけだ。
何度真実を言っても誰にも届かない。
僕がやったという証言以外は聞こえない脳になってしまっていたのだ。
「何にせよあなたは多くの善意を巻き込んでしまったので、真実はどうあれ痴漢したことを認めることとなるでしょう。新聞記事にはお手柄大学生4人という記事も載ってしまっていますし、警察はあの学生たちに感謝状を渡してしまっています。あの日の被害者の女性が奥様であったという事実が明るみになる事はもう無いです。あなたの名誉を挽回する機会も無いし、汚名は返上できないでしょう。」
痴漢の実態は無いが示談と言う形式で釈放される。
僕はすでに会社をクビになっていた。
釈放された日のまさにその夜。
僕を取り押さえたラグビー部の学生の1人が不審死を遂げる。
翌日も1人。
その翌日も1人。
さらに次の日に1人が亡くなり、4日で4人全員が亡くなった。
5日目。
僕をしぶしぶ弁護していた国選弁護人が死んだ。
10年後
最高裁判所にて僕への死刑判決が下る。
しばらくして拘置所の謁見室。
僕は妻とアクリル板ごしにやり取りをしている。
「なぁ。最初から全部お前だったんだろ?僕の何が気に喰わなかったんだ?」
妻は下を向いていたが口角が上がっているのが見えた。




