モク仲
新キャストでの物語の始まりです。
「タムさん!明けましておめでとうございます!」
「ははは、まだ明けてないよ。ハイ、みかんもう一個オマケしたげる。ナイショだよ」
「ふふふ、ありがとう!じゃあ頑張ってね!」
「佳奈ちゃんもね。」
今日は大晦日、某テーマパークはカウントダウンで年明け4時まで特別営業する。
俺はここのセントラルキッチンで働いていて、今日は働くキャストにサービスで年越し蕎麦とみかんを無料配布している。
普段はキッチンキャスト以外はここには立ち寄らないが、今日だけは他のキャストもこれを貰いにやってくる。
表舞台で働くキャストも寒い中大変だが、何気に裏方の俺達も今日は忙しい。
さっきの佳奈ちゃんは清掃キャストで、普通なら関わる事がないのだが、言わばモク仲だ。
出会いは休憩室の喫煙所だった。
「ライターガス切れですか?」
俺はタバコに火をつけようと必死で安物ライターをカチカチさせていた。
「そうみたい。コレ外から見て分からないから切れかけかどうか分からなかった…」
「じゃあ、ハイどうぞ」
そう言ってジッポーを出してきた。
「若い女の子がシブいね」
「ふふふ。このオイルの匂いが好きなの」
「あー!分かる。でも手間かかるでしょ。俺も昔少し使ってたけど、面倒でやめた。」
「そうそう、石とかすぐダメになるし、オイル切れ早いし、補充もカパって下開けなきゃだしね。でもやっぱ風に吹かれても消えないし、この手間暇が愛着湧くんだよね」
「確かに風には強いな。軍人さんとかも使うんだっけ?この面倒さに耐えられるのは尊敬だなあ。」
「ふふふ、私我慢強いのは自信アリよ。」
「へー。良い奥さんになりそうだ。」
「まだなる気ないからね。夢あるし。」
「良いなあ。なんかそう言うの眩しい…」
「田村さん?まだ若いでしょ。あはは」
「鈴木さん?君は見たまんま若そうだね」
お互いネームプレートを見ながら名前を呼んだ。ローマ字表記だが、2人ともありふれた苗字なんで、漢字もすぐ想像出来た。
「うん、ハタチ。」
「ハタチでジッポーかあ。やっぱ渋いなあ」
「私形から入るタイプだからね。田村さんは幾つ?」
「俺24。タムさんで良いよ。みんなそう呼んでるから」
「なんだ、結構歳近いね!じゃあ私は佳奈で良いよ!じゃあまたね!タムさんも若いのにセッターは渋いからね!」
俺のセブンスターを指差して笑いながら喫煙所を出て行った。
そこから休憩室で佳奈ちゃんとたまに顔を合わせる様になった。