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孤独の温度  作者: ISSA
3/3

【第三夜‐孤独の揺らぎ】

夕暮れが街を染める頃、俺――鈴木大翔――は今日も一人で校門をくぐった。

教室ではまだ、陽気な笑い声が残響のように漂う。

いつもなら、あの騒音を避けるために早足で校門を出るだけだった。

だが、今日は違った。

――神無が待っているかもしれない。

昨日の帰り道、彼女の笑顔が頭から離れなかった。

あの自然な温かさは、どうして俺の心にこんなに刺さるのか。

「おはよう、大翔君」

校庭の端で手を振る神無。

その声と視線に、無意識に顔が緩む。

――まずい、と思う。

俺は孤独でいることに慣れすぎている。

誰かにこうして認識されること自体、心地良くもあり、恐ろしくもある。

一緒に歩きながら、ふと過去の記憶が浮かぶ。

小学校時代――好きな漫画や手芸、絵、ゲーム――全て馬鹿にされたこと。

「男のくせに」「女のくせに」

あの頃、俺は自分を否定される痛みに押し潰されそうになった。

そして、「男らしさ」「女らしさ」など考えることを諦め、孤独を盾にするしかなかった。

神無はそんな過去を知らない。

ただ、無垢に笑い、俺の横に立つ。

その存在が、俺の鎧を少しずつ削り取るようで、嬉しい気持ちと戸惑いが混ざる。

「大翔君、今日も元気ないね」

「ああ……いや、別に」

声は小さく、ぎこちない。

こんな風に自分の感情を見透かされるのが怖いのに、神無には隠せない。

なぜか、隠す気にもならなかった。

歩きながら、ふと彼女の視線が自分の腕に触れた手首に向かう。

無意識に引っ込めると、神無は軽く笑っただけだった。

――見られてしまったのか?

でも、怒られもしない。批判されもしない。

その安心感が、逆に胸の奥の冷たさを痛烈に感じさせる。

「ねえ、大翔君」

神無が少し声を潜めて言った。

「私、なんだか不思議なんだけど……大翔君って、誰にも見せない部分があるよね」

――見抜かれている。

心の奥底で押し殺していた感情、孤独の温度、傷つきやすい自分。

それを無言のうちに見透かされた感覚が、胸に重くのしかかる。

「……別に、何もない」

言った瞬間、自分の声の弱さに苛立つ。

言い訳も、強がりも、もう疲れている。

孤独は重く、体の奥にずっしり沈み込む。

その時、ふと思い出す。

――神無と俺は……家族の関係も知らない兄妹かもしれない、ということを。

まだ本人たちには分からない。

この距離感は、どこか危うく、そして運命的なものを含んでいるのかもしれない。

沈黙の中、二人で歩く夕暮れの道は、いつもより長く、温かく、そして少しだけ痛い。

孤独の温度が、少しずつ変わり始めている。

手首の冷たさはまだ消えないけれど、神無の存在が、わずかに凍りついた心を解かし始めていた。

「……また明日も、一緒に帰る?」

神無の問いに、俺は答えをすぐには返せなかった。

でも、頭の奥で、わずかに期待している自分に気づく。

――嫌いな世界も、陽キャも、まだ変わらない。

でも、神無だけは、違う。

その違いが、孤独の温度を少しだけ温める。

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