01 ロゼルフィーユは認めない
魔王の死よりも、その報せは早馬となって駆けた。
公爵令嬢ロゼルフィーユ・グレイシアが、それを聞いたのは、魔王が死んだ、その日の夜明けだった。遠隔の通信手段がない彼女の国では、異例の速さと言えた。
「何ですの?これは。私を愚弄していて?」
ロゼルフィーユは、手に持った手紙を握り潰した。エメラルドの瞳を釣り上げながら、鋭い視線を伝令兵に向ける。
「グレイシア嬢。紛れもなく、事実でございます」
彼女の気迫に若干押されながら、伝令兵はそれでも、毅然とした態度で答えた。
公爵の娘などという、高貴な身分の令嬢の部屋。
それも、令嬢はネグリジェ一枚という姿。
そこに、無骨な甲冑姿の兵士が、靴に着いた汚れすらも落とさずに踏み入っているというのは、ロゼルフィーユが持つ手紙の重みを、確かに示していた。
手紙は、二枚三枚と続いている訳ではない。恋文のように、豪華な便箋に書いてあるわけでもなく、簡潔に、数文だけが書いてある。
『ロゼルフィーユ、魔王は死んだ。だが、ルミナも死んでしまった。魔王と相打ちになって、犠牲になった』
書き殴った文字だが、その筆跡が一定の美しさを損なっていないのは、手紙の主の育ちの高貴さを感じさせた。簡素な紙だが、確かにそれは"聖女と魔王討伐に旅立った王子のもの"と分かるように、王家の封蝋だけは、きっちりとされていたのだ。
「ルミナが、死んだ……?」
「……ロゼルフィーユ様、お気持ちは痛いほど…私たちは皆、聖女ルミナ様を愛して……」
伝令兵が寄り添うように声を発した。
俯いたロゼルフィーユの銀色の髪を、朝焼けの陽が煌めかせる。
光の差し込む窓を背景に、髪で顔を覆い隠せてしまうほどに俯いて、肩を震わせるロゼルフィーユの姿は、まるで、恋人や、最愛の子の死を嘆く、一枚の絵画のように見えた。
「――――バカを言わないで頂戴」
伝令兵が、鎮痛な面持ちを隠さないまま、口を開こうとした。だが、ロゼルフィーユは、顔を上げて、すぐさま、口を開いた。
「殺される訳がないでしょう、聖女の上ツラだけは上手いあの女が……」
魔王。
それは数千年に渡りこの国を苦しめ続けた怨敵であり、その恐怖は、国民であれば幼少期から、骨の髄に至るまで叩き込まれている。ロゼルフィーユも、当然、魔王に対して正しい恐怖は持っているはずだ。……そのはずなのだが。
「魔王ごときに殺されるなんて、ありえないわ!!」
その恐怖を上回るほど、ロゼルフィーユ・グレイシアが、聖女ルミナに持ち合わせている感情は、なんというか。
――――少々拗らせた、厄介なものなのである。
厄介令嬢のドタバタコメディ(たまにシリアス)です。
とにかく聖女の死を認めません。
よろしくお願いいたします。