第3話 「今日も学校II」
「か、影月さん?」
そこにいたのはクラスメイトの影月九羅だった。
「やっと起きたのね、全くいつまで寝t…」
「zzz」
「…」
教室の空気が静まった。
「寝るんじゃなーい‼︎」
バシンッ!
静まった教室に乾いた甲高い音が響き渡った。
「うぅ…ごめんって影月さん」
「い、いや…私も少し怒りすぎちゃった…ほっぺた大丈夫?」
宙比戸は影月さんの渾身のビンタを喰らって目が覚めたと同時にほっぺたが真っ赤に染まっていた。
「あ、全然大丈夫だよ。悪いのはこっちだし」
「そう?ならいいんだけど」
影月さんは少し笑顔になった。
「ところで他のみんなは?」
クラスを見渡してみると、僕と影月さん以外誰もいなかった。
「え、みんなならもう帰ったよ」
「へ?」
思わずだらしない声が出た。
「ふふっ、なにその声」
影月さんは横を向いて嘲笑した。
「え、だってまだ6限目が…」
「え、授業ならもうとっくに終わったよ」
「マジで?」
「まじだよ」
「本当に?」
「本当だよ」
どうやら寝てる間に授業が終わっていたらしい。
「やったー!」
ベシッ
「イタッ」
寝ている間に授業が終わっていることを知って喜んでいたら頭に痛みが走った。
「やったーじゃないでしょ!」
影月さんが思いっきり顔を近づけてきた。
「宙比戸ってどの授業もまともに聞いてないじゃない!」
「このままじゃテストで赤点取っちゃうよ!」
「いや僕はいつも赤点ギリギリで回避してるから大丈夫」
「それじゃあダメだよ!」
影月さんは近づけてきていた顔を下げて腕を組みながらこう言ってきた。
「仕方ない、今度の土日に勉強教えるから絶対来てよ!」
「えぇ…正直土日は家でゆっくり…」
「なんか言った?」
影月さんがとても圧と恐怖がかかった顔でこちらを見てくる。
「ヒャイ‼︎絶対行かせていただきます!」
どうやら僕は影月さんには逆らえないらしい。
「それにしても、授業が終わっても全然起きる気配がしないと思ったらまさかこんな時間まで起きないなんて」
「…え?」
[こんな時間]と言われては震える手でポケットからスマホを取り出し恐る恐る時間を確認する。
「うぇ⁉︎」
宙比戸は鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた。
なぜなら、時間を確認してみるとなんと17時をまわっていたのと…
「うわぁ‼︎」
「ちょっと急に大声出さないでよ、ビックリするじゃん」
影月さんは宙比戸の反応に驚いたが宙比戸の耳には届いていなかった。
《メッセージ 未読99+》
そう、そこにはなんと阿弥からのとんでもない量のメッセージが来ていたからである。
「(あ、終わったんだぁ)」
宙比戸は全てを諦めたような顔をしながら静かにスマホをしまった。
「ご…ごめん影月さん、こんな時間まで残しちゃって」
「別にいいよ、今日は特に何もなかったし」
「それに…」
影月さんは少し顔を赤らめた。
「宙比戸と2人っきりでいられて嬉しかったし…」
下を向きながら細々とした声でそう言った。
「え?なんて?」
だが阿弥からのメッセージに焦っていた宙比戸には聞こえていなかった。
「…知らない!」
影月さんは少し怒ったような声色で言った。
「それより早く行った方がいいんじゃない、渡月さんが待ってるんでしょ」
「そうだ!早く行かないと!」
宙比戸は急いで準備をして教室を後にした。
「じゃあまだ明日!」
「うん。また明日」
それから宙比戸は、阿弥が待っている校門前へ走っていった。
(あれ、なんで影月さんが阿弥が待ってること知ってるんだ?)
(ていうか、阿弥と影月さんってなにか接点あったっけ?)
(うーん…まぁいいや!)
いろいろと辻褄が合わない気がしたが、特に気にしないことにした。
———
「はぁはぁ…」
「(あれ、僕ってこんなに体力なかったっけ…)」
「歳か…」
校門近くに着き、阿弥がいないか確認する。
「あれ?もう帰ったのかな?」
「帰ってないよ」
「ヒッ‼︎」
背後からそっと抱きしめられるとともに耳元でそう囁かれた。
「ははははっ!」
「ビ、ビックリした…」
振り返ると少し不吉な笑みをした阿弥が居た。
「あ…もしかして怒ってます…?」
「えー怒っていませんよぉ?」
「あ、あははは」
「あはははは」
お互い沈みかけている夕陽の光に刺されながらたからかに笑った。
阿弥の目は笑っていなかったが。
「で、なんでこんなに遅くなったんですか?」
「私すっごい心配したんですよ」
「担任に呼び出されたって聞いたので少しすれば来ると思っていたんですけど」
「ぜーんぜんっ!帰ってこないんですもん!」
一言、また一言話すと同時に阿弥が顔を近づけてくる。
「いや、そのぉ…ん?」
「担任?呼び出し?」
「そうですよぉ、宙比戸がメッセージを送ってきたんですから」
「え?送ってないよ」
ずっと教室で寝ていたのにメッセージなんていつ送ったのだろうか。
「とぼけないでください!」
阿弥はポケットからスマホを出し、こちらにトーク画面を見せてきた。
「ほら、15時30分に宙比戸から送られてきてますよ!」
阿弥のスマホに映し出されているトーク画面を見ると
〔ごめん!担任に呼び出されちゃったから少し遅れる!〕
〔わかりました。では校門前で待っていますね。〕
〔まだ終わらないのですか?)
〔何をしているのですか?〕
〔もしかして本当は他の女と…〕
etc…
「それから学校中を探したのにどこにもいなかったのですから」
そう聞き宙比戸は疑問に思った。
「え、でも僕はずっと教室にいたけど…」
そういうと阿弥は
「何を言っているのですか、宙比戸の教室にも向かいましたがら電気が消されて鍵もすでに閉められていましたよ」
と言ってきた。
(…そういえば教室、電気ついてなかったっけ?)
全く辻褄が合わないがそうえいばクラスには僕だけでなくもう1人いたことを思い出した。
「え?でも…クラスには影月さんもいたし…」
「!」
そういうと阿弥の目を丸くした。
「そう…ですか…」
「そういうことですか…」
阿弥の様子が少しおかしいように見える。
「あ、阿弥?」
「…」
阿弥のことを呼んでも気づいてない。
「もしかして、影月さんのこと知ってるの?」
そういうと阿弥はこちらを向いてこう言った
「えぇ、知ってますよ」
「だって影月九羅は」
「私の敵なのですから」
と。