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ラウンド7 そんなの聞いてないパート2

 皆で向かうのは、体調不良のドラゴンが横になっている広場だ。



「事前にお願いしていた資料はありますか?」



「はい、こちらに。平常時の各バイタル情報に、体調を崩してからの食事と薬のリスト、薬の成分表です。」



「どうも。」



 それなりの厚みがある紙の束を受け取り、ジョーは紙面に目を落とす。

 すると一秒にも満たない間に、瑠璃色の双眸が鋭い光を宿した。



 片耳で周囲の話を聞いて相づちを打ちながらも、ジョーの目はとんでもない速度で資料を読み進めていく。



 そして、ドラゴンの元に到着する頃には、彼はあの分厚い資料の全部を読み終えていた。



「ちょっとごめんね。少しだけ話す元気はあるかな?」



 ドラゴンの首元に手を添えたジョーは、まるで医者のように触診を始めた。

 大きな瞳孔を覗き込み、鱗や爪の状態を丁寧にあらためる。



「体調は、いつ頃から悪くなったの?」



「………」



「うん。その前に、変わったものを食べたり飲んだりした記憶は?」



「………」



「食事をあまり取れてないようだけど、食欲がない? それとも食欲はあるけど、喉や胃が受けつけない?」



「………」



「そう…。君には色んな薬が投与されてるんだけど、今日までに体調が少しでもよくなったことはなかった?」



「………」



「なるほど……それはいつ頃?」



「―――おい。」



 途中から違和感だらけだったノアは、たまらずキリハに声をかけた。



「あいつ……さっきから普通にドラゴンと話してるように見えるんだが、どういうことだ?」



「あ、そういえば言ってなかったっけ?」



 やはりキリハは事情を知っていたのか、すんなりとこちらの質問に答えた。



「ロイリアの治療薬を作る時に、ロイリアの声が聞けないと不便だからって、研究用に採取したレティシアの血を飲んだらしいんだよ。その後リュードに頼まれて、リュードの血も飲んだんだ。」



「ということは、あいつも今は竜使いの一員だと?」



「そうなるね。」



「だがお前の話では、ドラゴンの血を受け入れると目が赤くなるのではなかったか?」



「カラコンで隠してるんだってさ。ちょうどいいから、ドラゴミン濃度とかをいじった薬で、能力はそのままに目の色を戻せないか研究するって言ってたよ。実験台が自分だから楽だーなんて、割と怖いことも言ってたっけ。」



 おい。

 そんなの聞いてないパート2なんだが?



 そんな楽しいことをするなら、ぜひとも私も誘ってくれよ。

 喜んで実験台二号になってやったのに。



 こちらが拳を握り締めている間に、診察を終えたジョーがドラゴンから少し離れる。

 懐からペンを取り出した彼は、持っていた資料の裏面に迷いなく文字をしたためた。



「うーん……手持ちでどうにかなるかなぁ?」



 わざわざここまで持ってきていたスーツケースを横に倒し、鍵を外して(ふた)を開くジョー。



 着替えでも入っているのかと思っていたスーツケースに収まっていたのは、何種類もの薬品と簡単な調合器具だった。



 クッション材の代わりにしていた白衣を羽織り、先ほど自身で書いたメモは地面に放置で、ジョーは数種類の薬品を配合し始める。



「バイタル情報って、今すぐにリアルタイムで見られます?」



 あっという間に試験管一本分の液体を完成させたジョーは、次に周囲の職員へそう訊ねた。



「あ…。このタブレットで……」

「お借りしますね。」



 一人が差し出したタブレット端末を受け取り、ジョーは試験管と注射器を持ってドラゴンの元へと戻る。



 そして、試験管の液体を注射器で採取すると……



「今から新しい薬を打つから、後でどう感じたかを教えてくれる? いいことも悪いことも教えてね。」



 注射器をドラゴンの鱗の隙間に入れて、ドラゴンに液体を投与した。



「………っ!?」



 その場が騒然とする。

 無理もない反応だ。



 明らかに目分量の配合で手抜きをして作ったとしか思えない謎の薬を、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなくドラゴンに投与したのだから。



「……うん。」



 しばらくタブレット端末を注視していたジョーは、五分ほど経過したところで顔を上げた。



「とりあえず、乱れていた脈拍と呼吸は落ち着いたようです。」

「え…っ!?」



 その報告に、皆は耳を疑う。



「どうぞ。ご覧ください。」



 ジョーが職員にタブレットを返すと、皆があっという間にそこへ集まった。



「ほ、本当だ……」

「こんなに早く……」



「あんまり心配なさらなくて結構ですよ。」



 再び紙にペンを走らせながら、ジョーが周囲への意識は半分といった様子で話し始めた。



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