Song.5 可愛い子供の出来心
あれからアルシードは、ぼくのことを〝シアノ君〟じゃなくて〝シアノ〟って呼ぶようになった。
当然だよね。
だって父さんは、子供をそんな風に他人行儀に呼ばないもん。
気持ちは晴れやか。
足取りも軽い。
これで満足―――するわけないじゃん。
「シアノ君。今日もお疲れ様でした!」
大手アパレルの新作発表にモデルとして参加した後の会見。
このカメラのうざいフラッシュやマイクの量にも、かなり慣れたもんだな。
「シアノ君の新曲、聴きましたよ! 今回はロックにしたんですね!!」
「うん、そう。テンションが高い時に作ったから、自然とそういう曲調になったんだよね。でも、ぼくらしさは損なわずにまとめたつもりだよ。」
「ええ! シアノ君らしく、スタイリッシュで綺麗な仕上がりだったと思います!」
「やはり、メジャーデビューはしないんですか?」
「うん、そのつもりはないかな。やっぱりぼくの原点はネットだし、その時から応援してくれたみんなには、いつまでも感謝していたいからね。これまでどおり、ぼくの歌は好きな時に気軽に聴いてほしいんだ。」
「初志貫徹ですね! すばらしいです。」
「ありがと♪」
ちょっと野性味を帯びた色気を演出してウインクを飛ばすと、そこにいた女の人たちが小さく悶絶するのが見えた。
チョロいねー。
アルシード直伝のモテ仕草は強いや。
「ごめんね。色々と話を聞きたいのは分かるんだけど、今日は手短に済ませてほしいんだ。」
「もしかして、次のお仕事が……」
「あー、違う違う。」
ひらひらと手を振りながら、面倒そうに顔をしかめる。
「ビザの更新。知ってる人は知ってると思うけど、ぼくはルルア国民じゃないからさ。」
半分本当の半分嘘。
ビザの更新は必要なんだけど、手続きはとっくの昔に終わってるんだよねー。
「そういえば……シアノ君の生まれは、セレニアでしたっけ?」
「うん。めんどくさいよねー。もう三年近くルルアに住んでるし、活動拠点を変えるつもりもないし、あの人みたいに国籍でも移動させようかなぁ。」
「あの人っていうと……」
「今超話題の天才科学者、アルシード・レインさんですよね!!」
うん、ありがとう。
とても都合よく、簡単にあの人の名前を出してくれて。
「同じセレニア生まれとして、あの電撃移籍はどう思われます?」
「仕方ないんじゃない? あんなことがあれば、ぼくだって移籍すると思うもん。いくら同じセレニア生まれだっていっても、あの事件を許せとは言えないよ。」
「そうですよね。アルシードさんが以前、あの事件について語ってくださったことがあったんですが……聞いていて、胸が潰れるようでしたよ。」
「下手な同情はやめときなー。あの人、同情されるの嫌いだから。」
「それでもあんなに優しい笑顔で、我々の質問に丁寧に答えてくださって……無理をされてないといいのですが……」
「いやいや、杞憂だって。あの人今、全力で楽しんで笑ってるから。悲劇の主人公らしく涙をこらえてーなんて、あの人はそんな可愛い性格をしてないよ。」
「……あれ?」
何かがおかしいことに気付いたのだろう。
記者にカメラマン、音響の人々が怪訝そうに眉を寄せる。
「シアノ君……もしかして、アルシードさんとお知り合いですか?」
「知り合いも何も、あの人がルルアに来てる時は、ほぼ毎日顔を合わせてるよ? そもそもぼくは、あの人と一緒にルルアに来たようなもんだし。」
「え…?」
ざわざわとどよめき出す会見会場。
マネージャーも目をまんまるにしちゃってる。
そりゃあ驚くよね。
ぼくは今まで、ジョー・レインおよびアルシード・レインとの関係なんて匂わせたことがないもの。
「あれ、意外? 同じセレニア生まれでルルアで活動を始めた時期も近いから、誰かしら関係があるって勘繰る人がいるかなって思ってたのに。」
「いえ…。ルルアに移住するセレニアの方も、友好同盟締結から増えていましたので……」
「あー、そっかぁ…。だから、今まで話を聞かれなかったのかぁー。……残念だな。ぼくはあの人がアルシード・レインに戻ってくれたことを、誰よりも喜んでたのに。」
「誰よりも、ですか…?」
どういう意味か、と。
その場にいる全員の視線がぼくに集中する。
ぼくはそんなお馬鹿さんたちに、満面の笑顔を向けてやった。
「だって、アルシード・レインは―――ぼくの自慢の父さんだからね♪」
これは本当の本当。
あの人は誰よりも自慢で、誰よりも大好きな、世界一の父さんだ。
「えええぇぇぇっ!?」
割れんばかりの絶叫に包まれる会場。
ぼくはそれを満足げに眺めて、トンズラ体勢に入る。
「シアノ君! どういうことですか!?」
「まんまの意味だよ~。あー、秘密解禁って気持ちいい~。これでもう我慢せずに、堂々と父さんって呼べる~♪」
「待ってください! もう少し詳しいお話を―――」
「だーかーらー、ビザの更新があるって言ってるじゃん。早く話を聞きたいなら、父さんにでも聞いて~♪ どうせ、父さんのところに行ってる記者もいるでしょ~♪」
「シアノくーん!!」
「~~~♪」
追及の声を背に、ぼくは颯爽と会場から逃走。
テンションが上がって、つい父さんを巻き込んじゃった。
まあ父さんなら、可愛い子供の出来心だってことで、笑って許してくれるよね。
だって父さんは―――特別な存在には、べらぼうに甘い人だもん♪




