ラウンド69 世界を翻弄するのは―――
『彼の才能は、これから多くの人を救うでしょう。国の名誉のためにセレニアに縛られるよりも、世界の発展のためにルルアで輝いてほしいと……私は、そう思ったのです。』
論文発表後に開かれた会見で、ターニャ様は静かにそう語った。
『知識の追求に、国籍も何も関係ないじゃないか。僕はとにかく、あいつがこれまで溜め込んできた論文をさっさと解放したいんだ。おい、アルシード! 何度でも言うけど、君は僕とケンゼルにとって孫も同然なんだからな!? 応援しているから、ルルアでは手抜きして隠れるなよ!! 君を隠すのも大変だったんだからな!?』
徹夜明けにカメラに捕まっちゃったオークスさんは、カメラを煙たがりながらも、ケンゼルさんの名前まで出して僕を応援した。
『期待というものがいかに苦しくて、自分の心を歪めてしまうか……おれには、それがよく分かる。おれが軍を出て幸せになれたように、あいつがセレニアを出て幸せになれるというなら、おれはあいつの選択を祝福します。』
父親が経営する紳士服ブランドの次期社長として新作発表会に登場したミゲルは、心からの笑顔を浮かべて僕の選択を喜んだ。
『説得? いや、無理でしょ。どう考えたって無理でしょ。家族も自分も殺されたとなっちゃ、誰だって恨むでしょ。むしろ、あの人が悪魔止まりでいてくれて感謝すべきですよ~? あの人が本気を出してたら、今頃この国は滅んでますから。こうして考えると、あの人は十分に神様だったんですねぇ~。』
ね?
やっぱりディアだけ、発言が薄っぺらいでしょ?
剣に養分がいきすぎだよ、この脳筋。
でも、皆が揃ってあえて表に出て、大々的に僕を擁護してくれたことには感謝するしかない。
僕の味方は数が少ない分、一人ひとりが強力すぎるっていうノアの言葉は、本当だったみたいだ。
〈ずっと近くで見てきた俺には分かります。アルシードさんが心に負った傷を癒したのは、ルルアの人たちです。アルシードさんがルルアにその恩を返したいと思うのは当然だし、俺もアルシードさんがいるべき場所はルルアだと思います。俺はまだ大学在籍中なので、もうしばらく我慢させちゃうことになるけど……少しでも早くバトンタッチができるよう、ルルアで勉学に励みます。〉
これは、ルルア大統領御殿が公表した僕を歓迎する旨の声明に、キリハ君が添えてくれたメッセージ。
お師匠さんと違って、君は本当によくできた人間だよ。
セレニアにはもったいないから、君もサーシャちゃんと一緒にルルアに移籍しない?
そんなこんなで、権力者たちが揃いも揃って僕を肯定しちゃったもんだから、他の皆さんは何も言えなくなっちゃったみたい。
発表した論文のテーマがテーマだから、竜使いの人たちは完全に僕を支持していて、ちょっとでもアルシード批判の声を聞くとカンカンになるんだそう。
まあ、くだらない世間の声なんていいのさ。
僕を天才に仕立て上げたのは君たちだし、その天才を怒らせたのも君たちでしょって話だからね。
天才に、常識も世間体もくそもない。
もう二度と、そんなものに翻弄されてやらない。
世界を翻弄するのは僕の方さ。
だって僕には―――それだけの権利と価値があるでしょ?




