ラウンド59 気付いたら、傍に寄り添っている子
〈凄惨な事件を乗り越え、武勲と共に知恵の世界に返り咲いた最強の天才科学者〉
字面だけ見ると、まあ壮大なこと。
年明け一発目のサプライズにはもってこいですね。
あれからすごいよ?
宮殿も研究所も問い合わせのオンパレード。
やれ記者会見だの講演だのテレビ出演だの。
電話が鳴らない時間がない。
というか、一部を除いては宮殿や研究所の皆さんだって、衝撃の事実についていけてませんよね。
それは分かっていたので、義理程度に各部署へ挨拶に出向いてあげましたよ。
事の真相については、ネットニュースとテレビで流れている僕の解説以上でも以下でもない。
簡潔にそう告げて、それ以上の言及は悪魔スマイルでお断り。
僕としては、名前が変わったところで〝情報の覇者(悪魔)〟なのは変わりませんと示したつもりだったのだけど……あれから、周囲の態度が一気に生暖かくなりやがった。
研究所や宮殿の先進技術開発部の奴らなんか、何を言っても〝アルシードならオッケー〟状態だよ。
〝あんな事件があれば、そりゃ歪むわな〟
目が口ほどに物を言ってんだって。
こちとら、同情されたくて素性を明かしたんじゃないやい。
気持ち悪さ半分、戸惑い半分といった心地だ。
最低限の時間で各部署を巡るついでに、ルカがいる規律監査部には、ギャラリーとロクターの収賄諸々の証拠を提出しておいた。
とりあえず二日くらいはそんな感じで事後処理をして、その後はノアと一緒にそそくさとルルアへ。
面倒回避っていうのもあるけど、あっちにも挨拶に出向かなきゃいけないからね。
「アル!!」
ノアと二人で車から降りると、駐車場で待っていたキリハがロケットのような勢いで抱きついてきた。
「おっと……」
「本当におめでとう! とっても安心したよ!」
全身を締め上げるような温もりが震えていることに気付いてキリハの様子を窺うと、彼はいつの間にか大泣き状態になっていた。
相変わらず、この子はよく分からないな。
自分はこの子に冷たいことも言ってきたし、時にはひどいこともしたはずだ。
それなのに、どうしてこの子は両親やノア並みに、こちらのことで心を痛めたり喜んだりするのだろう。
「……ごめんね。いつもいつも、心配させてばかりで。」
口が勝手にそんなことを囁いて、これまた勝手に動いた手がキリハの頭をなでてしまう。
この子は僕にとって、ノアの次に特別なのだろう。
ノアがパワーでジョーの殻を突き破ってアルシードの隣に陣取ってくるなら、キリハは殻の隙間からそっと入り込んで、いつの間にかアルシードの傍に寄り添っている。
気付いた時には殻の中にいちゃうから、追い払うに追い払えなくなっちゃうんだ。
「あ、あのさ……」
「うん…っ」
「……あ、ありがとう。僕がちゃんとアルシードに戻れたのは、ノアだけじゃなくて、君のおかげなのも大きいと思う。」
「え…?」
「さすがは流風剣のプロってことなんじゃないかな。君はジョーとしての僕もアルシードとしての僕もそのまま受け入れて、どちらも否定せずに平等に認めてくれた。そんな君は……僕がノアに背中を押された時に簡単に前へ進めるだけの土台を、ずっと作ってくれていたんだと思う。ディアやミゲルの何倍も……君は、僕の支えになってくれてたよ。」
だめだ。
言い慣れないことを言っているからか、顔が熱い。
純粋な感謝で頭を下げるなんて、僕のガラじゃないっての。
でも、言うべき時には言うべきだと思うし……
「アル……」
涙を引っ込めて、キリハが目を丸くする。
「それって、アルの癖?」
「え? 癖って…?」
「だから―――もごごっ!?」
キリハが何かを言おうとした瞬間、ノアが瞬足でその口を塞ぎに来た。
「キリハ! 言ってくれるな! これは、私イチオシの萌えキュンポイントなのだ!! 自覚させなくていい!!」
「?」
「ちょっとノア……何を隠してるの? 僕の癖って何?」
「やだ! 言いたくない! 可愛いから、そのままでいいんだ!!」
「ノア!!」
「やーだーっ!!」
どうにか聞き出そうとしたけど、ノアは追及の手を逃れて、すたこらさっさと研究所の方へと逃げていってしまった。
ちなみに、落ち着いた頃にキリハ君がそっと教えてくれたけど……直すことは無理そうだと、秒で諦めた。




