ラウンド58 ずっと呼んでたよ
「ねぇねぇ! すっごいニュースが飛び込んできたらしいよ!!」
仲がいい研究所の人たちとドラゴンの体調確認に勤しんでいたところに、一人がとある知らせを持ち込んできた。
「なんか、二十年前に死んだと思われてたセレニアの天才科学者が、実は生きてたんだって!!」
「―――っ!!」
その報告に、キリハは手にしていたボードを取り落としてしまった。
「え、なんて人?」
「なんだっけ……確か、アルシード…? なんでも、今はメジャーになってるメルクル病とサキンド病の治療薬を、たった九歳で開発した人なんだってさ。」
「嘘だろ!? まさか、あの〝奇跡の難病指定同時解除〟の立役者か!?」
「それ、九歳の子供が作ったのかよ!? おれはてっきり、もう死んでるじいさんとかが作ったのかと……」
「あたしもそう思ってた。テストで出てくるから奇跡が起こった年と病名は覚えてたけど、さすがに治療薬の開発者までは覚えてなくて……」
唸った彼女は、建物の方を振り返る。
「あたしたちは二十年前なんてまだ子供だったからピンとこないけど、年寄り連中の騒ぎっぷりがすごいのよ。〝あのアルシードが生きていたなんて、科学界一番の吉報だー〟って。」
「くっそ、ニュースサイトがパンクしてやがる。」
「そうなのよ。SNSもサーバーが落ちちゃったみたいで、緊急メンテナンス中。」
「どういうことか、超知りたいのに…っ」
「二十年前に九歳ってことはさ、今は二十九歳ってことだよな? 割と年代近いじゃん。」
「なぁ、キリハ君! キリハ君は何か―――」
興奮ぎみにキリハを見た人々は、そこにあった予想外の光景に言葉を失う。
「うっ……うう…っ」
そこではキリハが、大粒の涙を流して泣きじゃくっていたのだ。
(ノア……やってくれたんだね…っ)
よかった。
本当によかった。
これでアルシードは、今度こそちゃんと、アルシード・レインとしての人生を歩めるんだ。
復讐を捨てることは無理かもしれないけど、復讐のために自分を殺すことはもうしなくていい。
こんなに嬉しいことがあるだろうか。
「幸せになることを受け入れるのが遅いよ、アル…っ」
馬鹿みたいに遅すぎだ。
それでよく天才だなんて言えるよ。
本当にもう。
今まで見ないふりをしてきた分、めいいっぱい幸せになってよね……
「キリハ君……もしかして、アルシードと知り合いなの?」
「あはは。みんな、何言ってるの?」
おろおろとする周囲の反応が面白くて、キリハは声をあげて笑う。
どんどんあふれてくる涙を拭いながら、かの天才が誰であるかを告げた。
「ずっと、ノアが呼んでたでしょ? ―――〝アル〟って。」
そう。
愛称だなんて建前はつけたけど、彼女は堂々と彼をアルシードと呼んでいた。
そしてここで過ごすうちに、彼はごく自然に〝ジョー〟から〝アルシード〟に戻っていったんだ。
これぞまさに、愛による気の長い刷り込みってやつだ。
「アル……って……」
「まさか…っ」
ノアが呼んでいる〝アル〟なんて一人だけ。
大恋愛の一部始終を見てきた皆には、一瞬で意味が伝わったようだ。
「旦那様ああぁぁ―――っ!?」




