ラウンド57 悪魔節炸裂! これぞ〝アルシード・レイン〟!!
「それじゃ、言うことは言ったからね。僕はこれで。」
すくむ人々など放っておき、ジョーは一人家の中に戻ろうと踵を返す。
「アルシードさん!」
そんな彼を引き止めたのは、一人の男性記者だ。
「先ほどのお話から察するに、お兄さんとは仲がよろしくなかったようですが……過去の報道資料の一部に、テロ組織の手引きをしたのがお兄さんかもしれないという記述がありました。それは事実なのですか?」
「………っ」
それは、自分の深淵。
拉致監禁事件よりも深いところにある、人生最悪の記憶を呼び覚ます言葉。
「―――さあね。」
ジョーの口から、極寒零度を思わせる声が放たれる。
「天才に嫉妬した裏切り者のことなんて、とっくの昔に忘れたよ。」
彼が言ったのは、たったそれだけ。
しかし、その一言だけで過去資料の真偽を察するのは容易だっただろう。
「ねぇ……今質問した人、どこのメディアの人? よくその記述をすぐに見つけられたなぁと思って。」
マスコミたちに背を向けたまま、ジョーが訊ねる。
当然その質問の意図が分かっていない彼は、特に何も考えずに答えてしまった。
「ライラック通信ですが……」
「ライラック……ああ。」
わざとらしく手を打ち、言葉尻を上げるジョー。
「知ってる、知ってる。そこのギャラリー専務、よーく宮殿に来てるよ。」
「専務が、ですか…?」
「うん、そう。」
ジョーはくるりと皆に向き直る。
そして―――
「何を企んでるのか知らないけど、情報部のロクターって奴に賄賂を渡しまくってるんだ。粉飾決算を隠したいなんて、そんなわけないと思うけど!」
満面の笑顔で、とんでもない爆弾発言をぶちかました。
「ええっ!?」
「まあ、粉飾決算なんて大した刑罰にはならないだろうけどぉ、信用と収入はガタ落ちだよねぇ? ……社・員・全・員♪」
「―――っ!!」
ジョーの発言を受け、彼の質問に馬鹿正直に答えてしまった記者が顔を真っ青にした。
その顔を見たジョーの表情が、一瞬で笑顔を失う。
「今後しばらく僕を嗅ぎ回る予定のみんなに、この場で教えてあげるよ。僕をちょっとでもイラッとさせようものなら……最悪、職を失うと思うんだねぇ? 僕に情報を丸裸にされても堂々とできる奴だけかかってきな。」
兄の話題がアルシードの逆鱗に触れたのは明白。
彼は全身に受ける怯えの視線を、冷たく笑い飛ばす。
「はっ。ニュースを読んで、僕にどんな幻想を抱いてたかは知らないけど……僕はもう、純粋でも優しくもないんだよ。天才たる者、同じ轍は二度と踏んでやらない。やられたらやり返すまでさ。僕が今、宮殿でなんて呼ばれてるか知ってる?」
緩やかに弧を描く唇。
妖しげな雰囲気を帯びる瞳。
蠱惑的な笑みで、これまで数々の敵を容赦なく蹴散らしてきた彼は、そう―――
「〝情報の覇者(悪魔)〟だよ♪」




