ラウンド4 強化されていた能力
ほらな?
こっちの方が厄介だろう?
声には出さず、ノアは込み上げてくる笑いを必死にこらえる。
その先では……
「ようこそいらっしゃいました! 研究所職員一同、キリハ君が来てくれるのをどれほど待ったことか!!」
「え? えーっと……」
「それが噂の《焔乱舞》ですね!? キリハ君以外の人間は、鞘越しにしか剣に触れられないというのは本当ですか!?」
「えええっと、ほ、本当みたいです。後で、触ってみます…?」
「ええ、ぜひ! ドラゴンと人間が生み出した奇跡の逸品に触れられるなら、多少の火傷なんて!」
「いやー……そんなことを言ってられないくらい熱いよ…?」
「それより!! ドラゴンと言葉を交わせるとは、本当なのですか!?」
「いや、あの……どのドラゴンともってわけじゃなくて、今のところはロイリアたちだけ……」
「でも、事実なんですね!? これまで、ドラゴンからどんな話を聞きましたか!? 習性は!? 仲間関係は!? 炎を放つメカニズムとはーっ!?」
「ひええぇぇっ!!」
とんでもない質問の嵐に、目を回すキリハ。
しかし、これも致し方ないものと思ってほしい。
ドラゴンと友好的な関係を築くルルアで、ドラゴンと難なく意志疎通を図ることは夢なのだ。
そこに能力持ちの竜使いが現れたとなれば、目の色も変わるというもの。
しかも、神竜の炎を宿した剣までセットでついてくるなんて、食いつくなという方が無理である。
高校卒業資格なんてルルアで取ればいいから、とにかく今すぐキリハを連れてきてくれと。
研究所の面々に、何度泣きつかれただろうか。
「そういえば、お前より先にロイリアが到着しているぞ。今頃ルーノとじゃれている頃だと思うが、会いに行くか?」
「行く!!」
仕方なく助け船を出してやると、キリハが涙目で何度も頷く。
そんなキリハをさりげなく守りながら、後ろにぞろぞろとお土産をくっつけて外の広場へと出た。
そこでは数匹のドラゴンが悠々自適に過ごしていて、隅の方でルーノとロイリアが無邪気にじゃれ合っているところだった。
やはり、特別に通じ合うものがあるのだろう。
キリハが声をかけるよりも圧倒的に早く、ロイリアがその存在に気付いて駆け寄ってきた。
「あはは。久しぶりにルーノに会えて、嬉しそうだね? ……うん。あー、そうなの?」
なんとも楽しそうなキリハ。
自分含む研究所の面々は、羨ましさを噛み締める他に道はなかった。
ふとその時、のんびりと歩みを進めてきたルーノがキリハたちの元に到着する。
「……あれ?」
ルーノを見上げたキリハが、不自然な笑顔で固まった。
ルーノの方も、どこか怪訝そうに首を傾げている。
「キリハ、気のせいじゃないと思う。ぼくも分かる。」
何かを察したシアノが、キリハにそう告げる。
すると今度は、ルーノが明らかな動揺を見せ始めた。
「どうしたのだ?」
不思議に思って訊ねると、キリハはポリポリと指で頬を掻きながら口を開いた。
そして、想定外も想定外の発言をかます。
「なんか……俺たち、ルーノの言葉も分かるようになってる。ついでに言うと、俺たちの言葉もルーノに通じてるみたい。」
「何ぃっ!?」
「何ですとーっ!?」
さすがに驚いて、キリハに飛びついてしまう。
それに続いて、職員たちもキリハたちに詰め寄る。
「おい! どういうことだ!? 能力が強化された原因に、何か心当たりは!?」
「あるっちゃあ、あるけど……」
冷や汗を掻きながら、キリハはシアノに目を向ける。
「シアノって、リュードの血は……」
「飲んだよ。」
「そうだよね。でも、レクトの血しか飲んでなかった時も、レティシアたちとは話せてたんだよね?」
「うん。」
「なるほど。これが、最上格のドラゴンの力……」
「こらそこぉっ! 二人だけに通じる話をするなぁ!!」
「あわわっ……ちょっと待ってぇーっ!!」
皆が醸す圧力に負けて、キリハが眉を下げて喚く。
それからしばらく、竜使いの返り咲きによる第一回ドラゴン講座が開かれることになるのだった。