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ラウンド51 真実が……




「おい、アルシード! お前、このままじゃやべぇぞ!!」





 当然、その言葉を聞いたところで意味は分からなかった。

 ジョーは戸惑いながらも、なんとか口を開く。



「な、何が…?」

「いいから、とりあえずネットニュースのトップを見ろ! SNSもめちゃくちゃだ!!」



 そう言われて、体だけが動いた。

 ミゲルとの通話を繋いだまま、自分がいつも見ているニュースサイトを開く。





〈二十年前に他界した天才科学者が、実は生きていた!?〉





「―――っ!?」



 トップに堂々と躍り出ている見出しに、思考も呼吸も止まった。



(そんな……何かの間違いだ。情報は消した。今さら……ばれるはずないのに……)



 見たくない。

 こんなの夢だよ。



 現実逃避をしたがる感情とは逆に、ガタガタと震える指先が見出しのリンクを叩く。



――――――

 二十年前、難病の治療薬を一気に二つも開発した九歳の天才科学者がいたことを覚えているだろうか?



 彼の名はアルシード・レイン。



 ご両親の意向でメディアの前に姿を現すことはなかったが、科学者で彼の名を知らぬ者はいないだろう。

――――――



 嘘だと思いたいのに、そこに記されているのは間違いなく自分のこと。



――――――

 彼は二十年前、その才能を欲したテロ組織に狙われた結果、逃走の途中で事故に遭って他界したことになっている。



 しかし、実際には逃走叶わず、一ヶ月以上もの間テロ組織に拉致(らち)監禁されていたことが、宮殿への取材で判明した。

――――――



 あの事件のことまで……



 しかも宮殿って……まさか、ターニャやランドルフが事件のことを暴露したとでもいうのか。



――――――

 しかし、全てが事実無根の嘘ではない。



 テロ組織からの逃走中に不慮の事故が起きたこと、そしてその事故で一人の子供が亡くなったことは、確かに事実なのだ。



 事件当時の報道資料を(さかのぼ)ってみよう。



 九歳だったアルシード君は、兄と共に埠頭(ふとう)へと遊びに行った道中で、テロ組織の人間に狙われたという。



 そう。

 つまりあの時亡くなったのはアルシード君ではなく、彼の兄の方だったのだ。



 兄の名は―――ジョー・レイン。



――――――



「―――っ!!」



 馬鹿野郎。

 そんなことを書くな。



 その名前を出されたら―――



――――――

 さて、この名前にも聞き覚えがないだろうか。



 先のドラゴン討伐で、ドラゴン殲滅(せんめつ)部隊の参謀代表として後方支援とドラゴンの安全管理を完遂し、功労者として最高勲章を受勲した我が国の英雄の一人だ。



 功労者受勲の功績がなくとも、国防軍所属時に出場していた国家民間親善大会で、〈風魔のディアラント〉〈覇王のミゲル〉と共にトップに君臨し続けていた彼の名を知っている者は多いだろう。





 現在はルルア国立ドラゴン研究所セレニア支部の所長として、ドラゴン研究の最先端を牽引しているジョー・レインこそ―――二十年前に他界したはずの、アルシード・レインその人である。





――――――



「嘘だ……こんなの……」



 どうして…?

 どうして今になって、こんなことに…?



 ……いや、ここまではいい。

 問題はここから。



 動きたがらない指で、必死に画面をスクロールする。



――――――

 事件当時、宮殿に保護されたアルシード君には、今後の安全のために被害者保護制度が適用され、戸籍の名前と生年月日を偽ることが許された。



 そこでかの天才が選んだのが―――亡くなった兄の仮面を被ることだったのだ。



――――――



「………」



――――――

 レイン兄弟の片割れが亡くなったのは事実。

 まさかその兄弟が入れ替わるなど、誰が考えるだろうか。



 兄のジョーが生きているなら、世間は必然的に弟のアルシードが死んだという思い込みに陥る……九歳の天才は、事件直後の不安定な精神状態でも、すぐさまその穴を見抜いたのだ。

――――――



「………?」



――――――

 もちろん、このとんでもない選択に、当初は両親も宮殿も大きく反対したという。



 しかし天才の言うとおり、世間の思い込みを利用するこの方法は、確実にアルシード君の安全を保障できる方法でもあった。



 名前を変える程度ではその能力を欲して彼を捜す人間がいるだろうが、死んだ人間を捜す人間はいないからだ。

――――――



 なんだ…?

 事実は事実なんだけど、何かがおかしい。



――――――

 両親と宮殿は協議を重ね、二十年の時効期間を設けた上で、一時的にアルシード君の要求を受け入れることで合意したという。

――――――



「!?」



 ジョーは大きく目を見開く。



 違う。

 両親と宮殿は取引なんかしていない。



 あれは……全部、自分一人で押し進めたわがままだったのに……



――――――

 今年時効を迎えるにあたって情報が開示されたが、二十年前にジョー君の死亡届は確実に受理されていた。



 そして親戚に話を聞いたところ、幼い頃のジョー君とアルシード君は、容姿がとても似ていたという。



 身長が兄に追いついてしまえば、多少雰囲気が変わったところで、それが弟だなんて思われないほどに。



 そう考えると、療養のためにと一年半の休学期間を取った後に、両親がジョー君を別の私立中学校へ転校させた理由は明らかであろう。



 ―――そう。



 これは全て、我が国随一の天才が全身全霊を懸けて仕組んだ、全世界を(だま)すほどに壮大な生き残り計画だったのだ。

――――――



「違う……これは、真実じゃない……」



 全身の震えが収まらない。



 事実が世間にさらされただけでも想定外なのに、その事実が真実から微妙に書き換わっているなんて。



――――――

 とはいえ、ここまで衝撃的な真相ともなると、眉唾(まゆつば)物だと邪推する者が現れるだろう。



 そこで我が社は、当時の拉致監禁事件の関係者として、三年前まで刑務所に服役していた男性に話を聞いた。

――――――



「―――っ!?」



 さらなる衝撃が、自分を襲う。



 あの事件の関係者だって?

 ちょっと待ってくれ。



 あの事件の関係者―――生き残ったのがアルシードであると知る人物は、ランドルフが抹殺してくれるという約束だったじゃないか。



 だから自分は彼との取引に応じて、あれやこれやと尽力してやったというのに……



「―――っ!!」



 (はらわた)が煮えくり返るような怒りに任せて、ミゲルとの通話を切る。

 入れ替わるようにランドルフの電話番号を呼び出して、携帯電話を耳に当てる。



 自分から電話が来ることは想定済みだったのだろう。

 コール音を介することなく、電話はすぐに繋がった。



「ちょっと! これは、どういう―――」





「それが、君への本当の報酬だ。」





 鼓膜を通って脳内を揺らした声は、一瞬誰のものか分からなくなるほどに、優しくて穏やかなものだった。



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