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ラウンド3 あんなの幻想だ

 一抹の不安は、見事に的中する。



 ターニャを中心とした新体制が整うまでは(せわ)しなかった、ジョーとのやり取り。

 それは、ルルアとセレニアの友好同盟が結ばれると同時にパタリと途絶えた。



 キリハとは違い、所詮は取引で保っていた間柄だ。

 こうなるのは、ある意味必然のこと。



 分かっちゃいるが……





(可愛くない奴め! 世話になった自覚はあるんだろ!? だったら、義理程度に報告くらい入れんか!!)





 こう叫びたくなるのは、果たして罪なことか?



 半年!

 半年だぞ!?

 その間、あいつから連絡を寄越してきた回数がゼロなんだが!?



 私が苦し紛れに情報技術の教師をしろと頼んだら、〝この人たちならいい感じに教えてくれますよ〟という生け贄リストを送りつけてきおった。



 しかも、二ヶ月前からはメールにすら反応しないんだが!?



(……いかんいかん。セレニアのことから、余計なことを思い出してしまった。)



 はたとジョーへの不満を垂れ流していることに気付き、ノアは溜め息をつきながら頭を振る。



 これでは、せっかくの楽しみが台無しだ。



 今日という日を心待ちにしていたのに、あんな可愛くない奴の残像に邪魔をされたらたまらない。



(そろそろだな……)



 電光掲示板の表示を眺め、そう思う。

 それから十分後、人混みの中からこちらに手を振る人物が現れた。



「キリハ! よく来たな!!」



 パッと表情を輝かせたノアは、大きなスーツケースを引いてくるキリハに思い切り抱きついた。



「あはは、久しぶり! 友好同盟の締結に来てくれた時以来だっけ?」



 キリハは相変わらず、癒し成分全開の笑顔で再会を喜んでくれる。



 一時は《(ほむら)乱舞(らんぶ)》を拒絶するほどに憔悴(しょうすい)した彼だが、よくここまで持ち直してくれたものだ。



「シアノも久しいな。元気にしていたか?」

「………」



 キリハとは違い、シアノは強張った表情でキリハの背中に身を隠してしまった。



 この子の可哀想な境遇は、ターニャの応援演説でセレニアに(おもむ)いた際に聞いた。



 だから、キリハからルルアにシアノを同行させたいと相談された時には、二つ返事で了承して受け入れ体制を整えた。



「ははは。まだ人間に対する警戒が抜けんようだな。気にするな。すぐに楽しくなるさ。」



 警戒中のシアノにこれ以上のスキンシップもどうかと思い、ノアはすぐにキリハへと視線を戻した。



「どうだ? 疲れたか? ロイリアと一緒に、私のジェット機で来たらよかったのに。」



「だって、ノアのジェット機にはこれからいっぱい乗りそうだもん。俺、飛行機初めてだからさ! どうせなら、ちゃんとした旅客機にも乗ってみたかったんだぁ。」



「かーっ! お前はやっぱり可愛い奴だな!!」



 わしゃわしゃと髪を掻き回すと、キリハは楽しそうに笑う。



 そうだよな。

 真の可愛いとは、このことをいうんだ。

 あんな奴が可愛いとか、きっと幻想幻想。



「そういや、キリハ! お前、すでに大学で名が飛び交っているぞ?」

「え?」



 車に乗り込んでからそう言うと、キリハがきょとんと目を丸くした。

 それににやりと口の端を吊り上げ、ノアは事の経緯を述べる。



「ふふふ。なんたって、大統領たる私直々の推薦だからな! 試験成績も、それなりによかったそうだぞ?」



「そっかぁ……ルカたちがしごいてくれたおかげだね。」



 さすがはセレニアで一位、二位の有名人。

 名が通っていることについてはスルーで、試験成績の方に反応したか。



『ルルアには、ドラゴンについて勉強できる学校とかってあるのかな? もしあるなら、ドラゴン討伐が終わったら通ってみたいなって思うんだけど……』



 自分を舞い上がらせてくれたこの言葉。

 善は急げと、国一番のドラゴン研究所と関わりが深い大学をいくつか見繕った。



 あれから何度か大学の教授や研究所の責任者と交流を重ね、セレニアで高校卒業資格を取り、ようやっと正式に留学が決まったのである。



 自分だけではなく、教授たちも首を長くしてこの日を待っていたとも。



「まあ、大学には籍を置くだけで、実際にはほとんど研究所の方に行くから、俺の話題なんてすぐに落ち着くでしょ。」



 キリハはなんとも暢気(のんき)にそう言う。



 これが違うんだな。

 まあ、現場に着けば分かるか。



 ノアはほくそ笑みながら、車を運転するウルドに先を急がせるのだった。



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