ラウンド43 特大の誕生日プレゼント
(二年……二年か…。こんなに長く、この関係が続くとは思わなかったな。)
ノアとの会話を楽しみながら、ふとそんなことを思う。
どうせ、長くは続かない。
短時間で一気に熱を上げた恋なんか、その分早く冷めるもんだ。
彼女の周囲には、自分よりも魅力的な男性がごまんといるはず。
遠くの天才なんかより、近くの凡人の方がよくなるって。
自分は彼女にベタ惚れのくせに、心のどこかでそんな一線を引いていた。
いつ別れを切り出されてもいいように、微かな怯えと大きな覚悟を抱えながら、一ヶ月に一度は視察と情報共有という名目でルルアに飛び立った。
―――その結果がこれとは。
ルルアでは完全に旦那呼びが定着しちゃって、セレニアでその単語に反応しないようにするのが大変のなんのって。
大統領御殿では、裏の大統領とまで呼ばれちゃってる始末ですよ。
(もう……ちゃんと受け入れてもいい頃かな……)
この二年、何度想いと体を重ねただろう。
何度もこの臆病さと融通の利かなさを怒られて、何度も彼女の猪突猛進っぷりに説教をして―――何度も何度も、二人で面白おかしく笑い合った。
ねぇ、アルシード・レインさん?
科学における証明には、数え切れないくらいの実証実験と、明確に結論を説けるだけの根拠が必要じゃない?
もう―――十分じゃないかな?
「ねぇ、ノア。」
「ん?」
「来週はもう九月だから、ちょうどノアの誕生日だよね?」
「……ああ、そうだな。大統領選で忙しくて、すっかり忘れていた。」
「そう……」
呟きながら、胸元に手を入れる。
そこから取り出したネックレスを見つめ、改めて覚悟なんていらないくらい、この想いに迷いがないことを再確認。
「―――籍、入れてもいいよ。」
二年も待たせてごめんね。
そんな気持ちも込めて、囁くようにそう告げた。
「―――……」
途端に呆けるノア。
そんな可愛くて愛しい女性に、ジョーは優しく微笑みかける。
「そろそろ、ちゃんと結婚しようかって言ったの。今年の誕生日プレゼント、これでどうかな?」
どうせ思考停止からの幻聴オチに向かっているだろうから、言葉を変えてもう一度言ってやる。
すると―――
「~~~~~っ♪」
目いっぱいに涙を浮かべて、耳まで顔を真っ赤にして、ノアが両手で口元を覆った。
「いっ……いいのか!?」
「さすがに、二年も付き合っといて今さら結婚したくないなんて言わないよ。最初から、僕が結婚してもいいと思える人なんてノアしかいないんだからさ。」
「うううーっ! 嘘じゃないよな!? 夢じゃないよな!?」
「そう思うなら、ルルアに着いてから何度でも言ってあげる。」
「約束だぞ!? ものすんごく期待して待ってるからな!?」
「はいはい。その時に、ご両親への挨拶とか結婚式をどうするかとかも相談しようね。」
「うん♪」
満面の笑みで頷いたノアは、両手で抱いたクッションに顔の下半分をうずめて、喜びを噛み締めるようにクッションを抱き締める。
イヤホン越しにものすごい物音が聞こえてくるってことは、足をばたつかせてテーブルを連打しているみたい。
本当にノアは、自分の感情を全身で表現する人だな。
なおかつあんまりにも嬉しいと、口調が幼くなるというか、急に女の子らしくなるんだよね。
初めてその姿を拝んだ時は、『可愛すぎるからやめなさい』なんて、馬鹿みたいなことを言っちゃったよ。
「それじゃあ、今日はそろそろ終わろうか。」
「ええぇ……」
「ええぇ、じゃありません。嬉しすぎて眠れなかった結果、政務に手がつきませんなんてことにならないでよ?」
「よ、よく私の特性を分かっているな……」
「そりゃ、あなたの旦那様ですから?」
「旦那様…♪」
「いや、今さらでしょ。もう聞き慣れてるでしょ。」
「それでも、今日は特別な響きに聞こえる!」
無邪気に笑う彼女のきらめきが、なんとまぶしいことか。
こんなに喜んでくれるなら、もっと早く言ってあげればよかったよ。
名残惜しい気持ちになりながら、マウスを操作。
ディスプレイに映る矢印を、通話停止のボタンの上へ。
「おやすみ。―――僕にとって、最初で最後の奥さん。」
とびきり甘い声で囁いて、通話を切った。




