ラウンド42 自分たちらしい恋人の会話
それから―――あっという間に、二年の月日が流れた。
いやはや。
まさに〝怒濤〟という表現がピッタリの二年でしたよ。
ルルアとの友好の証として設立された、ルルア国立ドラゴン研究所セレニア支部。
その初期メンバーに旧ドラゴン殲滅部隊の面々を引き込んだのは、かなり効果的だったと言える。
やはり、公表時は多少のすったもんだがあったものの、研究所の設立自体は黙認多数という形で実現した。
まあそれは、自分が公開した短期的・長期的研究計画書が、絶大的な信用を勝ち取ったことも要因の一つだろう。
セレニアの風潮を最大限に考慮して、設立後三年は研究所にドラゴンを常駐させず、ルルアから送られるデータの分析と薬品開発に注力する。
実物のドラゴンを観察するような研究を行うにしても、基本的には人間との触れ合いに慣れているルルアのドラゴンを一時的にレンタル。
セレニアのドラゴンとしては、話が通ればレティシアとリュドルフリアには協力を仰ぐかもしれないが、それ以外のドラゴンの協力については、ドラゴンと意志疎通を図れるキリハが合流するまでは検討しない。
計画の主旨はこんな内容。
大々的に名前を出されることを、キリハもすんなりと了承してくれた。
実際に研究所が稼働してからは、ターニャ率いる執政本部とも綿密に連携。
研究課程の報告は学会に提出する専門的なものの他に、一般人にも理解できるライトなものも並行して公開した。
頃合いを見計らってドラゴンがいない時限定で研究所の見学も許可したところ、意外と多くの申し込みがきている。
思いの外、人々のドラゴンへの関心は高い様子。
キリハという広告塔が大いに効果を発揮していることに加え、計画書どおり安全に研究が進んでいると認知され始めたのも要因だろう。
……まあ、この自分が先導しているのだから、当然の結果だけどね。
「―――ってのが、今度の会合で提示する研究部編成変更案ね。そっちの予算編成にも影響するだろうから、一通り頭に入れといてほしいな。」
「ああ。」
「あとは……」
「アル。」
「ん?」
「私は、こんな話をするために電話したんじゃないんだが?」
「……あれ? じゃあ、なんのために電話してきたの?」
「単純に、声が聞きたかったからだあぁっ!!」
毎度恒例、ノアの文句タイムが始まる。
「アル! 所長の仕事が忙しいのは分かるが、もう少し恋人の時間を大事にしてくれ! なんで電話する度に、仕事の話がメインで恋人の話が脇に避けられるんだ!?」
「ごめんごめん。ノアの名前を見た瞬間、このことは下準備として言っとかなきゃと思って……」
「毎度えらい量の情報が共有される辺り、お前の有能さは十二分に伝わるけどな! どんな速度で仕事をしてるから、たった数日でそんなに情報整理ができるんだ!?」
「天才ですみませんね~」
「アル!!」
「愛してるよ。」
「!!」
途端に文句が途切れる。
ディスプレイに映る彼女の顔は、一瞬で果実のような赤へ。
「どんな話をしていても、ノアを愛してることは変わらないよ。」
そう告げると彼女はわなわなと唇を震わせて、バッとパソコン前に突っ伏した。
「ああもう! ああもう!! いっつもこれで文句を全部潰される!! そう言えばなんでも許されると思ってるのか!?」
「別に許されるために言ったんじゃなくて、ただの事実を言っただけなんだけどな。」
「余計に性質悪い!!」
「じゃあ、言わない方がいい?」
「毎日でも言ってくれ!!」
「何それ。」
やり取りが面白くて、ジョーはくすくすと笑う。
それを画面越しに見つめるノアが、ぎゅーっと唇を噛み締めた。
「ううぅーっ。そろそろ、禁断症状が出そうだよ。早く会いたい……」
「あと一週間頑張ってね。デートはどこに行きたいか決まった?」
「そうだなぁ~…」
テーブルに頬杖をついて、ノアは考えるように虚空に目を向けた。
「今回は、どこかに出かけずにゆっくりしたいな。」
「まあ、大統領選明けだもんね。外に出すぎて疲れちゃった?」
「そうなのだ。今期も大変だったよ。」
「でも、無事に今期も当選したんだから、さすがはノアだね。」
「うむ、当然の結果だ……と、前までなら純粋に喜んだがなぁ……」
「あれ、嬉しくないの?」
意外だったので素のトーンで訊ねると、ノアの表情が複雑そうに歪んだ。
「だって当選したということは、今後少なくとも三年はこの生活が続くだろう? 大統領を続けたくて立候補しているわけなんだが、落選すればアルのところに飛んでいけるのにと思うと、こう……どうしても複雑になってしまうのだ。どいつもこいつも、表面をなぞった口上しか述べられん奴らめ。少しくらい、私を脅かす気概を持った奴はおらんのか…っ」
だらしなくテーブルに伏せて、ゴロゴロと体を揺らしながらふてくされるノア。
「それでも、国のために戦い続けるノアはすごいと思うよ。」
ノアがルルアの大統領になってから、もう九年も経つ。
その間地位が揺らぐことなく、今もなお多くの国民から主導者として望まれるのは、彼女が真に国を大切にしているから。
そして、その想いが伝わるだけの功績を彼女が残し続けているからだ。
いつも周囲を見下して煽ってばかりの自分だけど、彼女だけは手放しで賞賛せざるを得ない。
「そうだな。アルのことと同じくらい、私はルルアが大好きだ。次を任せられる奴が現れるまで、私はここで頑張りたい。だからこそ、二年もこの状況に耐えられているのだろうな。」
「二年……か。思えば、そんなに時間が経ってたんだねぇ。デートを邪魔されて返り討ちにした奴ら、何人いたっけ?」
「覚えてない! 私とアルの時間に水を差した不届き者のことなど、成敗した瞬間に忘れたわ!」
「暗殺や襲撃が珍しくはないとは聞いてたけど、あそこまでとはね~。」
「いや。私だけじゃなく、お前への刺客もそれなりにいたからな? 遠慮なく利用できる私に感謝しろ。」
「そっちこそ、僕の利用価値に感謝してよ。僕特製の自白剤のおかげで、何人の政敵を吊るし上げられたと思ってるのさ。」
「……ふふ。」
「あはは。」
二人で笑う。
普通とはかけ離れているけれど、これが自分たちらしい恋人の会話である。




