ラウンド38 彼女は、この僕が―――
「……は? ほぼ正式な結婚指輪ぁ…?」
あれから数日後。
何故かいつも以上に強引な男性陣に連れ出された夜。
ルルアでポピュラーな居酒屋の個室で一杯飲み交わした後、意を決した一人から言われたのがその言葉だった。
「悪い。ジョーさんが飲みの席が好きじゃないって話は聞いてんだけどよ……」
「おれら、あまりにも見てられなくて……」
「なるほど…。このままだと僕は、許可した記憶もないまま、周りから〝ノアの旦那さん〟認定を受けることになるわけですね?」
ずばり結論を告げると、自分を引っ張り出してきた彼らは、なんとも複雑そうな表情で深く頷いた。
「あの人は……」
「まあ……ノアらしいっちゃ、ノアらしいや。」
頭痛をこらえるように額を押さえるジョーの隣で、巻き込まれ事故で一緒に連行されることになったキリハはパチパチと目をまたたいた。
「あー……なんとなく分かった。僕にわざわざネックレスをつけさせたのは、結婚式の真似事だったのでは?」
「ご明察です。」
たった一言からあれもこれも察したジョーに、ルルアの皆が向ける視線は同情的だ。
「いやな…? もうすぐセレニアに帰るわけだし、国が変わってしまえばただのネックレスなんだ。だからノア様も、願かけ的な感じであえて金色にしたのかもしれないし。」
「研究所職員一同、ジョーさんとノア様のことは全力で応援してるから、いいっちゃあいいんだ。」
「ただ……なあ?」
「気付いた頃には既婚者扱いなんて、独身男子としては複雑だろう?」
「婚約者よりえぐいぜ……」
「確かにえぐいですね。何も知らない人から、突然〝お子さんはいらっしゃるの?〟なんて訊かれる前でよかったです。」
溜め息をつきながら、ジョーは件のネックレスを取り出す。
おいおい、ノアさんや。
意味があるのは、トップの誕生木だけじゃなかったんですかい。
というか、付き合う前は婚約者で、付き合った後は旦那って。
どうして彼女はいつも、数段階を一足飛びに越えていくんだ。
「………」
どうする?
セレニアではともかく、ルルアではさすがに外しておくべき?
そう悩んだのも束の間……
『そして……これだけは忘れずに、いつでも覚えていてほしい。』
脳裏に響く、まっすぐな声。
『私が愛しているのは、ジョーではなくアルシードだということを。』
(……ま、いっか。)
記憶の中で笑うノアに〝外さないでくれ〟と言われたような気がして、ジョーは苦笑と共にネックレスから手を離した。
「その反応は……いいんだな?」
「おれらは一応、ちゃんと意味を教えたからな?」
「ええ、いいですよ。」
ジョーは肩をすくめながら、ネックレスを服の中にしまう。
「味方も好きな人も多いノアはどうなるか分かりませんが……一度好きだと認めてしまった以上、僕からこの関係を解消することだけはないと思いますから。」
魔性の改革王として、変化の中で生きているノア。
未だに兄の仮面を被ったまま、十八年前のあの日から動けずにいる自分。
心変わりする可能性があるとしたら、それは絶対にノアの方。
一度失敗しているからよく分かるが、自分からは彼女を突き離せない。
仮に彼女の心が自分から離れた時が来たとしたら、自分は彼女の新たな幸せを祈って身を引くしかないだろう。
(……って、僕がそう考えることを分かってて、あえてこんな大層な首輪をくくってきたのかもね。)
ネックレスは安心のため。
ふとした折に、ノアはそう言っていたっけ。
その〝安心〟とは、果たして自分自身のため?
それとも……
(だめだこりゃ。あの人には、一生かかっても勝てそうにないや。)
慈愛に満ちた柔らかい表情で、ジョーは微笑む。
「おお…」
「すげぇ、言い切った……」
「ええ、言い切ります。僕、中途半端なのが嫌いなんで。」
あまり好きではない酒を、少し多めに呷る。
喉を通り抜けていく清涼感を味わいながら、彼はこう宣言する。
「だって彼女は―――この僕が認めた、生涯でたった一人の特別な女性ですから。」




