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ラウンド34 とんでもない首輪


「―――さて、脱線はこのくらいにして……」



 視線だけの開戦宣言を終えた両者は、ほぼ同時に身を引いた。



「ノア。これが目当てで来たのでしょう?」



 クララがノアに差し出したのは、二つの小さな化粧箱だ。



「おお! そうだそうだ!!」



 途端に浮かれた顔をして、ノアがいそいそと箱を開ける。

 一緒になって箱の中身を覗き込んだジョーは、怪訝(けげん)そうに首を(ひね)るしかなかった。



 それぞれの箱に入っていたのはネックレスだ。



 金色の鎖と白い宝石が交互に連なったチェーンはお揃いだが、トップのデザインはそれぞれ異なる。



 ノアは一つの箱からネックレスを取ると……



「アル!! これを私につけてくれ!」



 そんなことを頼んできた。



「え…? ああ、はい……」



 意図はさっぱりだが、とりあえず言われたとおり、ノアの首にネックレスをかけて留め金を留めてやる。



「では、私からも。」

「ん…?」



 待って?

 本当に、何が起こってるの?



 一つも状況を飲み込めないでいるうちに、もう一つのネックレスは自分の首に。



「ルルアではな、誕生月に花が咲く木を誕生(ぼく)としていてな。」



「は、はあ…?」



「私がつけているのが、アルの誕生木であるジェルクのネックレス。アルがつけているのが、私の誕生木であるパピラスのネックレスだ。」



「うん……で?」



 ごめんね?

 察しが悪くて申し訳ないんだけど、もう少し端的に分かりやすく教えてくれるかな?



 大量の疑問符をまき散らすジョーに、クララがくすりと笑ったのはその時だ。



「あら…。昨日、あんなに素敵なデートにレディを誘っておいて、この手の情報には(うと)いんですのね。」



「………っ」



 おいこら、そこ。

 なんで昨日の今日でデートのことを知っとんじゃい。

 〝素敵な〟って言う辺り、自分が巡ったコースも事細かに把握してやがるな。



 というか、今マウントを取ってくるなよ。

 勝負は帰ってからスタートだろうが。



「ノアが一人で満足してしまったので、私からご説明してさしあげますわ。互いの誕生木のネックレスを身につけ合うのは、ルルアでは永遠の愛を示す王道なんですのよ。」



「……へっ!?」



 ああ、そういうこと!?

 この手の情報って、恋愛事情のことでしたか!!



 大いにたじろぐジョーに、クララは説明を続ける。



「ルルアでは皆が当たり前に武術をたしなみますので、得意な武器によっては、指輪は邪魔になってしまうでしょう? そういった場合には、こうして誕生木のネックレスを贈り合うのです。故に、指輪と同等の価値と意味を持つと思っていただいて結構ですわ。」



「………」



「アルシード。どうか、受け取ってくれないだろうか。」



 ネックレスの意味を知ったジョーがそれに触れたところで、ノアが真摯(しんし)に告げた。



「これからまた、離ればなれになってしまうだろう? 本物には到底及ばないが、これで少しでも、お互いが近くにあるように感じられたらと思う。そして……これだけは忘れずに、いつでも覚えていてほしい。」



 自身もネックレスに手をかけ、ノアはほんのりと頬を染めてはにかむ。





「私が愛しているのは、ジョーではなくアルシードだということを。」





 その口説き文句の破壊力は抜群。

 意識が軽く吹っ飛んで、脳内が真っ白に染まってしまった。



(だから……わざわざ、僕の本当の誕生日を……)



 ここまで来たら、みなまで言われずとも分かるぞ。



 想いが通じ合ったらすぐに渡すつもりで、プロポーズをした後に即行で準備を始めたな?



 自分の誕生月がいつであっても大丈夫なように、全部の月の誕生木のネックレスを用意してあったに違いない。





(さすがは魔性の改革王……なんつー首輪だよ……)





 捕まえたからには、何があっても逃がさないってか?



 もう逃げないし、離してやらないから安心しろって、ちゃんと腹を決めて伝えたじゃないか。



 こんな形のあるものに縛られなくたって、自分の心はもう……



「………っ」



 だめだ。

 一度収めたはずの動揺が、先ほどとは比べ物にならない密度であふれ返ってくる。

 顔が熱くて仕方ない。



 ジョーは手の甲で口元を隠し、ノアから上半身を背ける。

 必死にごまかそうとしても意味はなくて、その顔は耳まで真っ赤。



 そんな彼の姿は、ノアどころか両親も見たことがないほどにレアなものであった。



「ア……アル…っ」

「あら。セレニアの悪魔も、ちゃんと人の子だったんですのね。」



 唐突な胸キュンポイントにハートを撃ち抜かれるノアと、少しだけ意外そうに眉を上げるクララ。



 そんな二人の反応も、今ばかりは意地やプライドで取り繕ってあしらうことができなかった。



 ―――ピピッ、カシャッ



「……ん?」



 ―――カシャッ、カシャカシャッ



「ねぇ、ノア……なんで、写真なんか撮ってんの。」



「……はっ。アルがあんまりにも可愛いもんだから、手が勝手に…っ」



「今すぐ消して。」



「……壁紙にしたらだめか?」



「バッカ!! いい大人が恋人の写真を壁紙にするなんて、イタイにも程があるわ!!」



「いつでも会える距離じゃなくなるんだから、それくらい許してくれよ!!」



「このネックレスの意味は!?」



「ネックレスは安心のため! 写真は癒しのためだ!!」



「分かった! 写真は消さないでいいから、壁紙だけは勘弁!! 楽しむなら、せめて誰も見てない時に一人で楽しんで!! 本当にお願いします!!」



「分かった、そうする! ってことで、せっかくならもう二~三枚……」



「僕の黒歴史を増やすなーっ!!」



「そう思っているのはアルだけだ! 素直で可愛いことの何が悪い!!」



「お二人とも~? このままイチャつくなら、お邪魔虫は退散いたしますわね?」





「待って!! お願いだから、この暴走王を止めてくれ―――っ!!」





 なんとも賑やかな応接室。



 ここでの出来事を、今後定期的に蒸し返されてはからかわれる(ノアとしては愛でているだけ)ことになると、この時のジョーはまだ知らない。



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