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ラウンド33 人生最大の汚点更新

 何かを思い立ったノアは、爆走列車状態で駐車場に向かっていった。



 なんだかそのまま彼女に運転をさせたら、スピード違反で免停なんてアホなことになりそうだったので、どうにかなだめて運転席を死守。



 早く早くと()かすノアの案内で到着したのは、一軒の装飾品店だった。



「うふふ。まさか、ノアの恋人がこんなに可愛い方だったなんて。」



 通された応接室で、おっとりとした女性が朗らかに笑った。



「はじめまして。当館のオーナーを務めております、クララと申します。ノアとは、学生時代からの親友なんです。」



「あ……えっと……」



 ジョーは狼狽(うろた)えて視線をさまよわせる。



『クララーッ!! ジェルクだったー!!』



 店に入るや否や、ノアがよく分からないことを叫びながらクララに抱きつき、そのまま黒服のボディーガードに脇を固められて応接室に連行されて今。



 一体何が起こっているのか、自分にはさっぱりだ。





「ここには他人の目はありませんので、どうぞ楽にしてくださいな。―――()()()()()()()。」

「―――っ!?」





 自己紹介もしていないのに、戸籍上の名前ではなく本来の名前で呼んできたクララ。



 当然情報の出所なんて一つしかないので、意識するよりも早く隣のノアを睨んでしまった。



「怒らないであげてくださいな。あなたと会えないのが寂しくてたまらないから、どうしたら気を引けるのかと、何年も相談を受けていたのです。その中で、ごく自然にあなたの本当のお名前を聞いたのですわ。この子ったら、自分でも気付かないうちにアル、アル、アルと……」



「クララ…。私は決して、そんな風には……」



(わたくし)にはそうとしか聞こえませんでしたわ。だから言ったじゃありませんか。今さらお気付きになったのって。」



「うう…っ」



 親友には敵わないのか、ノアがしゅんと肩身を狭くする。

 そしてその姿勢のまま、上目遣いでちらりとジョーを見た。



「すまない。クララの言ったとおりで……お前のことを相談しているうちに、うっかりとアル呼びをしてしまっていて……」



「……別にいいよ。セレニアでは都合が悪いってだけで、ルルアでまではアルシードの名前もそこまで広まってないだろうし。」



 なんとか冷静さを取り戻し、ジョーはソファーの背もたれに体を預ける。



 ごめんなさいね。



 本音は今、自分の名前をばらされていたことよりも、あなたが何年も自分を想い(わずら)っていたという事実と、その思わぬ可愛い仕草の方に動揺してます。



(僕は馬鹿かよ。認めた瞬間にここまでベタ惚れになるってことは、ノアの言うとおりで、ずっと前から好きだったんじゃん。なんで少しも疑問に思わずに、ノアからの連絡をスルーしてたんだろ。)



 今考えると、ほとほと自分に呆れる。

 アルシード・レイン、人生最大の汚点を更新した瞬間だった。



「まあ、(ほの)暗い世界では、偽名を使っている方なんてごまんといらっしゃいますわ。当館はその辺りの事情に精通しておりますので、秘密厳守はお約束できますの。」



「そうですか…。では、どうぞよろしくお願いいたします。」



(クララ……この人がクララ・ベスティルか。ルルアきっての情報通が親友とは……相変わらず、切り札が強力なことで。)



 会釈(えしゃく)程度に頭を下げながら、考えていたのはそんなこと。



 そして頭を上げると、かち合った視線の先で、クララの紫色の双眸が意味ありげに弧を描いたのが分かった。



(向こうも、ノアの話がなくたって、僕のことを知ってたみたいだな。)



 これはこれは。

 この先、彼女とは浅からぬ縁になりそうだ。



 ひとまず第一試合は、どちらが先に相手を丸裸にするか……といったところか。



 すでに自分の最大の秘密が知られているというハンデがありはするが、負けるつもりはないので、どうぞ楽しみにしていてくださいな。



「なんだ…? お前ら二人、テレパシーで会話でもしておらんか? オーラが不穏なんだが…?」



「あらあら、そんなことはありませんわ。」

「そうそう。ただ挨拶をしてただけだよ。」



 お互い、ノアが大切な存在であることは助かったな。

 ノアがいる以上、多少遊んだ後は自然と手を組むことになるだろう。



 生か死かの情報戦争が、軽い実力合戦で済むのは大きい。



 こういう好戦的な性格が無駄に敵を作るのだと。



 分かっちゃいるけど、才能一本だけでは制することができないこの戦いが楽しいんだよね。



 第一、勝負を吹っかけてきたのは向こうだもん。



「うふふ……」

「あはは……」



 今後の情報界を牛耳ることになる最強コンビ。

 その出会いは、(なご)やかとも不穏ともつかないものだった。



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