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59 外側の問題(カニ玉)

 師走である。

 忘年会である。


 みなさんの会社の忘年会は、自由参加だろうか。うちも自由参加だ。ただし、新入社員研修で返事は「はいか、Yesか、喜んで!」と洗脳されている。


 そんなわけで、部署全員で鍋を囲んでいる。

 カニ鍋。

 はい、罪である。


 一人一本が配当分なのか。爪は誰が食べるのか。

 酔いがまわればまわるほど、カオスは極まってくる。

 もう一本は食べた。殻はほじくりつくし、ストロー状態になっている。物足りない。

 鍋の中でぐつぐつ煮えるカニを見ては、食べていいのか悩む。

 幹事が頭を悩ませまくって作った席次は、乱れに乱れ、同じ鍋を囲んでいたメンバーはいない。


 せっかくのカニがもったいない。


「中谷~、飲んどるか?」


 ビール瓶を片手に、もう片腕で肩が抱き寄せられる。

 トゥクンと、胸が高鳴った。

 ビールを受け、ご返杯し、ついつい頬が緩む。


「先輩、カニ食べませんか?」


 いそいそと煮えたカニをよそい、先輩と自分に一本ずつ。

 へーへー、ほーほーと相槌を打ちながら食べる。


 それでもカニはまだ残っている。しかし、もうこれ以上は食べられない。

 何せ、カニは殻が皿に残る。

 誰が見ているかわからぬ状況で、皿に二本分の証拠を積み上げるわけにはいかない。

 こうして、大変悔しい中で、水を頼むことを許されない忘年会が終わった。



 翌朝、脱水症状を軽く抱えて、近所のスーパーへ行く。

 もう忘年会は一年後くらいでいいし、カニ鍋は嫌だ。

 カニのような高級品、しかも殻をむくのに手間がかかる食べ物は、しばらくいい。

 庶民的で、すぐ食べられて、うまい。そんなもんが食いたい。


 フラフラと鮮魚売り場までたどり着いたとき、冷凍コーナーに信じられないものを見つけた。


「……凄ぇ」


 カニのむき身、500g

 お値段2000円


 速攻で、カゴに入れる。


 何これ。

 アルコールに浸った脳が、活性化する。


 忘年会の会費は10000円、それよかだいぶ安い。

 なのに、カニ食べ放題!

 しかも、殻もなぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!


 殻つきで500gって言われても、買うかもしれん。

 だって、殻からは出汁が出るから。

 でもさ、毎回思う。

 カニの中身だけたらふく食べてみたい。


 あれよ。

 まるで本物のカニなかまぼこじゃないんだよ。

 あれはあれで好きだけど、いいお値段もするわけで。


 今回のは、本物のカニよ。

 ん? 違う?

 思わず、カゴに入れたカニのパウチをひっくり返してしまう。

 原材料にカニとあった。

 まごうことなきカニぃぃ!!


 もう、何作る?

 どうしたら、このカニのむき身500gのポテンシャルを最大限に生かせる?


 カニ鍋? いやいや、昨日食べたし、あれは殻の出汁がいるかもしれん。

 カニパスタ? クリームのがよさげ、でもな、もっといけるでしょ。

 カニと卵の雑炊? 昨日食べたかったやつ! あかん、もう忘年会に引きずられるのはやめよう。

 カニグラタン? よさげ。カニをいかすなら、ホタテはやめる? 鶏もやめたほうがいいか? いや、それより甲羅に入れたい――ないけど。

 カニクリームコロッケ? 好きなんだよなー。でも揚げ物は作らんし。次!

 カニチャーハン? いいねいい。カニをたらふく入れて、ご飯で腹いっぱいになって……。

 よだれが出る。


 待てよ。カニチャーハン作っても、まだ残るんじゃね?

 恐ろしい子!


 思わず、カゴに入ったカニのむき身500gを見てしまう。


 まだ、イケるな?

 カニ玉は? カニ玉好きなんだよね。あぁ、なら天津丼みたいに白米の上に乗せてもいいかもしんない。


 来たときには、ゾンビのように緩慢だった動きが、帰りはシャカシャカ歩けてしまう。スーパーの袋には、卵が2パック。そしてカニのむき身500g!

 こんなの生まれて初めてだ。


 アパートの鍵を穴に差すのももどかしく、帰るなり炊飯器をセットする。

 ボウルを出して、卵を割る。

 黄色い液体に、真っ白なカニのむき身を「そのまま」投入!

 ほぐすなんてしない!

 俺には、500gあるのだから!


 赤いカニが卵に混ざり、箸で混ぜるたびに主張する。

 たっぷり入っておるな?

 わかっているとも。


 ごま油をひいたフライパンが熱を帯び、ショウガの香りに腹が鳴る。

 煙を出し始めたところに、卵液を流し込むと、音がして油が跳ねた。


 ふくらみを菜箸で突き、フライパンを揺らす。

 固まっていく卵液の中で、カニが躍る。

 ニヤニヤがとまらない。


 小さく刻んだネギを投入し、ふわふわとろとろのまま、炊き立てのご飯の上に投入!

 鶏ガラスープと醤油、砂糖で作ったあんに片栗粉を混ぜて、とろみをつける。

 黄色と赤のカニ玉に、琥珀色のあんをとろりとかける。



 木のスプーンで一口すくう。

 眼鏡が曇る。

 ふーふーと息を吹きかけるだけで、よだれがたまる。

 主張するカニのむき身ごと、大きな口でばくっといただく!


 卵のやわらかさに、カニぃ!と主張が入る。

 はふっ はふぅ

 無心でかきこむ。


 あぁ、満ち足りた。

 こうやって食べてみたかった。

 幸せだ。

 これぞ忘年会。


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